ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 15th episode

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 車から降り、厚労省の受付に行くと、受付の30代くらいの髪を一纏めに結った女は、何やら怪訝そうな顔で「はぁ、」と生返事を返してくる。

 まぁ俺の年齢と官位のギャップにより生じる胡散臭さによるこんな反応には慣れている。こんなときは構わず進めるしかない。

「本日からこちらの麻薬取締部隣の部署の一角を借りることになりました、厚労省在籍の特殊捜査本部部長の壽美田です。入間いるまさんからは取り敢えず3階?だと聞いたのですが…」
「…あぁ、確かにありますね」
「では、引っ越しなど済みましたら、書類などはお持ちいたしますので」
「いや、ちょっと…。
 いまは待ってください」
「は?」
「…本日は麻薬取締部にて緊急事態が発生しておりまして、人を通すなと、麻薬取締部部長の原田はらだが申しておりまして」
「あぁ、原田さんね。
 なら、繋いで頂いてよろしいですか」
「え、」
「知り合いなんで」

 そう俺が言うと、渋々女は内線を回した。

「もしもし…はい、受付です。
 ただいま受付に壽美田さんという方がいらっしゃってまして…隣の部署に…え?はい…。
 変わってくれ、だそうです」

 そう言って受話器を渡された。
なんだ一体。

「もしもし、壽美田です」
『あぁ、こんにちわ』
「本日からお世話になります。あの、通してくれないんですけど行っていいですか?お隣」
『あぁ、どうぞ。というか…。
 壽美田さん、ちょっと、手伝ってくれません?』
「はい?」
『いやぁ多分お宅らの案件のような気がするんです。ただちょっと実態が掴めてないんで、取り敢えず我々も引っ越し手伝いますので、そしたらお話しします』
「…はぁ」
『実はうちの副部長、拉致られちゃって』
「は?」
『犯行声明まで届きました。そのグループ、初めて聞く団体なんです』

取り敢えず、行くしかなさそうだ。

「わかりました。ただ俺も政宗も野暮用があります。引っ越しが済み次第お伺いします」
『助かります』

 電話を返して立ち去る。

 それから後は取り敢えず慧さんに任せ、俺はもう一度だけユミルに電話を掛けた。
 政宗が隣で見守る中、案外すぐに繋がった。しばらく喋らずに様子を伺おうと思ったら、『あ流星?』と、わりと元気そうなユミルの高めな声が聞こえた。

「もしもし…」
『ごめーん、ちと色々あった』
「観てたよ。大丈夫?てか何があった?生きてるようならいいけど…怪我は?」
『ぜーんぜんないヨー。まぁちょっとまだかいほーしてくんない。まぁ、ただカメラマンが暴れただけー』
「は?」

なんだそれ。

 心配そうに見ている政宗に俺は頷いた。一息吐いて安心が見て取れる。

『それでさぁ、そのカメラマンさー。ジャンキーなんだけど、そんでもっていちおーぶん殴って気絶させといたけどこれってそっち連れてくよネ?』
「…え、状況わかんない、いま君は何してんの?」
『ショウとパトカーにいる』

そうだった。
心配すべきはそこだった。
こいつ、宇宙人だったんだ。

「…ちょっとショウに代わっ」

 言ってる間に『もしもし?流星?』と言う滑舌の良い声。
 どうやら本当に一緒にいるらしい。そしてBGMに金切り声と、『耳元うるさい』と言うユミルの声に打撲音。

俺昔こいつらと組んでてよく気が狂わなかったなぁとふと思う。

「…もしもし。
 状況が全くわからないけど取り敢えずなんかこっちも立て込んでるから…」

護送を頼もうかと思ったがそうだ。
相手は祥真だ。

 政宗と顔を見合わせると、特に何も言わずに見つめるだけだ。どうやら一任されたらしい。

「俺は今からちょっと病院に行かなきゃならない。相方が今日退院なんだ」
『あそう…』
「そちらへは政宗が行く。まぁマトリ捜査員だし、都合がいいだろ。あと俺そっち行くの絡まれるから面倒なんだよ」
『え?』
「なんか変なジャーナリストに」
『…それはウザいねぇ。どんな人?』

 なんとなく特徴とかを祥真に話しそうになった自分がいて、そのタイミングで政宗が「代われ」と手を出してきたので祥真に断り、政宗にケータイを渡す。

「どうも。副部長の荒川です。今から行くんで申し訳ないけどその宇宙人とジャンキーの世話、それまでお願いします。では」

 政宗は電話をすぐに切り、ケータイを寄越して来た。

「ほれ、行くぞ」
「あぁ、はい」

 先に歩き出す先輩の背についていく。

 ビルから出てすぐに政宗はチェスターコートのポケットからタバコを取り出し、くわえて立ち止まって火をつけた。
 俺は取り敢えず政宗に一度頭を下げた。顔をあげてから俺もならってタバコに火をつける。

「…いいのか俺で」
「はい」
「お前の昔の」
「あんただって昔も今も先輩だ」

 政宗は俺を見て、ニヤリと照れ臭そうに笑い、「やめろよこそばいな」と言って俯いた。

「けどお前の判断だ。部署の皆になんかあったらお前、」
「大丈夫です、そんときは俺自殺しますから」
「あーあー、もー。
 とにかくな、お前まずは、潤を無事にここまで連れて来い。昔も今も俺にとっちゃクソ生意気な後輩だ」
「はい、はい…」
「意味わかったか単細胞。さて、行こうか」

 先を行く政宗は後ろ手を振る。
あの人になら頼める。間違っていたとしても引き止めてくれるはずだし疑いなら、晴らしてくれる。仲間の意味を、わかってくれているから。

俺たちはどこかでやはり、縛られてなくてはならない。それは言い換えれば繋ぎ止められているということなのかもしれない。それを作ったのは皮肉にもあの事件でありあいつなんだ。

だからこそ後悔には変えたくない。何に向かっていようと俺はヒーローをこの手で失ったのだから。代償だけで生きていくには、まだまだ不揃いで癪である。
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