ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 22nd episode

5

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 見上げたら政宗は、
まぁ俺の情緒不安定には慣れてるんだけど、でもって見慣れた微かな心配顔が見えた。

「あっ、お前」

 それからにやっと笑った。

「そーやって口説いてきたのかこの野郎!ちょっと一瞬悪どい顔したぞこの性格破綻美人!」
「あっ、バレたぁ?」

 鼻声やべぇし。

「性格悪ぃ~」
「ちゃうて、あん…涙ばね、あー、あんか出て来ちゃうんだお」

 喋りにくいわ。

「は?何だって何だって?」

 からかうように耳に手を当て聞くように政宗が俺に寄ってきたので「うるへえ、」言ってぶっ叩こうとすれば避けられる。そして俺はよろける。

 「全然ダメじゃん」とか言われてしまい、また肩を借りて医務室へ向かい。

「でも冗談抜きでなお前。なんだかんだあれから経理と、鑑識手伝いと、まぁあと何始めたかおおよそ検討はついたりつかなかったりするが一つ、
 ホテルテロなら多分會澤の手練れじゃねぇよ、多分」
「は?ん?」
「狙撃犯。お前さっきパソコンで見てた銃弾それだろ?」
「あれ、そうらっけぇ?」
「大丈夫かお前。
 まぁ流星が上げてくんだろ。これ、俺の予想でしかないからな。
 會澤は末端も末端。バイヤーでしかなく直接な関わりはないんだろ」

何に。
とは、言わなかった。

「あの日流星は“ライフル弾”と言ったよな。なかなかな手練れじゃなきゃ使わんと」
「そうだっけ」
「…お前ホント仕事に淡白だな。あの場限りだと、大して覚えてねぇんだろ」
「いや、うーん」

わりとそうだけど。

「あの東京湾で見つかったヤクザ。
 あの直後だぞ組抜けしたの」
「は?」
「うん。大体ヤクザにんな、流星が言う程にスナイパー級の手練れなんていねぇよ、日本にはな」
「ん、待て、」
「たまにいるがな。いや、しかし無難に考えよう。
 會澤は最早無駄足、フェイクだったとして。
 さぁ果たしてんな、手練れを扱える組織、人物、どこにいるのかなと」

それって。
もしかしてだけど。

「た、」
「殺されちまうから言うなよ」
「いや、でも、」

何故だ?

 医務室について適当に政宗は受付で使用の、書類とも言えない紙を書き、俺は女性医務員に「どうしました」と聞かれるが、

「熱っぽいだけです。そいつ平成だから」

 と政宗が医務員に偏屈を言って紙を渡し、「ほら、」と、2番目くらいの部屋に入った。

「動機なんて、」
「ないなぁ。
 だがどうやら、昔と状況が変わらないよな」

 話しながらジャケットを脱いで壁掛けのハンガーに掛けてからベットに座れば、「寝ていいから」と政宗に飽きれ混じりに言われた。
 仕方なく俺がベットに入れば、政宗は側の椅子に前屈みに腰掛け一息吐いた。

「確かにさ」
「うん、」

 昔も多分樹実さんは、最終的に内部を追って終わった。
その後捜査は国が、
国が動いた?と言うか、

「あれ、」
「…わりと近い人物が見えてきたわけだ」
「いや、待ってよ、」

なにそれ。
それじゃぁあの頃や、いまや、俺たちは。
雨さんや樹実さんは何だって言うんだよ。

「…まぁ、今は休めよ潤」
「信用できねぇ、だって、あんただって、」
「だから、」

 ふと立ち上がり政宗は俺の顔を覗きながら額に手を当てた。
 政宗の手の方が熱かった。
 「案外熱くねぇな」とか言いながらも、先程から焦りで滲んでいる俺の汗を拭うようにして。

「だからいまは休め。お前が全てに疑心暗鬼になるのは、昔の俺と変わらない」
「それは…」
「あぁ。樹実は俺に何も言わなかったからな」

それってさぁ、

「ガチじゃん」
「そうだ、ガチだ」

じゃぁもしかするとあの。
雨さんが一番最期に俺に託したあのUSBは。

「…だったら。
 悪いが別で動いていい?
 流星はきっと内部を漁る。それは樹実さんがそうだったから。
 …俺は昔海軍所にいたことがある。あの人は、出会う前、海外の仕事もしていた」
「確証は?」
「ある」

 政宗は座り、しばし考えるように宙を見た。
 そして悲しそうに笑った。

「お前らも、やっぱあいつらに似ちまったな」

…そうかもしれない。
 しかし次には政宗は俺を睨み付けて言う。

「だから俺は同じことは言わない。
 ダメだ、潤」
「何故」
「俺はまた仲間を失いたくないからだ。
死ぬなら共に死のうと決めた、ここへ来て…」

そんな。

「あんたそれ、きっと樹実さんにも言ったんだろ」

ならば俺だって。

 はぐらかすように政宗はまた同じような、正直な笑顔を浮かべるだけだったから。
 俺はそこまでは冷徹じゃなかったのかと己を知った。しかし言おうに言えない気持ちは漸く、あの頃の二人を思えば想像がついた。

「じゃぁ来て。死ぬときは」

 俺が怠く政宗に手を伸ばしそう言えば、驚いたような表情をした後に政宗は「ふ、」と笑って。

「ふ…ははははは!お前、そうやって落としてきたのかこの野郎!」

 爆笑した。
 笑いを堪えないまま「くっく…っ、」と、しかし俺が出した手を握り政宗は言うのだった。

「あの人はそう言ったのか?あの頃」
「いや、」

 何も言わなかった。
自分と歩んで欲しいだなんて、言ったこと、なかったんだ。

「あぁ、そうかい、」

 そして政宗は自然に笑った。

「随分偉くなったな、後輩」

なんだよそれ。

「まぁ、言われなくても俺はいつだってその気だったんだよ、潤」
「わかってる。俺もあの頃言われなかったから」
「だろうなぁ…」

 宙を見上げる政宗と。
多分俺の気持ちは変わらない。

「…俺寝るわ。マジ死にそう」
「あぁはいよ」
「俺が寝るまでそこにいて。誰かいないと寝れないから」
「天然タラシ最低野郎め。思い込みだよアホ」

 政宗に背を向けて。
 漸く、漸く。
 今日一こっそり泣けた。そう、思い込み。涙腺緩むとか、ホント。
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