天獄

二色燕𠀋

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欲動

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 数はわからないが薬をカラカラと取り出し、ガリっと噛む。
 「全く…」と言うがそもそも誠一のせいなのだ。

 そのまま暫く誠一は髪を撫でながらタバコを吸い、「本当に覚醒剤系か…」と呟いた。

「…最近合法と言うか脱法も増えたしなぁ、女の子じゃハーブも受けが良いし」

 俺も薬中みたいなもんなんだけどな。

 腹のむず痒さも治まってきた頃、誠一は見下ろし「どう?」と聞いてきた。

「うん、」
「そっか、風呂入って血行も良かったのか」

 原因に行き当たったようで、考え始めたようだ。
 まぁ、自分は症状も軽い方だ、薬を飲めば大体大事にもならないと、向き合って数年でわかった。

 だから余計にこういう誠一に腹が立つ面もあれば、可愛らしいと思える面もある。勿論、そうでもあっても勘弁して欲しいが。

「こっちは治まらないねぇ、慧」

 誠一がすっと、股間に手を伸ばしてきた。
 遊ぶように出っ張りの先を揉み揉みし、「ついね、」と言う。

「肌、紅くなるんだね」
「ん」

 ダルさが勝っている。

 賢者タイムも興奮も同時に来ているようで、頭も身体も混乱しそう。
 薬も飲んで…ほぼ死ぬこともないというこの怠惰な状況が、心に影を落としそうだった。

「わかっては、いるんだけどさ。こんなに酷いとは思わなかったな」

 グリグリ、グリグリと調子に乗り始めた誠一に「待って…」と声が枯れている。

「…普通、する?」

 おかげで血行良くて皮膚が痒いような、とにかくもどかしいんだけども。

「じゃ、する?」

 そう言いながら誠一は自らの股間を指差し、寝ていて抵抗もしないからか、頬にグリグリと押し付けて来た。

 ちょっと硬い。

 相変わらず最低だなと思うのに、自分はそれに従い誠一のズボンを少し下げ、パンツの開きからそれを出している。

 思っていることとやっていることが伴わない。まるで、中和しそればかりが取り残されてしまったような身体。

 しかしその前に「慧」と呼んで頭を垂れる誠一に、仕方もなく少し起き上がりキスをする。
 食まれ、そして舌が入り込みくちゃくちゃと交ざる頃には後頭部を緩く掴まれ、まるで逃がしてくれそうもない、舌を追い回された。

 口を離すと、彼は頭を支えていた手でそのまま首を股間に向けてきた。
 自然とうつ伏せ状態になり、先をペロッと舐め、それから徐々に徐々に深く口に含むと、「なんでも首突っ込んでっちゃうんだから」と頭を撫でてくる。

「…吸わなきゃよかったのに、」

 そう言われたので少し吸ってみると、「…ホント、悪い子」だなんて言う。
 髪を撫でるように耳に掛けてくれるついでに、ピアスに触れてきた。

「まぁ、この…?背徳感が…堪らないんだけどね」

 よく知ってるよ。

 本当によく捕まらないものだ、この、淡白そうな顔をした法律の犬は。きっと、出世頭というのは強ち誠一の傲りではないだろうと思っている。

 まるで飼い猫か何かのように、優しい手付きで頭を撫でながら「下、手ぇ伸ばせる?ローション取ってよ」と言うのも下衆な話だ。

 深くそれを食べながら、誠一に言われた通り足元にある引き出しを開ける、それら一式が整頓されて置いてあった。

 持ち変えた左手がぎこちない。

 ボトルを渡す。

 ねちゃねちゃと弄び、 誠一はパンツの中に手を侵入させ、入り口をくちゃくちゃと弄り始めた。
 入ってすぐの場所ばかりを攻められ、そのうちどうしようもなく脳まで痺れ始める。

 前に、そういえば誠一に聞いたことがあった。あんたは、何故マトリになったの?と。

 熱に手を伸ばそうとすると「まだダーメ」と制されてしまった。その、苛めのような現象につい、非難するように見上げると、誠一はやはり意地悪な顔で笑っていた。

 くりくりと苛められるのに、それを咥えている場合でもなくなる。

「随分慣れたよねぇ……こんなこと」

 喉が痙攣しそうで言い返すことも出来ない。
 力も入らなくなった左手を包むように誠一は手を添えてくる。
 まるで集中しろとでも言うようにぐちゃぐちゃ、指が割って入って来るのだからどうしようもない。

 アドレナリンで死にそうだ。

 たまに希死念慮が自分を犯しに来る感覚はこれに似ている。死にたくて死にたくて仕方がない、この先の解放を夢見るからだ。

 腹の中を引っ掻くように撫でられ「っ…く、」と声が捻り出る。

 ドーパミン、アドレナリン、アルカロイドと一気に波が身体に押し寄せる。熱い、下腹部がどうしようもなく熱い。この現象が苦しくて、誰かに助けを求めたくなる。

 ふいに、誠一を喜ばせていた左手がぐいっと取り上げられた。

 どういうことかと見上げれば、彼は静かに、その手を火照った頬へ誘い、まるで慈しむ目で自分を見ていた。

「………」

 右手で眼鏡に手を掛けてやると、誠一は少しだけ苦しそうに笑い、指を抜く。
 誠一が「おい…」と何かを言いどもり、ちらっと左足を見たことに、痙攣しているのだと自覚した。

「…ベッド行こうか」

 それはとても穏やかだが、何かを押し殺した声。

 自分から誠一の口を犯しにいけば、彼は静かに目を閉じ、痙攣した左足をゆったり、解すように撫で回してきた。

『人は最期、どんな幻覚を見るのかなって。闇だろ?それ』

 あの時確か、そう言っていた。
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