350 / 376
The 33rd episode
7
しおりを挟む
現れた片腕の男は普段より、遥かに澄んだ目をしていた。
笑い方も、見たことがないなと白髪の研究者は皮肉にも意図を読み取った。
「同族だと思ってさ」
相手の空虚な表情に、片腕のヤマシタはなんだか、穏やかながらも殺伐とする、一種の双極性障害のようだと一人感じる。自分なのか、相手なのか。
戦は一人死んだ時点で始まるのだと、過去に学んだことがフラッシュバックした。
「何に捧げてきたんだヤマシタ。気が触れたのか」と学者、箕原海はさして感情もなく言った。
「…俺は自分にしか物を捧げないと、抜けたときに決めたからね」
「じゃぁ正気じゃないな。片腕で俺のところに来るなんて」
「お前に言われたらおしまいだな」
半壊した宗教施設で二人は話す。
睨む箕原、穏やかな祥真。
結果が物語ることに敵意は必要がないと祥真は、全てを失った12歳を思い出す。
全てを、失ったはずだった。ただ、壊せていないだけだと、それだけ物語ればいいのだ。
「…君が今やっていることは、君が亡くしたその日の、敗者と同じことだと言いたい。
俺は一つの破滅を臨んだ。ただ、死にたかっただけだったんだよ、ミノハラ」
「じゃぁ殺してやるよ」
箕原海はジャケットの、内ポケットからスチェッキン・マシンピストルを抜いた。
そうだ、やはり同族だなと祥真は片手でコンバットマグナムを抜くけれど、利き手じゃない。それは箕原海にもわかる。
「ふっはっは、バーカ!」
と気が狂ったように笑いつつもスライドを引いている。
この同族にはせめて別の形で終焉を与えたい。
これは、自分の正義なんてものは。
エゴでしかない。
「…話聞いてから殺してくれる?いまフェアじゃないでしょ」
「元からフェアだったっつーのかぁ?え?
始めから貴様なんてなぁ、」
「わかってるよ。だから言うけどお前の憎しみは間違っている」
「なんだぁ?」
このっ、
「クソ宗教でラリっちまってるかもしんねぇけどてめぇが信じてるもんはなぁ、てめぇが憎んだそいつが作り上げた偶像なんだよ。お前もラット、実験体でしかないんだよっ、」
「はぁ?
ラリっちまってるのはてめぇじゃねぇのか」
「なんだっていい。お前はこの国のために生きこの国のために滅ぼされる、それだけのことだよ」
「あ?」
相手はラリっているが。
頭にくれば話くらいは聞くらしい。
元々ネズミは話を聞けるようになんて生まれてきていないんだと、祥真は片隅でまだ箕原を蔑んだ。
だがそれは、俺も一緒だ。
「…笑って良いよ。この組織は国に辟易としたラットが作った“裏”だ。裏に必要なのは表。そうして表裏合体するために作られた戦場だ。お前が称した“ミサ”という大量殺人も、あの男の快楽でしかないんだよ、覚えてないのか、俺の“昴の会”はそうしてこの世界が、この“昴の会”が、誰かぶっ壊してくれここから出してくれと、いつも願っていたんだよっ!」
「だからなんだっていうんだ」
「はぁ、俺が創造主のところに送り込まれた“モグリ”だと言ったら殺してくれるか、なぁ!」
「冒涜だな、」
ダメかもしれないな。
…わかっていたけど。
少しくらい、情けをかけて中途半端に火をつけたのが悪かったのかと祥真はバレルを親指で上げる。それくらいの力はある。
きっとあの日のヒーローはこんな気持ちだっただろう、彼も一介の人だった。神なんかじゃない。だが俺はこんな形に破滅を望むらしい、カヤヌマイツミ。
…利き手じゃない。左手で蟀谷撃ち抜こうなんてバカげてるとは思うよ。片腕の重心だってないのにね、どこに当たるか、わかんないけどね。
気が狂ってるなんて物心ついた時からそうだった。ハデス、果たしてあんたはこの孤独を知って破滅を蒔いたのか。
多分、そうじゃないんだ。
「君が殺せないのは自分じゃない“神”じゃないかミノハラ。過去も未来もそこには何もない」
「じゃぁ神はなんだという、」
「紛れもなく“自分”だね」
君にはわからないだろうね。
破壊から執着して神を作り続け、鳥籠に居続けた君には、これはだけど、やってることは人なんだ。全て──
「祥真ぁ!」
同族の、
咎めるような、けれどこの冒涜を止めるような。狂犬の声がした。
「なにしてんだよおい!」
あぁ…。
「流星?」
なんで来ちゃったんだよ。
いや、本当は少しわかっていたんだけど。
「ぶっ殺してやるから降ろせよ祥ちゃん!」
……やっぱりね。
君に言って正解だったか、俺いまいちわからないわ、潤。
少し、緩んだように祥真は振り返る。
潤、
言おうとして発砲音がした。
笑い方も、見たことがないなと白髪の研究者は皮肉にも意図を読み取った。
「同族だと思ってさ」
相手の空虚な表情に、片腕のヤマシタはなんだか、穏やかながらも殺伐とする、一種の双極性障害のようだと一人感じる。自分なのか、相手なのか。
戦は一人死んだ時点で始まるのだと、過去に学んだことがフラッシュバックした。
「何に捧げてきたんだヤマシタ。気が触れたのか」と学者、箕原海はさして感情もなく言った。
「…俺は自分にしか物を捧げないと、抜けたときに決めたからね」
「じゃぁ正気じゃないな。片腕で俺のところに来るなんて」
「お前に言われたらおしまいだな」
半壊した宗教施設で二人は話す。
睨む箕原、穏やかな祥真。
結果が物語ることに敵意は必要がないと祥真は、全てを失った12歳を思い出す。
全てを、失ったはずだった。ただ、壊せていないだけだと、それだけ物語ればいいのだ。
「…君が今やっていることは、君が亡くしたその日の、敗者と同じことだと言いたい。
俺は一つの破滅を臨んだ。ただ、死にたかっただけだったんだよ、ミノハラ」
「じゃぁ殺してやるよ」
箕原海はジャケットの、内ポケットからスチェッキン・マシンピストルを抜いた。
そうだ、やはり同族だなと祥真は片手でコンバットマグナムを抜くけれど、利き手じゃない。それは箕原海にもわかる。
「ふっはっは、バーカ!」
と気が狂ったように笑いつつもスライドを引いている。
この同族にはせめて別の形で終焉を与えたい。
これは、自分の正義なんてものは。
エゴでしかない。
「…話聞いてから殺してくれる?いまフェアじゃないでしょ」
「元からフェアだったっつーのかぁ?え?
始めから貴様なんてなぁ、」
「わかってるよ。だから言うけどお前の憎しみは間違っている」
「なんだぁ?」
このっ、
「クソ宗教でラリっちまってるかもしんねぇけどてめぇが信じてるもんはなぁ、てめぇが憎んだそいつが作り上げた偶像なんだよ。お前もラット、実験体でしかないんだよっ、」
「はぁ?
ラリっちまってるのはてめぇじゃねぇのか」
「なんだっていい。お前はこの国のために生きこの国のために滅ぼされる、それだけのことだよ」
「あ?」
相手はラリっているが。
頭にくれば話くらいは聞くらしい。
元々ネズミは話を聞けるようになんて生まれてきていないんだと、祥真は片隅でまだ箕原を蔑んだ。
だがそれは、俺も一緒だ。
「…笑って良いよ。この組織は国に辟易としたラットが作った“裏”だ。裏に必要なのは表。そうして表裏合体するために作られた戦場だ。お前が称した“ミサ”という大量殺人も、あの男の快楽でしかないんだよ、覚えてないのか、俺の“昴の会”はそうしてこの世界が、この“昴の会”が、誰かぶっ壊してくれここから出してくれと、いつも願っていたんだよっ!」
「だからなんだっていうんだ」
「はぁ、俺が創造主のところに送り込まれた“モグリ”だと言ったら殺してくれるか、なぁ!」
「冒涜だな、」
ダメかもしれないな。
…わかっていたけど。
少しくらい、情けをかけて中途半端に火をつけたのが悪かったのかと祥真はバレルを親指で上げる。それくらいの力はある。
きっとあの日のヒーローはこんな気持ちだっただろう、彼も一介の人だった。神なんかじゃない。だが俺はこんな形に破滅を望むらしい、カヤヌマイツミ。
…利き手じゃない。左手で蟀谷撃ち抜こうなんてバカげてるとは思うよ。片腕の重心だってないのにね、どこに当たるか、わかんないけどね。
気が狂ってるなんて物心ついた時からそうだった。ハデス、果たしてあんたはこの孤独を知って破滅を蒔いたのか。
多分、そうじゃないんだ。
「君が殺せないのは自分じゃない“神”じゃないかミノハラ。過去も未来もそこには何もない」
「じゃぁ神はなんだという、」
「紛れもなく“自分”だね」
君にはわからないだろうね。
破壊から執着して神を作り続け、鳥籠に居続けた君には、これはだけど、やってることは人なんだ。全て──
「祥真ぁ!」
同族の、
咎めるような、けれどこの冒涜を止めるような。狂犬の声がした。
「なにしてんだよおい!」
あぁ…。
「流星?」
なんで来ちゃったんだよ。
いや、本当は少しわかっていたんだけど。
「ぶっ殺してやるから降ろせよ祥ちゃん!」
……やっぱりね。
君に言って正解だったか、俺いまいちわからないわ、潤。
少し、緩んだように祥真は振り返る。
潤、
言おうとして発砲音がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる