殺したいほど、「    」

二色燕𠀋

文字の大きさ
9 / 17

9

しおりを挟む
 ケータイに予定を高速で打ち込んでゆく平原さんに、感心した。
 爪がカチカチいう。指紋認証とか、どうしてるんだろう。

 つい、悪いと思いつつ「平原さん」と横槍を入れてしまった。

 「はい?」と返事をしながらも打ち込み続けられる彼女に、うん素質はあるかもしれないなとは、思えた。

「あと…爪って剥がせたりするのかな?」 

 聞き方が悪かった。

 平原さんは物凄く驚いた、まるでウサギのような顔で「え?」と顔を上げた。

 社長はそれに少し肩を震わせて「ヤクザじゃないんだから」と、こんな時ばかり突っ込んでくる。

「あ、えっとごめん。そういう痛いやつじゃなくて…」
「…やっぱり切らないとダメですかね?実は…これ、つけ爪じゃないんです」

 えっ。

「えっ、そうなの!?」
「はい…」
「凄い…何年掛かるのそれ」
「え?」
「あ、いや、初めて見て」
「ふっ……、あはは!面白いコマゴメさん!」

 あ、えっと…コマゴエです…。

「コマゴ、くんだよ平原さん」
「えっ!
 あ、ごめんなさい!」
「あ、いや、よく間違われるから、ダイジョブです…」

 大体が最初、コマゴメ。それからコマゴメ、コマゴヘェ…コマゴェ…コマゴエに進化してゆくのだ。

「…でも、シャチョーさんの、側にいるなら…」
「…そうですね」
「わかりました……ちょっとここまでくると勇気はいりますが…ガンバリマス、」

 おぉぉ、悪い子ではマジでないな。多分。なんだか申し訳ない、何年物なんだろう…。

 確かに研修さえすれば…ホントに大丈夫かもしれない人材だ。
 正直「そんな、容姿に自由もないんですかこの会社は!」とヒステリックを起こされたらどうしようかと思っていた。

 …別にいいんだろうけれども。社長は。

 でも、相手方がどうとか、結局気は遣わなければならないのだ、協調性というのは。どんなに形だけで「容認」したとしても。自分は自分だ!と開き直ったとしても。

「ありがとう、ごめんね平原さん」
「いえ、ありがとうございます。恥かいちゃうところでしたよね」

 賢いし…充分第二の社畜をやっていける。

 実はあまり教えることもなかったりして…と律が思っているうちに「駒越さんって、面倒見がいいですね」と、やっぱりちょっとだけズレた答えは返ってくるけど。

「初めて言われた……」

 いや。
 晃彦に言われたことあるな、「器用貧乏だね」の後に、と思い出し、「かも…」だなんて曖昧になる。

 そのうち自然に「モテそうですね」と他愛のない話が始まってしまった。

「…全然ですよ」

 あ、そうなんです?と彼女は明るい。
 しかしそんな時に社長が「もう着くけど」と不機嫌そうにボソッと言った。

「…クライアントの前だから、悪いけど考え事したいんだよね、俺。必要最低限にしてくれない?」

 すみません、と彼女もボソッと不機嫌になり一気に場の雰囲気が変わってしまった。

 三日で教えなきゃならないわりに、言ってることなんか、矛盾してない?

 しかし社長はマイペースに、それから本当に何か考え事を始めた雰囲気を醸し出す。

 …まぁ、社長のその真剣な感じ、皮肉にも嫌いじゃないんだけども。

 そんな調子で午後までの仕事が終わった。少しだけ新人を意識し、過剰にメモを取ったりして。

 しかし本当は自分とでなく、社長には平原さんと打ち解けて欲しい。

「えっと…お昼はこの辺りだと、どうしましょう、和食で宜しいでしょうか」

 社長は不機嫌だった。
 目線が来るのみで、うんともすんとも言わない。

 そんな中、「あ!私この辺だと、良いお店ありますよ」と変な日本語で言ってきた平原さんに、変だけどいいぞ!頑張れ!と応援したくなったのだが。

「これです!」

 ケータイ画面を見せてくる。
 めちゃくちゃコテコテしておじさんには優しくなさそうな見た目の「パフェ」、か何かの写真だった。

「………」

 社長の「昼飯だっつってんだろ」という視線が痛い。
 だがすぐに「まぁカフェ?いいけど探す?」と、こちらも変な日本語で応戦してくる。

 …もしかして、あれ?俺と開拓した店は行きたくないけどこの女のセンスも嫌だ、みたいな我が儘が発動されていたりする?

 しかし平原さんは良い意味で空気が読めなかった。
 「やった!じゃあ行きましょ!」と、まさかのそれで進もうとしている。

 でもまぁこの人にはこれくらいがいいのかもな、たまには騎乗位でバシバシ攻める、みたいな。
 と、律は密かに主導権を握った気になったのだけど、社長が「…ごめん時間ないからそこのファストフードね」と、珍しくうるさいジャンクを提示してきたので少々驚いた。

 それはそれでそう言えば仕事の話もあったしな、うどん屋じゃ無理だわと、律は出そうになった溜め息を引っ込め、勝機は我にありと勇んだ。

 ファストフードで平原さんに買い物を頼んだうちにパソコンを広げたが、「なんなの一体」と、社長から漸く不満を引き出した。

「…君、随分女の子と…なんか上手く出来るじゃん」
「え?」
「あの子ああ見えて、一応弟の若嫁になるからやめて欲しいんだけど」
「……は?」
「言ってなかったっけ?だから研修なんだよわかる?」
「…そぉいうのは先に言ってくださいよ~…」
「ま、別に良いんだそこは。何?ムカつくんだけど」

 え、何?何急にギャルになってるのこの人。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

処理中です...