ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 14th episode

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 現場検証は厳粛に、速やかに行われた。

 慧さんと愛欄には関係者として捜査禁止令が出てしまわぬように奔放しようかと思いきや、俺達よりも先に射撃場を出た祥真が新警視長官へ一言、「俺もその場にいましたし。俺も捜査するんで」と言い、あっさり許可を得たようで。
 加え、「入間いるまさんには俺から一報入れておいたよ」という報告まで頂いてしまった。

 これは後に高田に叱咤を頂くことだろう。俺は本気でそろそろ東京湾に沈められるかもしれない。

 俺と政宗は恭太が司法解剖やらのために運ばれた警察病院へ行くこととなった。まぁあっさり「自殺」で、加えて

「薬物接種反応あり。件の「バルビツール酸とコデイン」です」という、愛欄の淡々とした報告を受けた。

「しかし検査から常習性はなかったと判断できます」

 そう告げたのは慧さんだった。愛欄の肩を、がっつりと掴んでやっていた。

「…そうか」
「しかし、彼が…貴方や私や、みんなを裏切ったのは事実です。
 部長、私は…この権を持ちまして」
「ふざけるな」

 病院の廊下で俺達は静かにやり取りを交わした。

「ふざけるな。そんなくだらない理由、俺は配慮しない」
「…部長」
「確かに君に今回、彼のそれを任せたのは酷だった。それで辞めたいのならまだ受け付けようと思うが、俺は正直君を、強い女性だと素直に感心した。
 だって俺は君に見るなと言ったばかりだった。それを君は、やりますと自分から言ってくれた。祥真の言うようにそうか、俺は少しお節介だったなと、反省したがまだいまだに…それでいいのかと情けなくも思っている。
 これは君を信用していない訳じゃない。そしてこれは、もしかすると…言わない方がいいのかなとか、ホント、悪いが情けなくも俺は思ってるんだ人の死って、そうじゃないか?」
「流星さん…」
「俺は初めて人を殺したときも、今ですらもそうだずっと、一人一人に苛まれる。だから見るなと言った。
 君は、それでもひとつの仕事をやり遂げてくれた。俺が君の立場ならどうだったか、正直わからない。
 だから、そんなことで、彼がしたことがどう、誰がどうとかここに来てはもう、誰も咎めないし咎める権利もない。そんなことを言ったら俺はとっくに死んでおくべきなんだ。そもそもの発端は俺の…」
「わかりました部長。
 出すぎた真似を、生意気を言ってすみませんでした。
 ちゃんと伝わりましたから」

 愛欄の強い、だけど始終涙を堪えた瞳に俺はつい、思いを爆発させてしまったようである。

 政宗が後ろでふと笑い、慧さんと頷いたのがわかった。

「あなた方に何があったか、我々は知りませんけども、流星さん、貴方だって随分と、ちゃんと人として、部長としてやってこれてるじゃないですか。
 お節介?上等だと、いつもの貴方なら言うでしょう。愛欄さん、この人もまた、向き合ってくれてるようですよ。
 長いことこの業界でこんな仕事してますがね、なかなかこんな上司には巡り会えませんから、今のうち辞めないでいたらどうでしょう?確かに辛いけど、貴方なら、大丈夫」
「…はい、はい…」

 俯いて涙を流した。やはり女の子であり、姉である。

「ただ…ひとつ。
 悪かった。俺は守れなかった。そしてそれでもついてきてくれるなら…感謝しか出来ないんだ」
「やめてくださいよ、」

 顔をあげた愛欄は、泣きながらも微笑んだ。

「それがお節介なんです。男なら、ついてこいで…いいんですよ」

そういうものなのか。

「ぷはっ!
 もっと言ったれ愛欄!こいつは泣いてるやつに弱すぎる」
「そうですね、根性が足りませんよ」
「はい、痛み入ります」
「いやいや、優しいんでしょう」

どうしてこうも。

「それより流星さん、あんた非番で、しかもご用事があったんじゃないですか?」
「あ、はい」
「何してるんですか。ここは任せて早く。
貴方の用事なんて重要に決まってるでしょ」

まぁ。

「…政宗」
「あーあーはいはい。行ってこいバーカ」
「すみません、あとは、お願い致します」

 政宗にしっしとされる。
 正直このノリはあまり環の元へは行く気にならないが、この様子だと立ち去った方が良さそうだ。

 仕方がない。手始めに潤の病室に顔でも出しに行くか。そして罵られてこよう。
 時間はあと1時間くらい。病棟は違うが近くだしまぁ、暇潰しにはいいだろう。

 そう思って俺はまず潤の病室、向かいの病棟へ向かった。

 何を話そうか。まずは真相解明と結末、あとはやっぱり容態を聞こうか、どうせ大丈夫だけど。

今ごろ暇しているんだろう。

 受付を済ませて病室に行くと、潤の姿がなかった。
 少し不安に駆られたが、どうも看護師に話を聞くと、「さぁ、安静にはしててくださいって言ってるんですけど…ちょくちょく抜けるんです」と言っていたので。
 なんとなくピンと来て屋上に行ってみればビンゴ。手すりに寄りかかって黄昏ながらタバコを吸う線の細い背中が見えた。

「おいクソ病人」

 風が柔い色の髪を拐う。ゆったりとした動作で振り向く潤の目は、濁りなく、しかしつまんなそうに細められていた。

「あぁ、お前か」
「腹から煙出るぞ。お前寒くねぇのか?」

 病院の浴衣から見える白くて細い手足が生々しい。いつもの雰囲気とはまた違った潤が見られた。
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