ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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Past episode three

7

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 潤を背負ったまま再び艦長室へ戻る。有島の顔が顔面蒼白になったのは言うまでもない。

「潤、どうしたんだ、それは…」
「練習艦の中で発見いたしました」
「ど、どうした…」

 上官は異常自体を嫌でも察したようである。

「有島さん、俺はまぁ、大丈夫なんで…」
「潤くん、少し休んでましょうか。もう少し、頑張ってくださいね」
「…熱海さん、何する気」
「君の今後を示します」
「熱海くん、どういう…」
「まずは栗林二佐をお呼びいただいてよろしいですか。僕の呼び掛けには応じませんから。何せ僕、先程ぶん殴りましたので」
「は…はぁ!?」

 潤をソファに寝かせて雨はしらっと言ってのける。

「あんたが呼べないなら僕が引き摺ってでも連れてきますよ」
「その必要はない」

 噂をすればなんとやら。
 声がした方を振り向けば、栗林が歳甲斐もなく不貞腐れた解せない顔で、先程殴られた横っ面に湿布を張って登場した。

「先を越されたか。下品な男だねぇ君は」
「遅いご登場ですね。遅刻は戦で勝敗を分けますよ栗林さん」
「よく言うわ。誰のせいだと思ってる」
「さぁ。僕はいまポジション的にはアテナかなと思っていますが。
 さぁではリンゴ争奪戦といきましょうか。まず僕の要求は二つ。有島さんと栗林さんの解散です」
「ほぅ、それを私に言うかね」
「ええ」
「気は確かか」
「はい。そちらこそ気は確かでしょうか?
いいですか?不和の林檎と言うのはいがみ合って投入されたものです。いがみ合ってないんじゃぁそれはただ、ヘラとアフロディーテが望んでトロイア戦争を起こしただけに過ぎませんね。アテナは駒で最初に潰されます。
 僕としてはんな低脳な戦、戦線離脱で構いませんがそれはエリスの思う壺だと思いませんか?
 しかしすみませんね、もしも僕が、エリスと繋がりがあったとしたらどうします?」
「はぁ?」
「何を言ってるんだ君は」
「例え話ですよ。知りませんか?ギリシャ神話。これを機会に是非ご一読を。
 無学な貴方方にわかりやすく解説いたしますと、有島さんの3000万円の隠蔽を許し、共に流用していたのは栗林さん、貴方だ。ついでに海外への麻薬密売を促していたのもそう」
「え、何それ」

 白衣の奥から折り畳まれた書類が出される。先程潤が雨に持って行ったものとは、また違うものだった。

「ちょっと時期が早まりましたので不十分ですがね」

 と言うかあの白衣には何が入っているんだ、一体。

「あぁついでにこれ」

 今度雨が取り出したのはCD-R。

「パソコン開いてるなら見てみます?
言っときますがこちら…」

 見せたCD-Rの表面に記された紋章は。

「Federal Bureau of Investigation。こちらに知り合いがおりまして」

 紳士的な笑顔の裏。雨の腹黒さが漏れ出ていた。

「…それと今回の件が、何が」
「僕も簡単にフラグは回収しようなんてしていません。つまり、単純に、そんなくだらねぇことでガキ使うなって話なんですよ。賄賂じゃないんだから。
 ただそれだけですがまぁ調べちゃった以上、面倒なのであんたは左遷、あんたは謹慎でどうですか。潤くんは僕が引き取ります」
「ふざけるな!」
「ふざけてる?まぁそうですよね。中途半端です。じゃぁ有島さん、辞職してください」
「は、はぁ!?」
「あーあ、結構優しい対応だったんだけど。ただまぁその場所・・がなくなればお宅の貿易も捗らないし、結局没落貴族ってやつに成り下がる。
 いずれにしても潤くん、君、そこにいても貧乏生活を強いられるか売られるかですよ。だったら並みの生活をしましょうか」
「ふざけんな、大体なんの権限があって」
「…僕案外ね、あんたらより顔が広いんですよ。少なくても暇潰しでこんなの調べてくれる上司がいたり、前防衛大臣の葬式に呼ばれるくらいにはね」

 そう告げる雨の目は笑っていなかった。
 有島は諦めともつかない乾いた笑いで雨を正面から睨み付けた。

「…なるほどな。ウチは、スパイを送り込まれていたわけか」
「人聞き悪いなぁ…一介の軍人ですよ」
「…まぁ確かに軍人だな。本当にそれだけの男だな貴様」
「なんとでもどうぞ。ご苦労様軍人被れが」

 こうして、騒動は嵐のように、話し合いわずか30分で過ぎ去った。

 結果有島は遥か西の訓練所へ左遷。栗林は穴を埋めるように一等海佐へ昇格。結局データは、未だ雨の手元にある。提出したのはどうやら、有島の手による3000万の隠蔽のみ。
 所謂見せしめというやつで。
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