10 / 19
降りそそぐ灰色に
8
しおりを挟む
…すっげぇ冷めた。
別に期待してたわけじゃないし、今日のも完全にあたしの不手際だけど。
「なっ、」「えっ、」とバカップルが言う中、尚も「あー茜?」と引き留めてこようとするシンジが、実のところ一番ウザいのではないかと感じていた。
じっとあたしを見つめた後、躊躇いがちにあたしの手を取った学がちらっと、振り向いた先はシンジだった。
あたしが振り向いたことにたじろいだのかはわからんが、「えーと……」と、シンジはまだ何か言いたそうで。
ウゼぇんだよと構わず出て行こうと決意したが、学があたしを引っ張りそれを阻止する。
「……何、学」
スマホを取り出したシンジが「…次の対バン、覚えてっか…?」と聞いてきた。
「は?何が?」
「…確か、少し先のスタジオなんだけど…ちょっと待ってろ」
「はあ?」
シンジはそのままスマホを耳にし、「もしもしすんません」とどこかに電話を掛ける。
さっさと段取りを決めたようで、すぐに通話を切り、そして財布を出した。
この前こいつが言ったことを思い出す。
着いて行けていない様子のトシロウとみよ子に「はいよ」と金を渡したシンジは、あたしには「来い」とばかりに肩を叩いて促し、結局一緒に部屋を出た。
学が手をちょんちょんとする。
改めて見るとシンジは筋肉だし、じゃらじゃらピアスだし金髪でアゴヒゲだしなんか、厳つくて怖いよなと学を見たが、なんか、そんな感じでもないらしく…。
「ちと抜けねーか茜。今あっち電話したんだけど」
「…あっちって…?」
「対バンのグラシアのノリトさん……に電話したら、はは、ギタボの曽根原さんが出た」
「…え?」
シンジは構わず進んで行き、タバコに火を点けながら「あの人声高ぇからさ」とは言うが、あぁ確かにそうだったような…。
大先輩バンドだ。知り合いがめちゃくちゃいる人…絶対どこかで名前は聞くんだけどあまり…ピンと来ていない。
けど。
「だから、何?」
「まぁ、あの人弾き語りばっかやってた時期もあったらしくてな」
「…はぁ、」
「最近バンドでもたまにやってて。そんときドラムってあれ使わねぇわけよ」
…なるほど?
「あ、」
「そ。あそこのドラムのノリトさん、最近カホンも使うんだわ。ちょっと知りたいっつったらじゃあ来いってさ」
「…え?」
外に出る。
タバコが短くなり、揉み消そうと思ったのだろうか。シンジは学を見て、バツが悪そうにケータイ灰皿を取り出した。
「…ノリトさんってもしかして」
「エルグラにいたな」
「あの人か!」
「そう。
メンバー編成から行くと、ベースもなんか、元はどっかでやってたらしい女の子。SM嬢やってたんだってさ、まぁ見りゃわかる。
ギターもそう、どっかでやってて解散して、暫くサポートでふらふらしてたヤツらしい。パンクもオルタナも集まってああなってんだって」
「……あぁ、セカンドあるあるじゃん、大人しめになるやつ…」
ぼそっと言うとシンジがなんか、更にバツが悪そうな顔をするので「あんたウチだけだから知らないだろうけど」と言っておいた。
「…ま、確かに…。
まぁ真っ先に浮かんだのが、お前がいたサンシャインだ。
確か、グラシアのその、ふらふらしてたギターのヤツがサポやってんの、見たことあんなってさっき思い出した」
「ふーん」
「未練ないんだなぁ、知らねえか?高峯ってやつ」
「……あ、……っと、記憶の片隅に出てきたかも……抜けてすぐサポート入ったやつかな…あの……リード使ってるやつ、すっげぇ生意気そうな」
「生意気そうって。先輩なんだぞ一応。
でもまぁ…同い年くらいだったかな?ウチよりは長ぇけど、間違いなく」
「あー完全にわかった。あれだ、楽屋で暴力事件起こしてやめた……」
あ。
「そうだ、そんときそいつグラシアの前座やってたんじゃ…」
「いや詳しくは知らんけど。
ノリトさんも子供いるし、そいつも既婚者だし、ベースもそんなだし。俺たちよりなんか、マシだろ」
あんまりマシ要素、なかった気がするけど…。
「…てゆうか詳しいな」
「曽根原さんが言ってた」
歩きながらちらっと学を見たシンジが「疲れたか?」と聞く。
聞いたくせに返事は待たず、ぐいっと学を抱き上げた。
ビックリしている。
「ちょっと、ビックリしてんだけど、」
「いやもうちょっと歩くし」
「にしたって、」
「軽いなこいつ。もっと食ってデカくなれや」
よしよしと背を撫でられているが、学は完全に硬直してしまった。
「元々ネグ体質なんだよ、学の母親の母親は」
「なるほど。学っつーのか。いい名前だな。そんで連れて来ちまったわけね」
「………まぁ、」
「じゃ、今後も考えてねぇんだな?」
「…るせーなゴリラ」
聞こえないフリをして「よー学。俺はシンジだ」と、硬直した学に自己紹介をする。
下心を感じなくはないが、まぁ、今日は学がいるし…。
「……てめぇマジ、そのスタジオとやらじゃなかったらぶっ殺すかんな」
「子供の前で口悪ぃな、スタジオ以外にどこがあるっつーんだよ」
「下心を感じる」
「ははっ。無くはねぇけどねぇよ自意識過剰だな。いいから着いて来いよ。多分人生変わんぜ」
んだよそのなんか、アブノーマルな場所行くときの口説き文句みてぇなやつ。
本気でヤバかったら警察呼ぼ。こんな筋肉野郎には勝てない。
別に期待してたわけじゃないし、今日のも完全にあたしの不手際だけど。
「なっ、」「えっ、」とバカップルが言う中、尚も「あー茜?」と引き留めてこようとするシンジが、実のところ一番ウザいのではないかと感じていた。
じっとあたしを見つめた後、躊躇いがちにあたしの手を取った学がちらっと、振り向いた先はシンジだった。
あたしが振り向いたことにたじろいだのかはわからんが、「えーと……」と、シンジはまだ何か言いたそうで。
ウゼぇんだよと構わず出て行こうと決意したが、学があたしを引っ張りそれを阻止する。
「……何、学」
スマホを取り出したシンジが「…次の対バン、覚えてっか…?」と聞いてきた。
「は?何が?」
「…確か、少し先のスタジオなんだけど…ちょっと待ってろ」
「はあ?」
シンジはそのままスマホを耳にし、「もしもしすんません」とどこかに電話を掛ける。
さっさと段取りを決めたようで、すぐに通話を切り、そして財布を出した。
この前こいつが言ったことを思い出す。
着いて行けていない様子のトシロウとみよ子に「はいよ」と金を渡したシンジは、あたしには「来い」とばかりに肩を叩いて促し、結局一緒に部屋を出た。
学が手をちょんちょんとする。
改めて見るとシンジは筋肉だし、じゃらじゃらピアスだし金髪でアゴヒゲだしなんか、厳つくて怖いよなと学を見たが、なんか、そんな感じでもないらしく…。
「ちと抜けねーか茜。今あっち電話したんだけど」
「…あっちって…?」
「対バンのグラシアのノリトさん……に電話したら、はは、ギタボの曽根原さんが出た」
「…え?」
シンジは構わず進んで行き、タバコに火を点けながら「あの人声高ぇからさ」とは言うが、あぁ確かにそうだったような…。
大先輩バンドだ。知り合いがめちゃくちゃいる人…絶対どこかで名前は聞くんだけどあまり…ピンと来ていない。
けど。
「だから、何?」
「まぁ、あの人弾き語りばっかやってた時期もあったらしくてな」
「…はぁ、」
「最近バンドでもたまにやってて。そんときドラムってあれ使わねぇわけよ」
…なるほど?
「あ、」
「そ。あそこのドラムのノリトさん、最近カホンも使うんだわ。ちょっと知りたいっつったらじゃあ来いってさ」
「…え?」
外に出る。
タバコが短くなり、揉み消そうと思ったのだろうか。シンジは学を見て、バツが悪そうにケータイ灰皿を取り出した。
「…ノリトさんってもしかして」
「エルグラにいたな」
「あの人か!」
「そう。
メンバー編成から行くと、ベースもなんか、元はどっかでやってたらしい女の子。SM嬢やってたんだってさ、まぁ見りゃわかる。
ギターもそう、どっかでやってて解散して、暫くサポートでふらふらしてたヤツらしい。パンクもオルタナも集まってああなってんだって」
「……あぁ、セカンドあるあるじゃん、大人しめになるやつ…」
ぼそっと言うとシンジがなんか、更にバツが悪そうな顔をするので「あんたウチだけだから知らないだろうけど」と言っておいた。
「…ま、確かに…。
まぁ真っ先に浮かんだのが、お前がいたサンシャインだ。
確か、グラシアのその、ふらふらしてたギターのヤツがサポやってんの、見たことあんなってさっき思い出した」
「ふーん」
「未練ないんだなぁ、知らねえか?高峯ってやつ」
「……あ、……っと、記憶の片隅に出てきたかも……抜けてすぐサポート入ったやつかな…あの……リード使ってるやつ、すっげぇ生意気そうな」
「生意気そうって。先輩なんだぞ一応。
でもまぁ…同い年くらいだったかな?ウチよりは長ぇけど、間違いなく」
「あー完全にわかった。あれだ、楽屋で暴力事件起こしてやめた……」
あ。
「そうだ、そんときそいつグラシアの前座やってたんじゃ…」
「いや詳しくは知らんけど。
ノリトさんも子供いるし、そいつも既婚者だし、ベースもそんなだし。俺たちよりなんか、マシだろ」
あんまりマシ要素、なかった気がするけど…。
「…てゆうか詳しいな」
「曽根原さんが言ってた」
歩きながらちらっと学を見たシンジが「疲れたか?」と聞く。
聞いたくせに返事は待たず、ぐいっと学を抱き上げた。
ビックリしている。
「ちょっと、ビックリしてんだけど、」
「いやもうちょっと歩くし」
「にしたって、」
「軽いなこいつ。もっと食ってデカくなれや」
よしよしと背を撫でられているが、学は完全に硬直してしまった。
「元々ネグ体質なんだよ、学の母親の母親は」
「なるほど。学っつーのか。いい名前だな。そんで連れて来ちまったわけね」
「………まぁ、」
「じゃ、今後も考えてねぇんだな?」
「…るせーなゴリラ」
聞こえないフリをして「よー学。俺はシンジだ」と、硬直した学に自己紹介をする。
下心を感じなくはないが、まぁ、今日は学がいるし…。
「……てめぇマジ、そのスタジオとやらじゃなかったらぶっ殺すかんな」
「子供の前で口悪ぃな、スタジオ以外にどこがあるっつーんだよ」
「下心を感じる」
「ははっ。無くはねぇけどねぇよ自意識過剰だな。いいから着いて来いよ。多分人生変わんぜ」
んだよそのなんか、アブノーマルな場所行くときの口説き文句みてぇなやつ。
本気でヤバかったら警察呼ぼ。こんな筋肉野郎には勝てない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる