ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 14th episode

4

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 不穏な空気に、ただただまわりは息を呑む。

「それは言いたくない」
「お前、」
「裏切ったことには変わりがないんでしょう。それで終わりにしましょう」
「それは困る。谷も鮫島も」
「僕は結局ジャンキーですよ!言うことを聞いたって意味なんてないんだ」
「…爆弾」

 祥真が後ろでポツリと言った。

「ヤクを突っ込んだ爆弾を作る。だからニトログリセリンが必要だった。
 谷栄一郎はどうやら、水素爆弾を秘密裏に作ろうとしてた疑惑で逮捕、殺害されているようだね、お宅らの資料を見ると」

 それは俺が最初に立てた仮定の話だ。

「君はどうしてこんなエセ学者と金のダニに耳を傾けたんだい」
「そんなの…」
「とても君の事情をこの二人が把握していたとは、思えないけど」
「…」
「君、遺伝子提供がもしや“昴の会”だと」

 途端に恭太は窓を開け放ち、蟀谷に再び銃口をあて、「バイバイ愛欄」それだけ言って発砲音がした。

「あっ、」

 一瞬の出来事に、一拍間があった。ただ、恭太が落ちて行くのを見て我に返り、俺は駆け寄るように窓の下を見つめた。

 下に血の海が広がっていた。

「恭太ぁぁぁ!」

 と叫び、背後に押しよる愛欄に向き直り、肩を掴んで制した。「やめろ、」

「見るな」

聞いた瞬間愛欄は驚愕を顔に張り付け、その人形のような顔を崩して泣き崩れた。すかさず側に霞やら瞬やら諒斗が駆け寄る。

「ぶちょー!!」

 俺は震える手をただ、握りしめて歯を食い縛った。
 若手たちが俺を見上げる。非難の目だ。しかし、どうも手を見てか、3人とも避難が動揺に変わったようで。

「流星」

 気付けば政宗も側にいてくれて。

「とにかく、みんな落ち着こう」

 慧さんまでも、若手に寄り添うように声を描けた。

「流星さん、私が行ってきます。現場検証は慣れてますから」
「…すみませんっ」

 慧さんはそれだけ言って部署を出て行った。

俺は部下を一人救えなかった。

「流星…、」
「悪かった」
「流星さん…」
「愛欄」

 愛欄に声を掛ければ見上げた顔はもう涙で濡れていた。座って愛欄の前で目線を合わせ、抱き締めた。

「すまなかった…っ」
「りゅ…うせい、さん、」

何て言おう、ただ。

「悔しい、」

それしか出てこなくて。

 言葉が見つからないまま愛蘭の背中を撫で続けた。その小さな背中にだんだん思いが込み上げてきて力が籠りそうになり撫でるのを止めた。
 それを察してか愛欄はばっと両腕で俺の肩を掴んでから離し、はっきりと見つめ合う。涙はなかった。

「情けないですね、お互い」
「…あぁ、そうだな」
「私は、これでも恭太を…守っている気でいました。それが、こんな結果になりました」

 また泣きそうだ。しかし、グッと堪えたように愛蘭は一度俯き、また俺を見る。

「私も行ってきます。私は彼の…姉のような存在であり、ここの情報担当で鑑識、猪越慧さんの弟子です。真実を貴方に報告するのが私の役目です」
「…わかった」

 立ち上がり、そして一度頷いてから彼女もまた部署から出ていった。
 はっと見れば他の若手メンバーは泣いていていた。
 俺に手を差し延べてくれたのは伊緒だった。その手を借りて立ち上がる。

「お前ら、悪かった」

 しかし3人は答えられないで頷くのみ。無理もない。仲間の死を受け入れるには、まだ彼らは若すぎる。

「こちらこそ、すみません…」
「え…?」
「だって、あんた今日っ、非番だしっ」
「いやそれはいいんだけど諒斗大丈夫か」
「大丈夫じゃないけど大丈夫です!」
「あぁ、はぁ…」
「俺だって…何も出来なかった」
「それを言ったら私なんてぇ!」
「お前ら本気で大丈夫か」

 3人一斉に「大丈夫です!」と言った後にしゃくりあげ、抱き合って泣いていた。そして、「よし!」と、突然瞬が立ち上がり、霞と諒斗に手をさしのべた。

「諒斗、霞。こうしちゃいられない。今ある結果をまずはまとめよう。ダメだこんなの。流星さんだって非番で来てるんだ、恭太だって…。
 だから、やろう。
 伊緒くん、少しの間、こっちも手伝ってくれないかな」
「…いいよ」

 意外や意外、若手のリーダー格は瞬が向いているようだ。
 二人は瞬の手を借りて、早々にデスクに戻る。

「…流星」
「はい」
「取り敢えずお前はタバコを吸いに行こう。喋りすぎてニコチン足りてないだろ。
 あんたは?」

 政宗に声を掛けられた。哀愁ある優しい目をしていた。この人はこんなとき、大体タバコに誘ってくる。

「あぁ、いいんですか?」
「まぁいいよ。悪かったね、こんなんなっちまって。コーヒー飲める?奢るから許してくれや」

 というか祥真がいたのを完全に忘れていた。

「ありがとうございます。どっちかって言うと紅茶がいいな」
「確かにそんな面してんな。よっしゃ行こうか」
「流星」

 ふと、祥真に呼ばれた。珍しく和やかな顔で、。

「君は良い部下を持ったようだね」

まさかそんな一言をこいつから聞けるなんて思わず、素直に驚いた。

「祥真…」
「あの頃の俺たちとは違う、そんな関係だ。だけど君は相変わらずお節介で不器用なヤツだな」
「…そう、かも。祥真」
「まぁいいさ。行こう。俺もタバコが吸いたい」

 促され、俺達は政宗を筆頭に喫煙所へ向かった。
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