ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
323 / 376
The 30th episode

4

しおりを挟む
「何も知らないなら、仕方ねぇよ、多分」
「…はぁ!?」
「違法捜査ぁ?
 上等だろ、政宗。この国の正義はそうじゃないか。政治家、マスメディア、もっと小さい。個人、組織…権力でいくらでも変わって行く。被害なんて二の次だ」
「…流星?」
「そうですよね咲田検視官。
 誰に言われたか知りませんが、エレボス事件は国家機密であり、官房長官や警視庁長官が死んだことはタブーだった。我々が誰なのか知りたいなら…。
 それを追っている末端の組織、これでお間違いはありませんか?貴方にはいま聞かせましたよ。
 潰しに掛かるならどうぞご自由に。日本警察がゴミならCIA…ICPO…まぁ、来られたところで手込めにしてやりましょう」
「…待て、…本当に何を言ってるのか」
「でしょうね。一生そうしてぬるま湯に浸かってればいい。
 政宗、行きましょう。無駄ですね。
 あ、咲田さん。悪いが環の遺体は俺が引き取らせていただきます。遺族としてそちらに預けるわけにはいかない」
「遺族?何故、」
「婚約者だからです。別に墓建てるくらい、国民の自由でしょう?遺族ですから。帰還申請書類ならあんたにいま渡せばいいか?それでもそうだなぁ…。
 遺体を勝手に埋葬しようものならそれこそ裁判でも暗殺でもしてやるよってね」

 さっき咄嗟に入れた録音機能をONにしたケータイの画面を見せつけた。
 これでなんとか、環の遺体は守れただろうか。

「そうだマスメディアの…ストーカー容疑で引っ張った野郎がいたな。
 遺体は今日中に持ち帰りますので」

 と、とどめを指すつもりで言い捨て、廊下を歩く。

 階段を登り咲田が見えなくなったあたりでやはり震えが来て忌々しくなり手を噛んだ。やっぱり癖らしいな、これ。

「流星…、お前」
「日本人がダメなら本拠地に行けばいい。確か祥真がいまここにいるんだろ?」
「本拠地って…」
「俺は高田のお陰でそれに関しては知り合いがたくさんいる。
 高田の思惑もいまいち不透明なら正式にやれば…
とメンチ切ったはいいがわからんな。無駄かもしれない」

 漸く「ふっ…、」力が抜けたら急激に眠くなるような、
瞼が痛んで視界が強制的に悪くなった。虚しい、虚しい、何よりも現状の力なさが虚しくて仕方のない。

「流星…、」

 肩に手を置かれても耐えられなかった。声にならない悔しさが喉から出ていく。

 泣いている資格なんてない。だからこそ生理現象を抑えようと、階段にしゃがんで暫くは、嗚咽を殺そうとしてみる。

 政宗は側でそれを待っていてくれた。何分か、十分単位か、わからない。久々に身体が痺れるくらいにそれを体験した。俺はずっと、泣きたかったのかもしれないな、どこかで。

誰にもわかって貰えない、あんたはこの押し寄せる孤独にどうやって耐えて来たんだ樹実。俺は正直この先耐えられるのか、いや、耐えなきゃあんたも環も誰も救えない。
ヒーローは樹実に譲るから、せめてこんな時の強さをくれよ。俺はちっともわかってなかったんだ。

「…これ終わったら…」

 政宗が言った。
 政宗が泣いている。泣き顔なんて、泣くことなんてあの銀河の葬式以来だったのに。

「少しは…許せるか流星…、」

何に対して許すんだ。
何にそんなに罪悪感が沸くのか。
わかっている気がする。
こればかりは先輩を思えば、共有出来るような気がするよ。

「その為にも、」

 初めて俺は政宗の頭をポンポンとした気がする。良いだろ、俺、上司だもん。

「やりましょうか、副部長」

 手を貸して、立ち上がって。
少しはこのレールで歩いて欲しい、そんな調子に乗ったことまで考えて。いいさ皆、自分の正義を歩こうじゃないかこの国で。

あとは全部、部長が背負ってやるよ。けど、ここまでだ。先の未来は託すべきじゃない。俺は過去に辛かった、この利己だけは口下手ながら分担して押し付ける、上司だから。そうやってみんなで生きたらいいんだと、信じようと考える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

処理中です...