降りそそぐ灰色に

二色燕𠀋

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降りそそぐ灰色に

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 …すっげぇ冷めた。
 別に期待してたわけじゃないし、今日のも完全にあたしの不手際だけど。

 「なっ、」「えっ、」とバカップルが言う中、尚も「あー茜?」と引き留めてこようとするシンジが、実のところ一番ウザいのではないかと感じていた。

 じっとあたしを見つめた後、躊躇いがちにあたしの手を取った学がちらっと、振り向いた先はシンジだった。
 あたしが振り向いたことにたじろいだのかはわからんが、「えーと……」と、シンジはまだ何か言いたそうで。

 ウゼぇんだよと構わず出て行こうと決意したが、学があたしを引っ張りそれを阻止する。

「……何、学」

 スマホを取り出したシンジが「…次の対バン、覚えてっか…?」と聞いてきた。

「は?何が?」
「…確か、少し先のスタジオなんだけど…ちょっと待ってろ」
「はあ?」

  シンジはそのままスマホを耳にし、「もしもしすんません」とどこかに電話を掛ける。
 さっさと段取りを決めたようで、すぐに通話を切り、そして財布を出した。

 この前こいつが言ったことを思い出す。

 着いて行けていない様子のトシロウとみよ子に「はいよ」と金を渡したシンジは、あたしには「来い」とばかりに肩を叩いて促し、結局一緒に部屋を出た。

 学が手をちょんちょんとする。

 改めて見るとシンジは筋肉だし、じゃらじゃらピアスだし金髪でアゴヒゲだしなんか、厳つくて怖いよなと学を見たが、なんか、そんな感じでもないらしく…。

「ちと抜けねーか茜。今あっち電話したんだけど」
「…あっちって…?」
「対バンのグラシアのノリトさん……に電話したら、はは、ギタボの曽根原そねはらさんが出た」
「…え?」

 シンジは構わず進んで行き、タバコに火を点けながら「あの人声高ぇからさ」とは言うが、あぁ確かにそうだったような…。
 大先輩バンドだ。知り合いがめちゃくちゃいる人…絶対どこかで名前は聞くんだけどあまり…ピンと来ていない。

 けど。

「だから、何?」
「まぁ、あの人弾き語りばっかやってた時期もあったらしくてな」
「…はぁ、」
「最近バンドでもたまにやってて。そんときドラムってあれ使わねぇわけよ」

 …なるほど?

「あ、」
「そ。あそこのドラムのノリトさん、最近カホンも使うんだわ。ちょっと知りたいっつったらじゃあ来いってさ」
「…え?」

 外に出る。

 タバコが短くなり、揉み消そうと思ったのだろうか。シンジは学を見て、バツが悪そうにケータイ灰皿を取り出した。

「…ノリトさんってもしかして」
「エルグラにいたな」
「あの人か!」
「そう。
 メンバー編成から行くと、ベースもなんか、元はどっかでやってたらしい女の子。SM嬢やってたんだってさ、まぁ見りゃわかる。
 ギターもそう、どっかでやってて解散して、暫くサポートでふらふらしてたヤツらしい。パンクもオルタナも集まってああなってんだって」
「……あぁ、セカンドあるあるじゃん、大人しめになるやつ…」

 ぼそっと言うとシンジがなんか、更にバツが悪そうな顔をするので「あんたウチだけだから知らないだろうけど」と言っておいた。

「…ま、確かに…。
 まぁ真っ先に浮かんだのが、お前がいたサンシャインだ。
 確か、グラシアのその、ふらふらしてたギターのヤツがサポやってんの、見たことあんなってさっき思い出した」
「ふーん」
「未練ないんだなぁ、知らねえか?高峯たかみねってやつ」
「……あ、……っと、記憶の片隅に出てきたかも……抜けてすぐサポート入ったやつかな…あの……リード使ってるやつ、すっげぇ生意気そうな」
「生意気そうって。先輩なんだぞ一応。
 でもまぁ…同い年くらいだったかな?ウチよりは長ぇけど、間違いなく」
「あー完全にわかった。あれだ、楽屋で暴力事件起こしてやめた……」

 あ。

「そうだ、そんときそいつグラシアの前座やってたんじゃ…」
「いや詳しくは知らんけど。
 ノリトさんも子供いるし、そいつも既婚者だし、ベースもそんなだし。俺たちよりなんか、マシだろ」

 あんまりマシ要素、なかった気がするけど…。

「…てゆうか詳しいな」
「曽根原さんが言ってた」

 歩きながらちらっと学を見たシンジが「疲れたか?」と聞く。
 聞いたくせに返事は待たず、ぐいっと学を抱き上げた。

 ビックリしている。

「ちょっと、ビックリしてんだけど、」
「いやもうちょっと歩くし」
「にしたって、」
「軽いなこいつ。もっと食ってデカくなれや」

 よしよしと背を撫でられているが、学は完全に硬直してしまった。

「元々ネグ体質なんだよ、学の母親の母親は」
「なるほど。学っつーのか。いい名前だな。そんで連れて来ちまったわけね」
「………まぁ、」
「じゃ、今後も考えてねぇんだな?」
「…るせーなゴリラ」

 聞こえないフリをして「よー学。俺はシンジだ」と、硬直した学に自己紹介をする。
 下心を感じなくはないが、まぁ、今日は学がいるし…。

「……てめぇマジ、そのスタジオとやらじゃなかったらぶっ殺すかんな」
「子供の前で口悪ぃな、スタジオ以外にどこがあるっつーんだよ」
「下心を感じる」
「ははっ。無くはねぇけどねぇよ自意識過剰だな。いいから着いて来いよ。多分人生変わんぜ」

 んだよそのなんか、アブノーマルな場所行くときの口説き文句みてぇなやつ。

 本気でヤバかったら警察呼ぼ。こんな筋肉野郎には勝てない。
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