殺したいほど、「    」

二色燕𠀋

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「今日から配属になりましたっ!平原愛実です!」

 翌朝。
 新人秘書は非常に元気な、今時の女子だった。

 くるくる髪、睫長い、目もくりっくり。でも髪色明るい、リスみたい。爪は凶器の赤色。

 どうしよう、これ…と律は頭を抱えそうな思いで「どうもはじめまして」と取り敢えずな対応をしておく。

「教育係の駒越律です。急遽ありがとう。短い間ですが、宜しくお願いします」
「わぁっ!宜しくお願いします♪」

 先に出された右手に防御の意思がない。ここからか新人ちゃんと、握手を返しながらも「あはは、こういうの初めて?」とヘラヘラしてしまった。

「スッゴく緊張しちゃっ」
「平原さん先に言っとくけど、目下の人は相手からの握手を待つんだよ」

 社長はそう横槍を入れ「失敬、駒越くん。でも忙しいんで」と、めちゃくちゃ愛想が悪かった。

 …賢者タイム長ぇよ~っ。

 平原さんは一瞬ポカン、としたのだが、すぐに気を取り直して「失礼しましたっ!」と頭を下げる。

「まぁ、まぁね、社長の相手だと…大体が君より目上になりますからねぇ…。
 ま、次行こ、次。大丈夫、私もそうでしたんで…」

 言いながら手帳を開き、まずは社長に本日最初のスケジュールを伝えた。

 聞いた社長はすぐにジャケットを着て行く準備。

 あっという間にそれに着いて行き「次に11:30からクライアントと合同会議です」と喋ってゆく。

「一応13:30に終了予定で間は15時までです。その間に昼食を済ませそのまま15時には本社へ戻り社内会議に出席予定です。
 各々終わり次第週末の決算書を待つことになると思いますので18時まで待ち、その後19時から、交流会は新宿の」
「すみません、質問いいですか?」

 割って入られた。

「今日は忙しくてごめんね。どうしましたか?」
「…この会社って、18時までって聞いていたんですけど」

 …あ、そうだったねぇ…。

 ええっと、と律が説明する前に「あぁ、いいよ別に」と社長はやはり素っ気なかった。

「俺がいればいいやつだから、それ」

 いや……。

 あ、そうなんですね?飲み会ですか?とほざく新人ちゃんに、「あのね、」と律が取り次ぐ。

「…クライアント候補の社長さんとお話をするんだ。今後も、社長さん同士だとして、どうしても社内営業中は相手方も抜けられなかったりするし、あとはこういう交流で話が決まることもごくたまにある。
 決まれば社長に予定も入るから…まぁ、確かに18時までは会社全体の仕事ですけど…。あ、それ以降も平原さんにはお給料も出ます、美味しいご飯もある」
「あ、そうなんですね。着いて行った方が良いってことですか?」
「…着いてくるなと言われない限り、私は着いて行ってますよ。後日社長から言われて…よりも、予定はこの手帳に入っているからその場で耳にしたものをすぐ書き込めるし、先方へもまごつかずあっさり伝えられるし、後にも面倒じゃないかなって」

 駐車場に着き、律が車の運転席に自然と乗ろうとしたが「今日はいいよ」と社長が言ってくる。

「俺が運転しているうちに彼女を」

 なんとかしろ。

 無言の圧力に「はい…」とへなへなした。

 まずはと、二人で後部座席に乗り込み「どうぞ…」と手帳を渡す。これを書き写して欲しいのだが、彼女はとても疑問な顔をしている。

「えっと…埋まってる分のスケジュールは書いてあるから、まずはメモしちゃって…」

 キョトン。
 どうしようかなぁ。

「あ、気持ち悪くなっちゃうかな?それならお昼休みでも、いいし…」
「お昼休みは、ご飯ですよね?私はお母さんに、ご飯食べているときはよそ見しちゃいけないって言われてて…」
「立派なお母さんですねぇ…、良いことだよ。大切にしてくださいね」
「…車酔いしない方なので、大丈夫です」

 …感情がとても読みにくい表情で平原さんは律のシステム手帳を受け取り、大学ノートの小さい版メモに書き込んでゆくのだから、更にどうしようかと思った。

 この子…多分、平も平だったんじゃないか?

「あっ、えっと…平原さん、手帳持ち歩かない人?」
「ありますよ~?」

 ごそごそと鞄から、可愛らしいピンクの手帳を取り出し見せてくれた。

 予定を見る気はなかったがなるほど…それって項目が『25日、なんとか君』とか書いてあるやつなんではないか…。

「…可愛い手帳だね、ウサギちゃんだ…。平原さんの予定が書いてあるのかな?」
「いやーん、興味あります?」

 何故「いやーん」だった?謎だ。

 流石に真顔になりながら「いや、ダイジョブ」とぎこちない対応をしてしまった。

「…こういう、ちょっと広い手帳、使いやすくて間違いがないよ。社長は予定がある日は…今日みたいにね。3、4項目埋まっちゃったりするから、…まぁ、使いやすいのが一番良いんだけどさ」
「あ、ケータイなら」
「あぁ、うん、なんとなく…社長さんって確かに最近若い人も増えたけど、やっぱり歳上が多いから。秘書の印象は結構社長にも関わるし、もしよかったら会社支給の手帳があるから、使ってみてくれないかな?」
「…なるほどですね、わかりました。
 今は一度ケータイに入れてもいいですか?」

 あ、真面目では、あるんだね…。
 価値観や認識の問題か、なるほど…。

「いいですよ。終わったら、じゃあ後で、照らし合わせて確認しても大丈夫かな?」
「わかりました!すみません、ありがとうございます!」

 うん…悪い子では、ない。
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