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PLAY MUSIC to ECCENTRIC
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ナトリを見上げた真樹の表情はただ真っ直ぐで、濁りなく。
「あの時真樹が空から、降ってこなかったら俺だってここにはいないよ真樹、」
思い出される中一の、丁度三年前の今頃で。
「俺にクラスの場所くれたから」
「俺だって、家なくてももういいやって」
そうだっけ。
ふとナトリが文杜を見る。文杜は横目でナトリを見て、少しあっさりと笑った。
「あれは痛烈だったな、文杜」
「まあそうかもしれない。でもさぁ、君が「綺麗だなぁ」なんて言うんだ。どうでもよくなったよ」
「そんなバカ担当は真樹じゃないか?」
「いや、真樹はそれ聞いて笑ってたよ。けっけっけ、なーんつって。こいつらやっぱ頭おかしいなって、でも、何してたんだ俺ってあん時思ったわ」
「そんなことがあったの君たち」
黙って見ていた西東が言う。
「そーですよ」
「あんたら二人がなんだか知らんがね、俺らもそこそこ」
「…苛められたり家燃やしたり」
「いやお前もわりとな」
「どうかな、俺は…」
「あーだめ俺も我慢できないナトリ、真樹貸して今だけ」
「はいよ。解禁」
軽々とナトリの腕から文杜の腕へ譲渡された真樹は、やはりすっぽり納まって、猫背の文杜に最早包まれ、文杜はとても穏やかな表情で真樹の後頭部に鼻先を埋めた。
「だから、真樹、人でなしでいいよ。ねぇ。俺お前らとそうしてたいの。ねぇ、そんな夢ホントは観たい。それしかないからさぁ。それが好きなの。それに身を投じるから、ねぇ」
「文杜、あの…」
「なぁに?」
「なんで今勃起したの」
「あまちゃんってそんな匂いす」
すかさずナトリが文杜の頭をぶっ叩いたが、文杜は至って何事もない表情で変わりない。思わず真樹は「ふっ、」と漸く吹き出して笑った。
そんな男子高生三人を見て素直に西東は、微笑ましく、「はいはい」と声を掛ける。
「じゃぁ、やろう。鬼のようにやろう。明日がないと感じるほどに。
でも今日は、まぁ、僕のくだらない戯れ言でも、聞いて行きなよ」
けして夢を観たいだなんて今更思わないけど。
この子たちに夢を観せる手伝いくらいはしてやりたいから。
「…僕が僕であり続けるために、君たちが君たちであり続けるために、陽介だって一緒だ。
それを夢だと、僕は思わない。だけど、とても難しい。ただ、それでも未来はそうシンプルに見ないと、呼吸は出来ないから」
何を言いたいのか。
相手の心理を図り知ろうと、子供たちは考える。
その純粋な目はきっとあの頃の僕よりは、遥かにマシかもしれないけど。
何分君たちは、僕なんかよりも、ずっと。
西東がふと、落ち着くような仕草で深呼吸をした。胸に手をあて、目を閉じて考えているようで。
自分達も考えてみる。
この人は一体。
人がこんな仕草や表情をするのは、今の自分達には、覚えがあって、記憶はない。多分過去の話だの回想だのが出てくるんだろう。そしてこれはわりと、楽しくないやつ。この人ってじゃぁなんなの、俺たちはなんなの。
聞いていいの、話していいの?
何が、待ち受けるの。
人の気持ちはわからない。
人の言葉だってわかってるかなんて、自分に届いてるかとか正直わかんない。
けどだけど。
そこには空気がある。
空虚もある。
目に見えない何かが存在する。
他者との間には確実にそれがある。
それを感じる行為はなんて難しく。
しかし風のような現象、水のような存在、宇宙のような心理であると、気付く瞬間をこの青春に置いて。
何時間、誰がどれだけ話したのか、最早わからなかった。
後半から想いは乗ってしまった。しかし気持ちは共有出来たのか、正直わからないほどにそれぞれの話が、少しのエキセントリックを産んだ。
傷付けないそれぞれの尺度を計り、なんとなく身の上を話したような気がする。
そんなことは初めてだった。
改めて、西東が言う。
「僕は音楽が好きなんです。でもそれは、確かにそうだけど、好きなものと嫌いなものがあります。
僕が、君たちに、『世界がどれだけ淀んで美しいか、見せてあげようじゃないか』って言ったの、覚えてる?
日本でだっていい。僕は、外の世界が、あの空が、あの、陸橋から落ちて死にかけたときのサンフランシスコでの空が忘れられなかったから」
「西東さん」
ナトリがふと声を掛ける。それを西東が見つめ返せば立ち上がり、黙ってドラム台についた。
「大丈夫だよ西東さん。ここ日本で俺台湾だから」
「…ふっ、
ナトリの言う通りだ。
嫌いって言ってごめんなさい。けど、まぁ苦手で。俺半分以上優しさで出来てるからグロいのちょっとムリなの。はい、真樹ショボくれてないで」
と文杜が笑って言えばバシバシ、とタイコが鳴る。にやりと笑い、立ち上がって真樹の頭を撫でてナトリの元へ行く背中。
真樹はそのまま。
少し潤んだ茶色いビー玉で西東を捉える。
「どうやら、やるらしぃん、だけど」
「うん、そうだね」
「西東氏」
「はい、どうしたのあまちゃん」
「あとちょい頑張るらしい」
「うん、わかった。人でなしになるらしいね、あまちゃん」
「うん。まだだったみたいだ」
「よし、はい、みんな!あと一回ね!合わなかったら契約破棄。真面目に就活してくださいね今から」
皆笑い合って「いやあんたに言われたくねぇし」だの、「まだ500借りれてないんじゃない?」だの、「契約誰かしたの?」だの西東にツッコミを入れる。
「可愛くないガキ!早く!僕気が短い!」
久々に、楽しくplay。3人と、1人で。
「あの時真樹が空から、降ってこなかったら俺だってここにはいないよ真樹、」
思い出される中一の、丁度三年前の今頃で。
「俺にクラスの場所くれたから」
「俺だって、家なくてももういいやって」
そうだっけ。
ふとナトリが文杜を見る。文杜は横目でナトリを見て、少しあっさりと笑った。
「あれは痛烈だったな、文杜」
「まあそうかもしれない。でもさぁ、君が「綺麗だなぁ」なんて言うんだ。どうでもよくなったよ」
「そんなバカ担当は真樹じゃないか?」
「いや、真樹はそれ聞いて笑ってたよ。けっけっけ、なーんつって。こいつらやっぱ頭おかしいなって、でも、何してたんだ俺ってあん時思ったわ」
「そんなことがあったの君たち」
黙って見ていた西東が言う。
「そーですよ」
「あんたら二人がなんだか知らんがね、俺らもそこそこ」
「…苛められたり家燃やしたり」
「いやお前もわりとな」
「どうかな、俺は…」
「あーだめ俺も我慢できないナトリ、真樹貸して今だけ」
「はいよ。解禁」
軽々とナトリの腕から文杜の腕へ譲渡された真樹は、やはりすっぽり納まって、猫背の文杜に最早包まれ、文杜はとても穏やかな表情で真樹の後頭部に鼻先を埋めた。
「だから、真樹、人でなしでいいよ。ねぇ。俺お前らとそうしてたいの。ねぇ、そんな夢ホントは観たい。それしかないからさぁ。それが好きなの。それに身を投じるから、ねぇ」
「文杜、あの…」
「なぁに?」
「なんで今勃起したの」
「あまちゃんってそんな匂いす」
すかさずナトリが文杜の頭をぶっ叩いたが、文杜は至って何事もない表情で変わりない。思わず真樹は「ふっ、」と漸く吹き出して笑った。
そんな男子高生三人を見て素直に西東は、微笑ましく、「はいはい」と声を掛ける。
「じゃぁ、やろう。鬼のようにやろう。明日がないと感じるほどに。
でも今日は、まぁ、僕のくだらない戯れ言でも、聞いて行きなよ」
けして夢を観たいだなんて今更思わないけど。
この子たちに夢を観せる手伝いくらいはしてやりたいから。
「…僕が僕であり続けるために、君たちが君たちであり続けるために、陽介だって一緒だ。
それを夢だと、僕は思わない。だけど、とても難しい。ただ、それでも未来はそうシンプルに見ないと、呼吸は出来ないから」
何を言いたいのか。
相手の心理を図り知ろうと、子供たちは考える。
その純粋な目はきっとあの頃の僕よりは、遥かにマシかもしれないけど。
何分君たちは、僕なんかよりも、ずっと。
西東がふと、落ち着くような仕草で深呼吸をした。胸に手をあて、目を閉じて考えているようで。
自分達も考えてみる。
この人は一体。
人がこんな仕草や表情をするのは、今の自分達には、覚えがあって、記憶はない。多分過去の話だの回想だのが出てくるんだろう。そしてこれはわりと、楽しくないやつ。この人ってじゃぁなんなの、俺たちはなんなの。
聞いていいの、話していいの?
何が、待ち受けるの。
人の気持ちはわからない。
人の言葉だってわかってるかなんて、自分に届いてるかとか正直わかんない。
けどだけど。
そこには空気がある。
空虚もある。
目に見えない何かが存在する。
他者との間には確実にそれがある。
それを感じる行為はなんて難しく。
しかし風のような現象、水のような存在、宇宙のような心理であると、気付く瞬間をこの青春に置いて。
何時間、誰がどれだけ話したのか、最早わからなかった。
後半から想いは乗ってしまった。しかし気持ちは共有出来たのか、正直わからないほどにそれぞれの話が、少しのエキセントリックを産んだ。
傷付けないそれぞれの尺度を計り、なんとなく身の上を話したような気がする。
そんなことは初めてだった。
改めて、西東が言う。
「僕は音楽が好きなんです。でもそれは、確かにそうだけど、好きなものと嫌いなものがあります。
僕が、君たちに、『世界がどれだけ淀んで美しいか、見せてあげようじゃないか』って言ったの、覚えてる?
日本でだっていい。僕は、外の世界が、あの空が、あの、陸橋から落ちて死にかけたときのサンフランシスコでの空が忘れられなかったから」
「西東さん」
ナトリがふと声を掛ける。それを西東が見つめ返せば立ち上がり、黙ってドラム台についた。
「大丈夫だよ西東さん。ここ日本で俺台湾だから」
「…ふっ、
ナトリの言う通りだ。
嫌いって言ってごめんなさい。けど、まぁ苦手で。俺半分以上優しさで出来てるからグロいのちょっとムリなの。はい、真樹ショボくれてないで」
と文杜が笑って言えばバシバシ、とタイコが鳴る。にやりと笑い、立ち上がって真樹の頭を撫でてナトリの元へ行く背中。
真樹はそのまま。
少し潤んだ茶色いビー玉で西東を捉える。
「どうやら、やるらしぃん、だけど」
「うん、そうだね」
「西東氏」
「はい、どうしたのあまちゃん」
「あとちょい頑張るらしい」
「うん、わかった。人でなしになるらしいね、あまちゃん」
「うん。まだだったみたいだ」
「よし、はい、みんな!あと一回ね!合わなかったら契約破棄。真面目に就活してくださいね今から」
皆笑い合って「いやあんたに言われたくねぇし」だの、「まだ500借りれてないんじゃない?」だの、「契約誰かしたの?」だの西東にツッコミを入れる。
「可愛くないガキ!早く!僕気が短い!」
久々に、楽しくplay。3人と、1人で。
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