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リーダーの真樹は最近帰ってこない。
まぁ、昴くんに寄生してるのだろう。あのお節介眼鏡も良い加減結婚がちらつく歳だろうに、ノンケだから。
あんなドブネズミ野郎をヒモにする意味が…わからないとも言いきれないが、俺のそれは昴くんのそれとは違う。
コンビニでビール買って帰ろ。ぶっちゃけ肩痛い。1週間であのクソギタボをどうしようかと詰めたせいだな。
少しの間…あぁそうだ、ソロのセッション、入ってんな…こっちはテレビ向け音源だ…。
けどまぁ、宮澤さんは三度目だしなんとかなるか。あの人なんでソロ出ししてるんだろ、自バンドもう25周年じゃん。
…俺らもそろそろ20年近いのか。レーベルまた一件潰れるし、その辺なんとかしとけと真樹に言わないとな…。
レーベル潰れる前にツアーやりたいなぁ。版権マジ頑張ってもらお…、あぁ、それならサイコパス西東しゃちょーにまで手を打たなきゃなぁ。
真樹は自社レーベルを作ったくせに、なんだか過去の曲をぞんざいにしている気がする。
先人の曽根原さんを見習い、ちゃんとした方がいい…、過去曲は、あまりに尖っていた、若かった、それはわかるけど…。
いままでだって、真樹だけの青春じゃないとわかって欲しいのに。
だから俺はここまで来れたんだ。紆余曲折は問題じゃない、真樹との関係は永遠に青春だと…俺がそう思っているだけかもしれないけど。
アパートの階段からすでに、部屋の電気が点いていることに気が付いた。
全く、神出鬼没だ。天崎真樹という男は、どうも俺の心を狂わせる。
ギターも疲れも何もかもが軽く感じて、たたたんた、と規則正しいエイトビートになる足、心臓の早くなる感覚。
何十年経っても、これだけは変わらない。
「ただい」
「……あはは!そうれすか!」
真樹はどうやら、電話をしていた。
美人顔が振り向きにやっと笑い、「いま帰ってきたっぽいっす」と、顔に似合わずタバコ声でボソボソとそう言った。
…いつ来てもいいようにと、ちゃんと密かに洗濯をしている真樹用スウェットズボンとバンドTシャツを来ている真樹に少し、嬉しくなる。
「あ、はーい。伝えまー。
文杜ー、お疲ぇ様って、そねはーしゃんにゃ」
喋れてねーし!
「…真樹、変わって」
「えー?」
スマホを耳から離し、「切ったったよ?」と、薄茶色の目、首を傾げてそう言った。
「…てか、来てたんか」
「んースバルくんが最近部署変わってアレだしそろそろなと思っつ、おも、思ったけん」
「……っ!まぁた飲みすぎたん!?」
「ん~」
「…まーいーけど、なんか食った?」
聞いてみたけどキッチンにはカップラーメンの容器と汁と割り箸が残っていた。
「食った」
「…これだけ?いつからいたの」
「昼~。さっき起きたん。食べたよシーフード」
…見ればわかるっ!
「…メールしてよ。俺もまだだから、それならなんか、買ってきたのに…」
これは夜風にでも当てるか、と、まずはギターを降ろして掛け、「コンビニでいい?」と真樹に手を伸ばす。
「うん」と取った手は冷たく感じた。果たして、俺が熱いのか真樹の血圧が低いのか。
真樹はいつも、一度俺の指を撫で、怪我をしてないかと確認をしてから絡めてくる。多分、高校の…荒れてた頃からの癖なんだろう。
外に出た瞬間「暑くなったね」と言った真樹に「そうだね」と返して手を握ること。
歴代のセフレだか恋人だかわからんやつらとは出来なかったのに。これが同級生の“自然”だ、こいつなら。
「真樹、寒い?」
「いま暑いって言った」
「いや手ぇ冷たい」
「ソネさんの電話で起きたったんよ」
「さいですか」
「聞いたよ~文杜~」
にやぁ、と、子供のように笑う真樹に、30越えても変わんねぇなと思えば「ちょー不機嫌あったしーね」と舌足らずに言う。多分薬のせいだろう。
「…クッッソつまんねぇバンドだった」
お前の、下手なんだかなんだかわかんねぇクセ強の愛するギタボでもなかったんだよ。
「あー、学の子が言ってた」
「…学の方が子供だよ。里親の女は……なんだっけ」
「ははっ!ホント女にきょーみないな!」
…はいはいそーですよー、だ。
「お前と違ってね」
てゆーか、お前もいー加減女捕まえんじゃねえんですかね?
簡単な軽口も言えないのは昔からそう、こいつは音楽にしか興味がないし何より…ワンチャンあったらいいなとか…30越えても思うのは、お前のせいなんですよね。
「ソネさんがねー、彼女…マネいんじゃん?あれが文杜を撮っててリアタイで見てたんよねー」
「…うっわー、マジかよそれいまならスパチャもんじゃん」
「いや……はっはっは、上手かったけどナニアレちょー音割れー、機嫌悪いのガンガン伝わったしもー食っちゃってんじゃん音」
「気を付けたんだけどまず…あそこなんなん?初めて行ったけどPA耳大丈夫かよ、キック頼んでもダメ、ハウるハウる」
「俺らは行かんよーにしよーねー、ソネさんどんなやったんだろー」
「まぁ曽根原さんなら…その場でやるし音作りうるさそうだしダイジョブじゃない?」
「だねー」
まぁ、昴くんに寄生してるのだろう。あのお節介眼鏡も良い加減結婚がちらつく歳だろうに、ノンケだから。
あんなドブネズミ野郎をヒモにする意味が…わからないとも言いきれないが、俺のそれは昴くんのそれとは違う。
コンビニでビール買って帰ろ。ぶっちゃけ肩痛い。1週間であのクソギタボをどうしようかと詰めたせいだな。
少しの間…あぁそうだ、ソロのセッション、入ってんな…こっちはテレビ向け音源だ…。
けどまぁ、宮澤さんは三度目だしなんとかなるか。あの人なんでソロ出ししてるんだろ、自バンドもう25周年じゃん。
…俺らもそろそろ20年近いのか。レーベルまた一件潰れるし、その辺なんとかしとけと真樹に言わないとな…。
レーベル潰れる前にツアーやりたいなぁ。版権マジ頑張ってもらお…、あぁ、それならサイコパス西東しゃちょーにまで手を打たなきゃなぁ。
真樹は自社レーベルを作ったくせに、なんだか過去の曲をぞんざいにしている気がする。
先人の曽根原さんを見習い、ちゃんとした方がいい…、過去曲は、あまりに尖っていた、若かった、それはわかるけど…。
いままでだって、真樹だけの青春じゃないとわかって欲しいのに。
だから俺はここまで来れたんだ。紆余曲折は問題じゃない、真樹との関係は永遠に青春だと…俺がそう思っているだけかもしれないけど。
アパートの階段からすでに、部屋の電気が点いていることに気が付いた。
全く、神出鬼没だ。天崎真樹という男は、どうも俺の心を狂わせる。
ギターも疲れも何もかもが軽く感じて、たたたんた、と規則正しいエイトビートになる足、心臓の早くなる感覚。
何十年経っても、これだけは変わらない。
「ただい」
「……あはは!そうれすか!」
真樹はどうやら、電話をしていた。
美人顔が振り向きにやっと笑い、「いま帰ってきたっぽいっす」と、顔に似合わずタバコ声でボソボソとそう言った。
…いつ来てもいいようにと、ちゃんと密かに洗濯をしている真樹用スウェットズボンとバンドTシャツを来ている真樹に少し、嬉しくなる。
「あ、はーい。伝えまー。
文杜ー、お疲ぇ様って、そねはーしゃんにゃ」
喋れてねーし!
「…真樹、変わって」
「えー?」
スマホを耳から離し、「切ったったよ?」と、薄茶色の目、首を傾げてそう言った。
「…てか、来てたんか」
「んースバルくんが最近部署変わってアレだしそろそろなと思っつ、おも、思ったけん」
「……っ!まぁた飲みすぎたん!?」
「ん~」
「…まーいーけど、なんか食った?」
聞いてみたけどキッチンにはカップラーメンの容器と汁と割り箸が残っていた。
「食った」
「…これだけ?いつからいたの」
「昼~。さっき起きたん。食べたよシーフード」
…見ればわかるっ!
「…メールしてよ。俺もまだだから、それならなんか、買ってきたのに…」
これは夜風にでも当てるか、と、まずはギターを降ろして掛け、「コンビニでいい?」と真樹に手を伸ばす。
「うん」と取った手は冷たく感じた。果たして、俺が熱いのか真樹の血圧が低いのか。
真樹はいつも、一度俺の指を撫で、怪我をしてないかと確認をしてから絡めてくる。多分、高校の…荒れてた頃からの癖なんだろう。
外に出た瞬間「暑くなったね」と言った真樹に「そうだね」と返して手を握ること。
歴代のセフレだか恋人だかわからんやつらとは出来なかったのに。これが同級生の“自然”だ、こいつなら。
「真樹、寒い?」
「いま暑いって言った」
「いや手ぇ冷たい」
「ソネさんの電話で起きたったんよ」
「さいですか」
「聞いたよ~文杜~」
にやぁ、と、子供のように笑う真樹に、30越えても変わんねぇなと思えば「ちょー不機嫌あったしーね」と舌足らずに言う。多分薬のせいだろう。
「…クッッソつまんねぇバンドだった」
お前の、下手なんだかなんだかわかんねぇクセ強の愛するギタボでもなかったんだよ。
「あー、学の子が言ってた」
「…学の方が子供だよ。里親の女は……なんだっけ」
「ははっ!ホント女にきょーみないな!」
…はいはいそーですよー、だ。
「お前と違ってね」
てゆーか、お前もいー加減女捕まえんじゃねえんですかね?
簡単な軽口も言えないのは昔からそう、こいつは音楽にしか興味がないし何より…ワンチャンあったらいいなとか…30越えても思うのは、お前のせいなんですよね。
「ソネさんがねー、彼女…マネいんじゃん?あれが文杜を撮っててリアタイで見てたんよねー」
「…うっわー、マジかよそれいまならスパチャもんじゃん」
「いや……はっはっは、上手かったけどナニアレちょー音割れー、機嫌悪いのガンガン伝わったしもー食っちゃってんじゃん音」
「気を付けたんだけどまず…あそこなんなん?初めて行ったけどPA耳大丈夫かよ、キック頼んでもダメ、ハウるハウる」
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「だねー」
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