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破壊衝動
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その頃江崎は花咲組という、中くらいの規模の組織に嫌われていたらしい、それはあの日に知ることとなった。
ライブハウスで使われていた薬は花咲組が取り扱っていたものだったそうだ。
「…花咲だと?」
誠一は淡々と「よかったですね江崎さん」と言った。
「当たり前だ、何回言わせんだ、ウチは薬はやってない」
「…別にいいんですけど、ヤクザの親玉はみんなそれ言いますから。
下っ端はお目溢ししてるでしょ、怪しいの何件かありますからね。おかげでウチがいるわけですし。
まぁ、これは恫喝ではなく。上手く活用出来ないかなと考えまして」
誠一はタバコを出して火をつけた。
ついでというように淡々と、「吸いたかったらどうぞ」と江崎に勧めていた。
「…例えば、ですけど。花咲組が江崎さんを潰したかったのだとしたら、どうです?」
「…は?」
「ヤクザの価値観は俺にはどうでもいいんですが、さっきこの子を聴取してた人ね。あれ、花咲の組員を飼ってるんですよ」
「は?」
「多分ね」
…それは一体、どういうことだ。
「…バカらし。んなんやるのは精々サツくらいだろ。しかも、飼われれば案外バレるぞ、つまり都市伝説だ。ましてやマトリなんて」
「じゃあ聞いてみます?加賀谷くん、あの人誘導尋問じみてなかったかな?まるで、花咲ではないとでも言いたそうな」
「……花咲って名前は知らないんだな?とは確かに言われましたが…」
「やっぱりね。
マトリがヤクザ飼うメリットとしては潜入捜査等のリスク回避、その他もありますが、我々にはノルマなどもあります。
花咲は規模で言えば中くらいですからね、あんまり賢くない先輩だなと思いますが、そもそもヤクザにとってもメリットがないと飼われてくれないでしょ」
「…それが、いまみたいな状況だって言いたいのか、兄ちゃんは」
「そうですね、これもそうですが、まずそれだけでは懐柔できません、あんただってそうでしょ?」
「そうだな、胡散臭ぇ」
「話を戻しましょうか。花咲はマトリに飼われていても薬売れてるんですよ。どういうことかわかります?」
「…黙認、てことですか?」
「そういうこと。
大分前から飼われてるからそこそこ大きくはなったが、そろそろ悪目立ちもしている。いま、警察より早く検挙したらめちゃくちゃ株が上がるんですよね。
あんたにも悪い話じゃない筈ですが?」
「一時の判断では危険だな」
「だから、あんたなんですよ。そもそもあんたの上、巽一家はすでに結構な規模だ。あとはどこかを潰さないと、もう限界まで来てますよね?巽の若頭1候補としては、今後どうされるおつもりで?」
誠一はそう江崎に畳み掛けたのだった。
「ですが、まぁ、俺にも限界がありますしと思えば…そうそう最近バンドマン逮捕率が高いんですよね。いいのがいるなって」
なるほど…。
しかし江崎は「待てよ坊っちゃん」と誠一に言ったのだった。
「てめぇと俺のメリットデメリットはトントンだろう、ここは納得したが、こいつはどうだ、堅気だぞ?正気かお前」
無言で誠一がこちら…手元を見てきた。
それにはっとした江崎は「待てよ、おい」とそれを制するかのように言ってくれたのだが。
「違いますよ、これは」
そう、確かにあのときその場で降りることは出来た。
「確かに後遺症ですけど、医療ドラッグって言い方しときます。俺、一回自殺未遂してるんで」
特に取っ掛かりもなく言ったのだけど、両者それぞれが呆気に取られた表情だったのは今でも、覚えている。
「…あるあるですよ、こんなこと」
そんなことを平気で喋った自分がいまでも信じられないが、その程度のことだと思うのも事実だった。
コンコン、と窓ガラスが叩かれて気が付いた。
しかし、こちらが反応するよりも早く、というか構わずに江崎は後部座席に乗り込んできて、「終わったわ」と言った。
当たり前にタマが運転席に座り、景色は前触れもなくさっきまでの現実に戻ってきた。
「珍しいな、何もしないで待ってたんか」
「確かに珍しいかも」
「あれからなんか返ってきたか?」
そうだった、忘れていたなと思ったが「ま、別にいーわ」と、やはりこちらが反応する前に江崎はぽん、と頭に手を置いてきた。
そして機嫌も良さそうに、「タマ、3掛けて」と指示をする。
「はい」と従い掛かったカーステレオ。無難なような音楽で、ドラムの音も単調、特にピンと来なくてぼんやりと窓を眺めたが。
少し高めなような、中性的なような、最近っぽさ、すべらかな英詞を聴いて何故かすぐに「リンキンだ」と思い当たった。
特別聴くアーティストではない。
「珍しい…てか、意外…」
ぱっと江崎を見るとニヤッと笑い「そうか?」と…どこか得意気にも見えた。
「…うん。なんというか地味にコアですね…」
「あ、そーゆー認識なんか、若いのには」
「え、世代差あります?ついこの前まで一応やってたじゃないですか」
「まぁなぁ。いきなりチェスターが死んでビックリしたもんだ」
「…まぁ、俺も詳しいわけじゃな」
「自殺だったらしいぞ。全米1位だったのに」
「らしいですね…」
というか、確かに歳上ではあるだろうが、江崎もまだ若い世代だ。多分、ヤクザなんかじゃ特に。
ライブハウスで使われていた薬は花咲組が取り扱っていたものだったそうだ。
「…花咲だと?」
誠一は淡々と「よかったですね江崎さん」と言った。
「当たり前だ、何回言わせんだ、ウチは薬はやってない」
「…別にいいんですけど、ヤクザの親玉はみんなそれ言いますから。
下っ端はお目溢ししてるでしょ、怪しいの何件かありますからね。おかげでウチがいるわけですし。
まぁ、これは恫喝ではなく。上手く活用出来ないかなと考えまして」
誠一はタバコを出して火をつけた。
ついでというように淡々と、「吸いたかったらどうぞ」と江崎に勧めていた。
「…例えば、ですけど。花咲組が江崎さんを潰したかったのだとしたら、どうです?」
「…は?」
「ヤクザの価値観は俺にはどうでもいいんですが、さっきこの子を聴取してた人ね。あれ、花咲の組員を飼ってるんですよ」
「は?」
「多分ね」
…それは一体、どういうことだ。
「…バカらし。んなんやるのは精々サツくらいだろ。しかも、飼われれば案外バレるぞ、つまり都市伝説だ。ましてやマトリなんて」
「じゃあ聞いてみます?加賀谷くん、あの人誘導尋問じみてなかったかな?まるで、花咲ではないとでも言いたそうな」
「……花咲って名前は知らないんだな?とは確かに言われましたが…」
「やっぱりね。
マトリがヤクザ飼うメリットとしては潜入捜査等のリスク回避、その他もありますが、我々にはノルマなどもあります。
花咲は規模で言えば中くらいですからね、あんまり賢くない先輩だなと思いますが、そもそもヤクザにとってもメリットがないと飼われてくれないでしょ」
「…それが、いまみたいな状況だって言いたいのか、兄ちゃんは」
「そうですね、これもそうですが、まずそれだけでは懐柔できません、あんただってそうでしょ?」
「そうだな、胡散臭ぇ」
「話を戻しましょうか。花咲はマトリに飼われていても薬売れてるんですよ。どういうことかわかります?」
「…黙認、てことですか?」
「そういうこと。
大分前から飼われてるからそこそこ大きくはなったが、そろそろ悪目立ちもしている。いま、警察より早く検挙したらめちゃくちゃ株が上がるんですよね。
あんたにも悪い話じゃない筈ですが?」
「一時の判断では危険だな」
「だから、あんたなんですよ。そもそもあんたの上、巽一家はすでに結構な規模だ。あとはどこかを潰さないと、もう限界まで来てますよね?巽の若頭1候補としては、今後どうされるおつもりで?」
誠一はそう江崎に畳み掛けたのだった。
「ですが、まぁ、俺にも限界がありますしと思えば…そうそう最近バンドマン逮捕率が高いんですよね。いいのがいるなって」
なるほど…。
しかし江崎は「待てよ坊っちゃん」と誠一に言ったのだった。
「てめぇと俺のメリットデメリットはトントンだろう、ここは納得したが、こいつはどうだ、堅気だぞ?正気かお前」
無言で誠一がこちら…手元を見てきた。
それにはっとした江崎は「待てよ、おい」とそれを制するかのように言ってくれたのだが。
「違いますよ、これは」
そう、確かにあのときその場で降りることは出来た。
「確かに後遺症ですけど、医療ドラッグって言い方しときます。俺、一回自殺未遂してるんで」
特に取っ掛かりもなく言ったのだけど、両者それぞれが呆気に取られた表情だったのは今でも、覚えている。
「…あるあるですよ、こんなこと」
そんなことを平気で喋った自分がいまでも信じられないが、その程度のことだと思うのも事実だった。
コンコン、と窓ガラスが叩かれて気が付いた。
しかし、こちらが反応するよりも早く、というか構わずに江崎は後部座席に乗り込んできて、「終わったわ」と言った。
当たり前にタマが運転席に座り、景色は前触れもなくさっきまでの現実に戻ってきた。
「珍しいな、何もしないで待ってたんか」
「確かに珍しいかも」
「あれからなんか返ってきたか?」
そうだった、忘れていたなと思ったが「ま、別にいーわ」と、やはりこちらが反応する前に江崎はぽん、と頭に手を置いてきた。
そして機嫌も良さそうに、「タマ、3掛けて」と指示をする。
「はい」と従い掛かったカーステレオ。無難なような音楽で、ドラムの音も単調、特にピンと来なくてぼんやりと窓を眺めたが。
少し高めなような、中性的なような、最近っぽさ、すべらかな英詞を聴いて何故かすぐに「リンキンだ」と思い当たった。
特別聴くアーティストではない。
「珍しい…てか、意外…」
ぱっと江崎を見るとニヤッと笑い「そうか?」と…どこか得意気にも見えた。
「…うん。なんというか地味にコアですね…」
「あ、そーゆー認識なんか、若いのには」
「え、世代差あります?ついこの前まで一応やってたじゃないですか」
「まぁなぁ。いきなりチェスターが死んでビックリしたもんだ」
「…まぁ、俺も詳しいわけじゃな」
「自殺だったらしいぞ。全米1位だったのに」
「らしいですね…」
というか、確かに歳上ではあるだろうが、江崎もまだ若い世代だ。多分、ヤクザなんかじゃ特に。
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