殺したいほど、「    」

二色燕𠀋

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 あぁそう、ご飯まだらしいな、カップラーメンでもいいだろうとコンビニに寄り出たところで全く染み付いてるなと溜め息が洩れる。

 考えてみればこちらから喧嘩を売ってしまったのだし、反撃程度で何を腹立てているのか…確かにあっちは過剰だが。
 「保身」という単語が頭に浮かんで嫌になる。

 自分はハナちゃんママの言う通り、奥手で冴えない。
 高校生の頃からずっとそればかりをうじうじ考えて、「殻破っちゃいなさいよ」とここまで来ても根本がそうなのだ、救いようがない。

 平原さんか。女の子だろうな。

 …先輩とは上手くいっていた、ただ、大人になり学んだ、「生理的に同意でないとハプニングは起きない」と。けれど行かねば確かに空気になり下がる。

「いや……うん、大丈夫だよ、嫌いじゃないよ」

 と、それからすぐに女の存在が目についた瞬間、自分は空気、雰囲気の一部に成り下がったのだと一人下校した夕日。

 真っ青な表情と諦めきった顔が浮かんでくる。

 晃彦の時なんて同時に、薄暗いソファーの景色すら一瞬で思い出される。

「何回か顔、見てるなと思って」

 なくなってゆくシャーペンの芯を買い足す程度の迷いは最善ではなかった、ただそっとしておいて欲しいんだと大人の気になり見守ったのも結局空気だったんだと、踏み込んで知った。

 一回でいいと何故割り切れなかったんだろう。自分は一度しか見たことがない青年だったのに。

 本当に向いていなかった、乗れなかった。
 それでもいくらかやり過ごせていると思っていた。

 キラキラの街を離れると、激昂よりも冷めが強くなる。これは賢者タイムだ。

 歩きじゃ冷めてしまうし15分じゃ間に合わないなと、通りでタクシーを拾った。

「まぁ、あまり内緒だけど君は今のところ間違いなく採用だから、今晩夕飯でもどう?」

 面接帰りの日を思い出す。躊躇ったものだ。
 「歓迎会だから」と上手く言いくるめられいざ伺ったらまさか、社長と向かい合ってイタリアンだかフレンチだか、面接の延長みたいで緊張して、味もわからない料理を食わされた。

 帰りのタクシーで社長と話したことはあまり覚えていなかったが、後で晃彦に話して思い出していったんだ。

「面接どうだった?」
「…なんかさ、」

 まだ、自分も晃彦も学生だった。あの頃が一番ゆったりしていた。

「みんないるもんかと思って行ったんだけど…一人だったよ歓迎会」
「え?」
「面接は4人組だったんだけどなぁ」
「…ん?なにそれ、あり得る?」

 いや、あり得ない。
 だが当時は知らなかった。

「…なんか、その社長不気味だなぁ」
「そうなのかな?」
「そっちの人?」
「いやいやまさか。会社情報でも既婚者だったよ?」
「ん~………」

 晃彦も疑問そうに「まぁ変な人なんだね…」とその時は言っていた。

「やっぱり就活って忙しそうだね。俺も来年だ……」
「遊んでられないね」
「今は律といるし遊ばないよ。それに俺は…国家資格取りたいんだ、実は」

 嬉しそうに打ち明けてくれたこと。

 多分、あれからを思えばもう少し遊んでくれた方がよかったんだろう。かと言って、自分も遊べた試しがないし言えたことではないが。

 将来は静かに暮らしたいね、だなんて。若かった、若い男二人だった。

 回想もそこそこで会社に着いた。

 エレベーターに乗り早々、社長がタクシーで「恋人はいる?」と聞いてきたのも思い出す。
 就活生だし、まさか、友人に駆り出されてからハプバーで男と出会いましたなんて言えず、「いや…」と、曖昧だったなと思う。

 多分あの頃から始まっていたのだ、いまの生活は。

「へぇ、モテそうじゃない」

 いや…そんなにモテないんですよねと思ったところで「一人暮らし?」と飛んできた。

「あ、いや……ルームシェア…してます」
「あぁ、そうなんだ。今時だねぇ」

 その時はこうなるとは全く思っていなかった。
 明確にいつからかは、さっき思い出したところだ。勉強漬けの晃彦と仕事漬けの自分とで時間が合わずすれ違いがあって、ああなってから。

 そういえば社長がいつ奥さんと別れたのかは、未だに知らないなと、社長室の前で止まった。

 …それも本当かわからないしな。

 ノックして「失礼します」とドアを開けた。

 社長は座っていて、「30分は掛かったね」と爽やかに言ってくる。
 しかし、律の顔を見て一瞬だけどうやら、面食らった、かのような反応をして言葉に詰まっていた。

「……えっと、コンビニ寄ったの?」
「夕飯がまだだと仰ってたので。お時間を取らせてしまい、申し訳ありません」

 皮肉を込めカップラーメンを目の前に出せば、社長はそれをつまらなそうに眺める。

「ヒラハラマナミさんは24歳で…君の時を思い出してね。いきなり社長秘書ともなると困るかなって引っ張ったよ。
 いずれ弟の会社にも戻れるように、ハードだけど頑張って頂戴」
「…ん?」
「何?」
「短期でお取りになったのですか?」
「研修だね。でも、ごちゃごちゃ気にしないで君はとにかく俺の業務がまわることを考えて」

 その後、また取るんだろうか。

 そもそも…自分より前は確か、暫くいなかったんじゃないか。てゆうか前はいたんだろうか、自分は引き継ぎなんてなかった。

 でもまぁ、わかる。こんなに早く人材を補充するほど仕事は早いのだ。そう、端から必要のない役職だな。その分書類だって増えるわけだし。
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