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スローに変わるエレキの鋭い音階、ドラムもゆっくりし始めて。
大体は、ここで漸く音が耳に入ってくる。
少し、やっぱり違うんだけど。どこでも大体そう、三者目を合わせてから最後にジャーンと一発やって、だらだら長く伸ばし曲が終わった。
今日はマシ、前座だから。アンコールもなくささっとハケて出番が終わる。
楽屋でふぅ、と一息を吐くと、今夜限りの銀髪ドラムから缶ビールを渡された。
申し訳程度に乾杯をし、「いいね栗村さん~」と、たった一回のステージなのに何がわかるんだかと、「はぁ、どうも」とついつい塩対応。
今回はこちらが必死に合わせに行った。
少し有名だけど前座程度のバンドという微妙さに、食っちまわねぇようにだのバランスだのと、変な緊張があったのだ、ビールを一口飲む。
…このお高い黒ビール、あまり好きじゃないんだよな。売店になかったのに、わざわざ奮発して買ってきたんだろうか。それとも、バイト先からパクってきたんだろうか。
「いやー、なんか久々にしっくり来たなー、俺ら最近、メンバー固定しなくて。初めてだよな、スリーピース」
サボれねーなぁギター…と、ギタボが笑う。
あんた、元がリードだから気を使ったもんだよ。実際正直、多分観客だったらつまらんバンドに成り下がっただろう。
名前は聞いたことがある。ミスターサンシャイン。
少し前にサイドギターが抜け、その場その場で対バンの先輩にオファーを掛けなんとか凌いでいたらしいが、そんな最中、ベースが盲腸で入院したらしい。
元ミスターサンシャインのメンバーと面識があった、それは女だ。なんとなく感じた、多分こちら側の子だと。
別のバンドへ加入したがそれも上手くいかず引退したっぽいが、その女がめんどくさそうに電話を寄越してきたのが1週間ほど前だった。
本家もそろそろ動くかなという頃合いだったが、まぁ俺たちは10年以上もやってきているし、どうとでも出来る。
何よりリーダーが「あー、行ってきなよ。学の頼みでしょ?」と、いや、学は頼んできた女の、子供の名前だよと突っ込む前に、「ついでに様子見てきてよ」と言われ、今に至る。
当の、めんどくさそうに頼んできた初期のサイドギターが辞めた理由も体感した気がする。インディーズ枠ですぐ散りそうな、纏まりがないバンドだった。
しかし、主張の強さは却ってベースとしては纏めやすかったかもしれない。これは恐らくリズム隊がどうにかせねば死んでいるバンドだと、一週間でそう思った。
流石に今回はサイドギターを借りられなかったらしい。というか、貸してくれなかったようだ。
その分こちらが大幅にアレンジを加えた。物販でEPを買って聞いた客は、多分驚くだろう。
俺、すげくね?と調子に乗るリーダー兼ギタボがふと悪ノリのように俺の肩に手を回し、「なんかぁ、あんたとならもっとよくなる気がするんすよねー」と、顔を近付けてくる。
……ぜんっぜんタイプじゃねぇしムカつくな、この距離感。裏拳かキッッスかましたろかと思ったが顔を伏せビールの縁を覗き、「いや、機材最悪っしょ…」と、やっぱり悪態しか出て来なかった。
黙り込ませてしまった空気に、「まぁ、俺たちもぼちぼちちょっと、ツアー的なものがあるんで」と、確定もしてない嘘を吐いた。
「えっ!?」
「でんにじ、休止中って言ってなかった!?」
…うっわ~、そうだったわ…。
てゆうか、お前な、こっちの方が歴長いんだけど。馴れ馴れしいな、気安く愛称で呼ぶなっつーの。
「ぼちぼち始めてます」
「まぁ、そっか…お宅ら一気にやって一気に休むもんなぁ、次はどこ?」
…全員と気が合わないバンドとか、どういうこっちゃねん。
「……地元のzeppeが潰れるんでぇ、」
「地元?zeppeってダイバーとあとどこ?」
「福岡」
「福岡だったの!?そうなんだ」
ラーメン!ラーメン!と盛り上がる低級バンドにアーメンと、ナトリの顔を思い出し、「じゃ、そんなわけで帰ります」と、テキトーに缶を置いてベースを片付ける。
ビールなんて半分以上残した、つまり、そーゆーことですよっと。
あぁ、トリの曽根原さん、いねぇな。客席かなと気には掛かったが、まぁわかるだろうし、後であの女にでも挨拶頼んどこ。
「お疲れ様です」とドアを出れば、丁度そうだ、いま二番手演奏中だ、曽根原さんと落ち合った。
「あっ、」
扉を開ければ爆音、肩を叩かれ多分、「お疲れ~」と言われた気がするので、頭を下げて帰路に着いた。
下北沢の喫煙所、ホントに減った。なんせ一ヶ所だ。
ギターを担ぐやつはまぁ、いないが、若者は大体バンドの話しをしている。
そんなものをぼんやり聞いて「若いなぁ」と思う歳になった。平成元年も、もう30を越えてしまった。
こんな歳でも忙しい方がいい。まだまだ若手ではあるが俺やナトリは漸く…乗ってきたのにな。
サイドの源ちゃんなんかは、トリッキー大御所のサブバンドと掛け持ちをしている現状。源ちゃんがウチに加入したのも、大御所からの移動だし、元のポテンシャルが高いんだよなぁ。
大体は、ここで漸く音が耳に入ってくる。
少し、やっぱり違うんだけど。どこでも大体そう、三者目を合わせてから最後にジャーンと一発やって、だらだら長く伸ばし曲が終わった。
今日はマシ、前座だから。アンコールもなくささっとハケて出番が終わる。
楽屋でふぅ、と一息を吐くと、今夜限りの銀髪ドラムから缶ビールを渡された。
申し訳程度に乾杯をし、「いいね栗村さん~」と、たった一回のステージなのに何がわかるんだかと、「はぁ、どうも」とついつい塩対応。
今回はこちらが必死に合わせに行った。
少し有名だけど前座程度のバンドという微妙さに、食っちまわねぇようにだのバランスだのと、変な緊張があったのだ、ビールを一口飲む。
…このお高い黒ビール、あまり好きじゃないんだよな。売店になかったのに、わざわざ奮発して買ってきたんだろうか。それとも、バイト先からパクってきたんだろうか。
「いやー、なんか久々にしっくり来たなー、俺ら最近、メンバー固定しなくて。初めてだよな、スリーピース」
サボれねーなぁギター…と、ギタボが笑う。
あんた、元がリードだから気を使ったもんだよ。実際正直、多分観客だったらつまらんバンドに成り下がっただろう。
名前は聞いたことがある。ミスターサンシャイン。
少し前にサイドギターが抜け、その場その場で対バンの先輩にオファーを掛けなんとか凌いでいたらしいが、そんな最中、ベースが盲腸で入院したらしい。
元ミスターサンシャインのメンバーと面識があった、それは女だ。なんとなく感じた、多分こちら側の子だと。
別のバンドへ加入したがそれも上手くいかず引退したっぽいが、その女がめんどくさそうに電話を寄越してきたのが1週間ほど前だった。
本家もそろそろ動くかなという頃合いだったが、まぁ俺たちは10年以上もやってきているし、どうとでも出来る。
何よりリーダーが「あー、行ってきなよ。学の頼みでしょ?」と、いや、学は頼んできた女の、子供の名前だよと突っ込む前に、「ついでに様子見てきてよ」と言われ、今に至る。
当の、めんどくさそうに頼んできた初期のサイドギターが辞めた理由も体感した気がする。インディーズ枠ですぐ散りそうな、纏まりがないバンドだった。
しかし、主張の強さは却ってベースとしては纏めやすかったかもしれない。これは恐らくリズム隊がどうにかせねば死んでいるバンドだと、一週間でそう思った。
流石に今回はサイドギターを借りられなかったらしい。というか、貸してくれなかったようだ。
その分こちらが大幅にアレンジを加えた。物販でEPを買って聞いた客は、多分驚くだろう。
俺、すげくね?と調子に乗るリーダー兼ギタボがふと悪ノリのように俺の肩に手を回し、「なんかぁ、あんたとならもっとよくなる気がするんすよねー」と、顔を近付けてくる。
……ぜんっぜんタイプじゃねぇしムカつくな、この距離感。裏拳かキッッスかましたろかと思ったが顔を伏せビールの縁を覗き、「いや、機材最悪っしょ…」と、やっぱり悪態しか出て来なかった。
黙り込ませてしまった空気に、「まぁ、俺たちもぼちぼちちょっと、ツアー的なものがあるんで」と、確定もしてない嘘を吐いた。
「えっ!?」
「でんにじ、休止中って言ってなかった!?」
…うっわ~、そうだったわ…。
てゆうか、お前な、こっちの方が歴長いんだけど。馴れ馴れしいな、気安く愛称で呼ぶなっつーの。
「ぼちぼち始めてます」
「まぁ、そっか…お宅ら一気にやって一気に休むもんなぁ、次はどこ?」
…全員と気が合わないバンドとか、どういうこっちゃねん。
「……地元のzeppeが潰れるんでぇ、」
「地元?zeppeってダイバーとあとどこ?」
「福岡」
「福岡だったの!?そうなんだ」
ラーメン!ラーメン!と盛り上がる低級バンドにアーメンと、ナトリの顔を思い出し、「じゃ、そんなわけで帰ります」と、テキトーに缶を置いてベースを片付ける。
ビールなんて半分以上残した、つまり、そーゆーことですよっと。
あぁ、トリの曽根原さん、いねぇな。客席かなと気には掛かったが、まぁわかるだろうし、後であの女にでも挨拶頼んどこ。
「お疲れ様です」とドアを出れば、丁度そうだ、いま二番手演奏中だ、曽根原さんと落ち合った。
「あっ、」
扉を開ければ爆音、肩を叩かれ多分、「お疲れ~」と言われた気がするので、頭を下げて帰路に着いた。
下北沢の喫煙所、ホントに減った。なんせ一ヶ所だ。
ギターを担ぐやつはまぁ、いないが、若者は大体バンドの話しをしている。
そんなものをぼんやり聞いて「若いなぁ」と思う歳になった。平成元年も、もう30を越えてしまった。
こんな歳でも忙しい方がいい。まだまだ若手ではあるが俺やナトリは漸く…乗ってきたのにな。
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