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アリシアは内々で育てたせいか、こうして向かい合っても背はまだ自分を越えていないのだ。確かに、自分は日本人としては少々背が高いかもしれないが。
なによりやはり西洋人らしく肌は白いのだ。
童顔で、力は強くなれどなかなか成長が見えない。
ひとつ当時と違うといえば、西洋の単は止めた。来た当初のアリシアはそればかりしか持っていなかった。
自分も家では和装だしと、和装にしたのだが、残念ながら見事にアリシアには似合わないのだ。
だが、それはそれで人形とは違う、と勝手に柊造は思っている。
「…報告会。
父は本日も忙しかった」
「はい。
私は本日、夏野菜の片付けをしました。明日から大根と白菜を始めます」
「あぁ、夕飯か」
「いっぱい採れました。食べますか?」
「そうだな」
「すぐにお作りしまーす」
「よしよし、と」
アリシアと立ち上がり、居間へ向かう。
困ったことに、柊造は今や嫁要らずとなってしまったのだ。
30に差し掛かかれば「良い加減にしろ」と若い女の写真ばかりを上司から渡される。
だがこうも不便がないとそんな欲すら何一つなくなってくるのだ。
いや、最早それは敗戦からずっと続いてしまっている。出世にも金にも何にも愛想がないまま8年を過ごしてしまった。良い加減に世帯及び責任感を持ち備えろと言われても、世帯自体はここにある。
あとは政略結婚くらいしかないのだが、制度がちゃんとしてきた以上、いまや言及しようとも動けない。端から見れば自分は独り身である。
非常に体の悪い男に成り下がった。
しかし居心地は端から悪いのだから、今や騒ぐのはまわりだけなのである。
台所で二人、眺めた野菜は茄子、青じそ、ミョウガ、あとは輸入して挑戦してみたピーマンだ。
茄子とピーマンを水で洗い寄越してくるアリシアの代わりに柊造が包丁で切る。
ピーマンなる野菜はほとんど空洞で「あり?」とアリシアは切り口を覗き込んだ。
「虫に食われたみたいだな、これ」
そう言って柊造は笑うのだけど、アリシアは「食われちったかな」と慌てている。
「こういう食いもんらしいぞ」と穏やかに柊造が言えばやはり「えー、」と不服そう。
視界に入る茶色い癖っ毛。髪も少し伸びたしすっかりあの、光のような色でもなくなったなと、柊造は染々する。
これは何で出来ているのだろうかと柊造は調べたことがある。
あのときの光の髪は、元々西洋人は髪の色が薄い。その色を更に酒で抜いてしまうとああいう色になるのだと知った。
「セーヨーの人はこれでお腹がよくなるのですかねぇ?」
「さぁ?美味いのかもしれないよ」
だが結局ピーマンは、ただ苦いだけだった。
柊造は「まぁ癖になるような気がする」だったが、アリシアには「ホントに美味しくない」と不評。
しかし残さない。それは家訓だ。
食事をしながら、アリシアの肩に少し掛かる髪に「そろそろ髪伸びたな」と染々柊造は言う。
「切ってくれますか?」
「そる、の方が正しい言葉だと思うぞ、…多分」
剃刀を上下に使う動作をすれば、こくこくとアリシアは頷く。本当は毛先が、髪を加工したせいか元からなのかはわからないが少し細いアリシアの髪は整えにくい。過去に何度か失敗している。もしかすると枝切り鋏の方が良いのかもしれないなと、ふと柊造は考えた。
なによりやはり西洋人らしく肌は白いのだ。
童顔で、力は強くなれどなかなか成長が見えない。
ひとつ当時と違うといえば、西洋の単は止めた。来た当初のアリシアはそればかりしか持っていなかった。
自分も家では和装だしと、和装にしたのだが、残念ながら見事にアリシアには似合わないのだ。
だが、それはそれで人形とは違う、と勝手に柊造は思っている。
「…報告会。
父は本日も忙しかった」
「はい。
私は本日、夏野菜の片付けをしました。明日から大根と白菜を始めます」
「あぁ、夕飯か」
「いっぱい採れました。食べますか?」
「そうだな」
「すぐにお作りしまーす」
「よしよし、と」
アリシアと立ち上がり、居間へ向かう。
困ったことに、柊造は今や嫁要らずとなってしまったのだ。
30に差し掛かかれば「良い加減にしろ」と若い女の写真ばかりを上司から渡される。
だがこうも不便がないとそんな欲すら何一つなくなってくるのだ。
いや、最早それは敗戦からずっと続いてしまっている。出世にも金にも何にも愛想がないまま8年を過ごしてしまった。良い加減に世帯及び責任感を持ち備えろと言われても、世帯自体はここにある。
あとは政略結婚くらいしかないのだが、制度がちゃんとしてきた以上、いまや言及しようとも動けない。端から見れば自分は独り身である。
非常に体の悪い男に成り下がった。
しかし居心地は端から悪いのだから、今や騒ぐのはまわりだけなのである。
台所で二人、眺めた野菜は茄子、青じそ、ミョウガ、あとは輸入して挑戦してみたピーマンだ。
茄子とピーマンを水で洗い寄越してくるアリシアの代わりに柊造が包丁で切る。
ピーマンなる野菜はほとんど空洞で「あり?」とアリシアは切り口を覗き込んだ。
「虫に食われたみたいだな、これ」
そう言って柊造は笑うのだけど、アリシアは「食われちったかな」と慌てている。
「こういう食いもんらしいぞ」と穏やかに柊造が言えばやはり「えー、」と不服そう。
視界に入る茶色い癖っ毛。髪も少し伸びたしすっかりあの、光のような色でもなくなったなと、柊造は染々する。
これは何で出来ているのだろうかと柊造は調べたことがある。
あのときの光の髪は、元々西洋人は髪の色が薄い。その色を更に酒で抜いてしまうとああいう色になるのだと知った。
「セーヨーの人はこれでお腹がよくなるのですかねぇ?」
「さぁ?美味いのかもしれないよ」
だが結局ピーマンは、ただ苦いだけだった。
柊造は「まぁ癖になるような気がする」だったが、アリシアには「ホントに美味しくない」と不評。
しかし残さない。それは家訓だ。
食事をしながら、アリシアの肩に少し掛かる髪に「そろそろ髪伸びたな」と染々柊造は言う。
「切ってくれますか?」
「そる、の方が正しい言葉だと思うぞ、…多分」
剃刀を上下に使う動作をすれば、こくこくとアリシアは頷く。本当は毛先が、髪を加工したせいか元からなのかはわからないが少し細いアリシアの髪は整えにくい。過去に何度か失敗している。もしかすると枝切り鋏の方が良いのかもしれないなと、ふと柊造は考えた。
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