ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
181 / 376
The 12nd episode

1

しおりを挟む
 病室を出て何気なくケータイ画面を見ると、着信が入っていた。
 環の病院からだった。

「おっ…」
「どした?」
「ちょっと…」

 二人に手で合図をしてその場で電話を掛け直す。
 ここ最近忙しさにかまけて、全然環の病院に顔を出していない。

何かあったのだろうか。

 繋がってから出来るだけ声を潜めて少しの応対。
 2回目の「少々お待ち下さい、お繋ぎします」から、精神科医の増山先生に直接繋がった。

「もしもし、お電話頂きました、壽美田です。遅くなってしまってすみません。あのー、青葉環の…」
『あぁ、お忙しい中わざわざすみません。今、大丈夫ですか?』
「はい、なんとか」
『実は作戦、そろそろ決行しようと思いまして。最近お忙しいですか?』

 病院名と青葉環の単語に、政宗が俺の顔を覗いてくる。

「…作戦決行、となりますと?」
『手術したと言い、退院に向けてカウンセリングをして行こうかなと』
「環ちゃん、ダメそうか?」

 政宗が心配そうに聞いてくる。
 俺は一度、「すみません」と電話の向こう側に断りを入れ手でスピーカーを抑えた。

「いや、むしろ良さそうだが…」
「よかったじゃねぇか」
「うん、ただ…」

それは本当に良かったんだが。

「浮かないなぁ」
「…今…引き取ったとして」

俺、大丈夫なんだろうか。
はっきり言って身を守れるだろうかとか、色々と不安が過る。だって、今回だって真面目に暗殺されるんじゃねぇかとか思いながらの事件だったし。

「…ちょっと貸せ」

 と、言うが早いか政宗は、俺のケータイを奪い取って話を始めた。

「おひさしぶりです、荒川です。たまたま隣に居たんでいきなりすんませんね。
あー、はいはい。うんうん。
 OK。明日はこいつ顔出せるし、俺も夕方から行きますわ。設定的に夕方感動の対面といきましょーか。
 おー3日後ね。はいはい…。あー、3日後は多分ね、こいつも俺も部下が退院するんだよね、ほら、あの可愛い兄ちゃん。あ、なんなら一緒に行きますわ。うん、はい、はーい」

 切ってから電話は返された。

なんか、勝手に話進んだんじゃないかこれ。

「え、政宗…?」
「明日手術、3日後退院っつーことで」
「え、は?」
「明日お前午前中に行ってこい。夕方から俺も合流するから」
「待った待った、明日は…」
「え、みんな半休なんだろ?お前だけ一日。てか俺は潤の面倒見てから仕事出るから。
 潤の家知らねぇけどどこ?」
「いや知らねぇ。てか、は?え?」
「あー伊緒、お前どうする。明後日から流星には同居人が」
「おい待てやゴリラ!」

 流石に一回遮ってしまった。
 政宗は疑問符を顔に張り付けている。おかしいなぁ、俺が知っている先輩は一番常識人でしたが。

「どーゆーことだ、わからんぞ!」
「だから、明日環ちゃんは手術設定、お前立ち会う、3日後退院、お前引き取る、OK?」
「その流れはなんとなく察したんですよなんで勝手に決めたの、ねぇ」
「だってお前決めねぇじゃん」

やべぇこいつ何言ってんだ。

「ちょっと待てあのね、時期とかあるじゃん?」
「男らしくねぇな、いつ決断したってお前は不安定なんだよ」

 そう言われてしまうと反論が出来ない。しかしながら腹が立つ。

「流星」
「なんですか」
「大丈夫だよ、お前は殺さねーから」

 ただ、その先輩の言葉が少し刺さって。

「少なくとも俺が生きているうちは」
「…あんた、どうしてFBIにまた戻ったんですか」
「ん?
 これが俺なりのけじめだよ」
「けじめ?」
「だって俺、お前らと違ってずっと逃げ回ってるから。それが自己防衛だし、この際仕方ねぇんだ。
 だけど踏ん切りはどうやら付かねぇんだなって気付いてな。
 樹実を殺したお前も、お前を止められなかった俺も、何より、樹実を止められなかった俺にもな。だから俺はあれから辞めてねぇんだろうなと思ってな。
 結局凝り固まってるくせに最初に投げ出したのは俺だった。まぁ、特テロ部を一度バックれた時と一緒だ。俺は結局辞められない。中途半端なんだ。だけど、それでも、」
「先輩」

あんたは、いつでもそうなんだ。

「かっけぇよ」

だから先輩って呼べるんだよ。

「あんたにはあんたの、道があるな」
「…そう言われるほど立派なんかじゃねぇさ。ただ、俺は悔しかったんだ」
「政宗、」
「だから一人でお前らがどっかにいっちまうのは、避けたい。お前らにはわからない感性だろうがな。まだ俺は先輩で、仲間でいたい」

何言ってんだよ。
あんたそんなこと思ってたのかよ。

 思わずにやけてしまった。ふと政宗がタバコをジャケットから出して渡してくれた。

そういやぁ吸ってねぇ。潤に渡しちまったしな。

 ついでに政宗は見計らったかのように、俺に潤のタバコを渡してきた。

「あいつにも買ってきたんだがな」
「そうだな。今吸ったらあいつ、腹から出てくるな」

 流石に笑い合ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

処理中です...