あじさい

二色燕𠀋

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第三話

7

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「あなたは…」

 やっとお母さんは、まともに俺を見てくれた。

「あなたは、それで大丈夫なんですか?」

 まぁ、そうなるよなー…。

「…生活ですか?生活は取り敢えず二人でやっていこうかなと…。考えとしてはまぁ、急に俺も言われましたが、やりたいって言うならやれる範囲で真里くんを手伝えたらなと。俺は途中でこの道を諦めたから。
 俺の素性がわからないと不安ですよね。
 今俺たち、同じ職場で働いてるんですよ。先輩後輩といった感じなんですかね。仲良くさせていただいてます。
 真里くん根性あってね、しかも頑固で。ちょっと待ったら?って言ったところで決めちゃったらもう訊かないでしょ?なら、やるしかないのかもな、と思って。俺にとっても良い経験になったらいいなと思ったんで。
 ただ、いきなり来てこれは段取りが違いますねよね。もうちょっと話がまとまってるのかと思ってたから。ホント、失礼しました。今日は…俺帰ります」
「光也さん…」
「…真里、」

 お母さんは溜め息を吐きつつ、真里に微笑みかけた。

「勝手にしなさい。
 光也さん、でしたっけ。うちの子ちょっと勝手な子なんですが…どうかよろしくお願いします」
「…こちらこそ、よろしくお願いします」

 どうやら、説得完了。

 それからはサクサクと食器を片付け、真里の荷物を運び出した。
 最後、お母さんとフレッドさんは玄関まで俺たちを見送りに来てくれた。

「また来てくれよ、光也!」

 その頃にはもう、仲良くなれていた。

「ぜひまた。フレッドさんも元気で!」

 そしてお母さんは、煮物などをタッパーに入れて持たせてくれた。

 二人で一息吐いたのは車に乗ってバックミラーで手を振る二人を見てからだった。
 どちらともなく爆笑し始めた。

「すっげぇ嘘吐き!」
「やれば出来るじゃん!」
「いや、あれ胃が痛くなるわ~。マジ主演男優賞もんだろー」
「いやマジごめん、俺、甘かったわ~」
「俺お前ん家でなんかすげぇヤツになっちまったよ」

 何はともあれ、なんとかなった。

 それから荷物を一度家に運び、売る衣類をまとめて出た。途中でショッピングモールに寄り、菓子折りを買って姉貴の家に向かう。
 姉貴に電話をした頃には14時を過ぎていた。

「もしもし」
『あぁ、来る?』
「うん、なんとかいまから行けそう。30分くらいかな」
『わかったわぁ』
「遅くなってごめん」
『しゃーないなぁ、具合は大丈夫なんか?』
「もうピンピンや。明日からまたバイトする」
『夏風邪は面倒やから帰ったらちゃんと休むんやで』

 それだけ言って電話は切れる。

「ねぇちゃん良い人だね」
「そう?」
「俺、兄弟いないからさ。羨ましいわ、なんか」
「結構うるさいけどね」

 そう言うと真里が笑う。

「まぁ、昔から仲は良いよ。その分、喧嘩したとき結構スゴいけどね」

 昔、なんで喧嘩したかは覚えてないけど、椅子を姉貴に投げられた話とか、一緒の部屋だったときに姉貴のランドセルが二段ベッドの上から降って来た話とか。そんな話をしながら姉貴の家に向かう。

「やっぱりさ、見てるとさ、光也さんとねぇちゃんならねぇちゃんの方が強いよね」
「そうかも。あいつ結構強い。
 でも、助けたこともあるんだぜ?」

 学校で変なヤンキーみたいなヤツに絡まれてる時や、姉貴の元カレが凄くしつこかった時とか。

「へぇ、どうやって?」
「前出て。ウチの姉に怪我させたら賠償金取ってやるって」
「なにその脅し。新しいね」
「親父がね、ちょっと法律系だったからねー。
 俺、姉貴の彼氏だと勘違いされて刺されそうになったこともある」
「何それ怖っ!よかったね生きてて!」

 俺が彼氏になりすましてストーカーみたいなやつを、ストーカーになる前に防いだこともあったな。

「光也さんがいままで付き合った中で凄かったヤツは?」
「うーん。なんだろ。この前の女も凄かったけど…あ、付き合ってなかったけどあっちが好きで、こっち彼女いてってパターンとか凄いのいたよ。
 なんかすげぇ妄想したらしくてね。ある日デートしてんの見られたら大変。次の日バスケ部の部室に来て突然脱ぎ出してさ」
「なんじゃそら」
「生憎後輩が通りかかって、勝手に脱いでたのを羽交い締めにして終了。あれは怖かった」

 それから学生時代の話で盛り上がった。真里も真里で女関係は結構面倒だったようだ。

「彼氏いるならね。目の前でイチャイチャすれば女は引いて終わる」
「なるほどな」
「いなければ、ホモなんでって言えば終わるしね」

 さっぱりしてるなー。

「そもそもきっかけってあったの?」
「初が先生だったんだよね」
「えぇっ!」
「うん。保険の。なんか若い先生。珍しく男でさぁ、女子にめっちゃ人気だったからねー、ビビったわ。放課後に怪我して一人で保健室行ったらきゃーみたいな」
「マジか」
「そのあとすぐ違う学校行っちゃったけどねーそいつ。かっこよかったよー」

 なんかすげぇな…。

 道案内がてら、そんな懐かしい話をしているうちに姉貴の家についた。菓子折りを持って車を降り、チャイムを鳴らす。

『はい…』

 予想に反して、男の声がした。きっと、旦那の小倉おぐら博孝ひろたかさんだ。

「ヒロさん?光也です。遅くなってすみません」
『ああ、光也くんか』

 そう言うとすぐ、ヒロさんは出てきてくれた。毎回ながら、白いシャツがよく似合う爽やかな笑顔だ。

「こんにちは。この度はどうもすみませんでした」
「久しぶりだねぇ。具合は大丈夫かい?」
「はい。これ、つまらないものですが、お詫びです」
「わざわざありがとう」

 受け取りながらヒロさんは、後ろのワゴン車をちらっと見る。
 顔に掛かる前髪をふと整える仕草とかいちいちイケメンだ。

「お友達かい?」
「あ、はい」
「光也くん、この後ちょっと、時間ある?」
「はい、まぁ…」

 なんだろう、急に。

「お友達も一緒に、ちょっとお茶でもどうだい?よく遥子すみこと行くんだ。久しぶりに会えたんだし、男同士、話でもしたいな」
「はい、別に大丈夫ですけど…」
「ちょうど車あるんだね。僕が運転するよ。ちょっと遥子に言ってくる」

 そしてヒロさんは一度家に入っていった。

 なんだろう、珍しい。
 ヒロさん、今日は非番なんだろうな。

 小夜も一緒に来るのかと思いきや、ヒロさんだけが家から出てきた。真里も不思議そうな顔をしていたので首を傾げるしか出来ず。
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