214 / 376
The 15th episode
4
しおりを挟む
テレビの向こうで、ユミルがどこか、報道陣だろうか、奥を見たような気がした。
何かに驚いている様子だった。
「あっ、」
画面が、揺れた。
そして現場の騒がしい雰囲気と、足音と、画面が途切れ、中継からテレビ局へ画面が変わった。
わずか30秒たらずの放送事故。思わず釘付けになり、別のニュース番組を見ると、同じような状態。
何だ、何が。
「なんだこれ…」
すぐさまユミルに電話をする。
1コールで繋がった。
「おいユミル?」
しかし待ってもユミルの声がしない。
代わりに聞こえてきたのは、雑踏のような聞き取れない音声。唯一近く感じた怒声のような叫びは、恐らく、声の高さがユミルの物だ。
「どうした、」
「…多分、生きてはいますね」
「は?」
取り敢えず電話を切った。
高田にすぐさま電話を入れる。
『おい、壽美田』
「はい。ユミルの件です。大至急捜査員の派遣をお願いします」
『…何があった。まぁ悠長に話してる場合じゃないが生存を』
「生きてはいるようです。いや引っ越ししてたんですけど…どうもマスコミが入り口で張っていたようで」
「流星。
さっきの記者、多分つけてきてるぞ」
やはりか。
『記者?』
「ええ。なんか変なジャーナリスト?に裏口で声かけられて」
『んな、てことは』
「は?」
『いや。
つまり千種がマスコミ引っ張ってる間になんとか出ようとしたわけか』
「はい」
『だとしたらお前、やらかしたな』
「え?」
『いや、でもまぁ…どちらとも言えないが…多分千種が死ぬことはない。なんせ、現場には山下がいる。ただ、一気に山下は足場が怪しくなったな。
千種が死んだら恐らく山下は黒。あそこに立つのはどちらかと言えばお前であるべきだったな』
「え?なに?」
『取り敢えずニュースから目を離すよ。多分、もうワンアクションあるだろう。
お前、エレボスの一番最初の要求、覚えてないのか?』
一番最初の要求?
何を言ってるんだ一体。
どこの記憶を引っ張り出してきたらいい?
ケータイを力なく切った。
しばらく、ニュースをぼんやり眺めているが何事も変化はない。
恐らくこのニュースの時間では、何も変化はないだろう。
「…わかんねぇ」
「何がだ」
「…ここでユミルが死んだら、高田は、祥真が黒だと言った。それがわからない。何故、」
「まぁ…。正直、あいつ怪しいと言えば怪しいよな」
「だが理由がない。アイツがそれをする理由が」
「流星、それを言っちまったら、やつらの目的も、…樹実の目的ですら、わかっていない」
「…まぁ、」
まだまだ俺たちは何一つ。
7年もずっと進んでいない。
「あー、くそっ…!」
タバコに荒々しく火をつける。最早不安とか、焦りは通り越した。嫌なくらいに悔しくてイライラする。
「取り敢えず引っ越しだ。そしたらどうする?潤は俺が迎えに行くか?」
そうだ。
忘れていた。
「今日退院か」
「そうだよ」
本当にアイツの生命力といったらスゴい。
「いや…うーん…。
俺が現場に戻るとしたら、政宗は部署にいた方が…」
「流星、こいつら、そんなにバカじゃないだろう?」
ふと政宗が、後ろを見るように視線を動かす。俺が後部座席を覗きこめば、諒斗が頷き、愛欄も静かに、しかし力ある瞳で見返してくれていた。
「そっか…」
「という訳で。
潤はどうする?流石に手伝わせるのは腹の傷が開いたりしねぇかあいつ」
「あぁ…どうかなぁ。でもあいつもまた怪物だからなぁ。
昨日も行ったら屋上でタバコ吸ってたしなぁ。案外ぴんぴんしてんだよなぁ」
「うわぁあの野郎。あんなに血のっ気失って真っ白な顔してても血気盛んか。どうしょーもねぇ」
ホントだわ。
「てか今更なんですけど」
ふと諒斗が言った。
くるなこれは。
「あの人どうしたんですか一体」
「んー…。
あそっか、諒斗はわりとアイツのヤバさと言うか性癖をご存知か」
「ダイレクトで聞いてたもんな、ホストクラブで」
「いやぁ…」
俯いてしまった。
察しろ。つまりそういうことだ。
「え、そんな感じですか?」
「お前度胸あるよな無駄に。
そうだよ。しかも件の警視庁官だよ」
「え、」
そりゃぁまぁ。
「何故?」
そうなりますよね。
「なんか掴んだっぽいけど。
あ、政宗、言い忘れてました。で、あいつ結局押収したヤクをどっかにやっちまったって昨日言ってましたよ」
「はぁ!?」
「うん」
「は?何?あいつバカなの?」
「それは前からでしょ。でもまぁ…、珍しいヘマが、あったもんだ」
それはそれはとてつもなく作意を感じる不自然なヘマがなぁ。
「これじゃぁただぶっ刺されて終わっちまったな」
「でもまぁいずれ…。本当に繋がっていたら辿り着く。
長官のDNAからはヤクが検出されている。いずれにせよ厚労省、麻薬取締官の管轄だ。
ただウチは国勢調査の管轄にも入っちまったからな。事態がどう動くかはわからん。しかしまぁ、いざってときの権限発令はあんたの権限だ、いまや」
「なるほどな」
「ただ、ここに曲者が介入している。ここからは時間もあまりない。
あくまで俺は、俺がやれる捜査をする。それぞれがそうして一つずつ潰していくしかない。現状、特本部は逆境に立った。しかしこれもまた好機だ」
そして何より。
「だけどまずは身の安全が第一。命を掛けて挑む覚悟だが、それは覚悟だけでいい。身を滅ぼしてしまったら最後、本当に迷宮入りしてしまうんだよ」
その迷宮に、いま俺たちは立ち、また新たな迷宮へ突き進もうとしている。
死も見た。だが、生も、見た。
「…それはちゃんと、みんなに伝えた方がいい。
お前は口下手だよな。だがたまにそうやってちゃんと饒舌だ」
「…そうかもね」
漸く厚労省の東京厚生局のビルが見えてきた。
何かに驚いている様子だった。
「あっ、」
画面が、揺れた。
そして現場の騒がしい雰囲気と、足音と、画面が途切れ、中継からテレビ局へ画面が変わった。
わずか30秒たらずの放送事故。思わず釘付けになり、別のニュース番組を見ると、同じような状態。
何だ、何が。
「なんだこれ…」
すぐさまユミルに電話をする。
1コールで繋がった。
「おいユミル?」
しかし待ってもユミルの声がしない。
代わりに聞こえてきたのは、雑踏のような聞き取れない音声。唯一近く感じた怒声のような叫びは、恐らく、声の高さがユミルの物だ。
「どうした、」
「…多分、生きてはいますね」
「は?」
取り敢えず電話を切った。
高田にすぐさま電話を入れる。
『おい、壽美田』
「はい。ユミルの件です。大至急捜査員の派遣をお願いします」
『…何があった。まぁ悠長に話してる場合じゃないが生存を』
「生きてはいるようです。いや引っ越ししてたんですけど…どうもマスコミが入り口で張っていたようで」
「流星。
さっきの記者、多分つけてきてるぞ」
やはりか。
『記者?』
「ええ。なんか変なジャーナリスト?に裏口で声かけられて」
『んな、てことは』
「は?」
『いや。
つまり千種がマスコミ引っ張ってる間になんとか出ようとしたわけか』
「はい」
『だとしたらお前、やらかしたな』
「え?」
『いや、でもまぁ…どちらとも言えないが…多分千種が死ぬことはない。なんせ、現場には山下がいる。ただ、一気に山下は足場が怪しくなったな。
千種が死んだら恐らく山下は黒。あそこに立つのはどちらかと言えばお前であるべきだったな』
「え?なに?」
『取り敢えずニュースから目を離すよ。多分、もうワンアクションあるだろう。
お前、エレボスの一番最初の要求、覚えてないのか?』
一番最初の要求?
何を言ってるんだ一体。
どこの記憶を引っ張り出してきたらいい?
ケータイを力なく切った。
しばらく、ニュースをぼんやり眺めているが何事も変化はない。
恐らくこのニュースの時間では、何も変化はないだろう。
「…わかんねぇ」
「何がだ」
「…ここでユミルが死んだら、高田は、祥真が黒だと言った。それがわからない。何故、」
「まぁ…。正直、あいつ怪しいと言えば怪しいよな」
「だが理由がない。アイツがそれをする理由が」
「流星、それを言っちまったら、やつらの目的も、…樹実の目的ですら、わかっていない」
「…まぁ、」
まだまだ俺たちは何一つ。
7年もずっと進んでいない。
「あー、くそっ…!」
タバコに荒々しく火をつける。最早不安とか、焦りは通り越した。嫌なくらいに悔しくてイライラする。
「取り敢えず引っ越しだ。そしたらどうする?潤は俺が迎えに行くか?」
そうだ。
忘れていた。
「今日退院か」
「そうだよ」
本当にアイツの生命力といったらスゴい。
「いや…うーん…。
俺が現場に戻るとしたら、政宗は部署にいた方が…」
「流星、こいつら、そんなにバカじゃないだろう?」
ふと政宗が、後ろを見るように視線を動かす。俺が後部座席を覗きこめば、諒斗が頷き、愛欄も静かに、しかし力ある瞳で見返してくれていた。
「そっか…」
「という訳で。
潤はどうする?流石に手伝わせるのは腹の傷が開いたりしねぇかあいつ」
「あぁ…どうかなぁ。でもあいつもまた怪物だからなぁ。
昨日も行ったら屋上でタバコ吸ってたしなぁ。案外ぴんぴんしてんだよなぁ」
「うわぁあの野郎。あんなに血のっ気失って真っ白な顔してても血気盛んか。どうしょーもねぇ」
ホントだわ。
「てか今更なんですけど」
ふと諒斗が言った。
くるなこれは。
「あの人どうしたんですか一体」
「んー…。
あそっか、諒斗はわりとアイツのヤバさと言うか性癖をご存知か」
「ダイレクトで聞いてたもんな、ホストクラブで」
「いやぁ…」
俯いてしまった。
察しろ。つまりそういうことだ。
「え、そんな感じですか?」
「お前度胸あるよな無駄に。
そうだよ。しかも件の警視庁官だよ」
「え、」
そりゃぁまぁ。
「何故?」
そうなりますよね。
「なんか掴んだっぽいけど。
あ、政宗、言い忘れてました。で、あいつ結局押収したヤクをどっかにやっちまったって昨日言ってましたよ」
「はぁ!?」
「うん」
「は?何?あいつバカなの?」
「それは前からでしょ。でもまぁ…、珍しいヘマが、あったもんだ」
それはそれはとてつもなく作意を感じる不自然なヘマがなぁ。
「これじゃぁただぶっ刺されて終わっちまったな」
「でもまぁいずれ…。本当に繋がっていたら辿り着く。
長官のDNAからはヤクが検出されている。いずれにせよ厚労省、麻薬取締官の管轄だ。
ただウチは国勢調査の管轄にも入っちまったからな。事態がどう動くかはわからん。しかしまぁ、いざってときの権限発令はあんたの権限だ、いまや」
「なるほどな」
「ただ、ここに曲者が介入している。ここからは時間もあまりない。
あくまで俺は、俺がやれる捜査をする。それぞれがそうして一つずつ潰していくしかない。現状、特本部は逆境に立った。しかしこれもまた好機だ」
そして何より。
「だけどまずは身の安全が第一。命を掛けて挑む覚悟だが、それは覚悟だけでいい。身を滅ぼしてしまったら最後、本当に迷宮入りしてしまうんだよ」
その迷宮に、いま俺たちは立ち、また新たな迷宮へ突き進もうとしている。
死も見た。だが、生も、見た。
「…それはちゃんと、みんなに伝えた方がいい。
お前は口下手だよな。だがたまにそうやってちゃんと饒舌だ」
「…そうかもね」
漸く厚労省の東京厚生局のビルが見えてきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる