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「俺らさぁ」
車を発進させ少ししてから国木田が発した言葉で沈黙は破られた。
それまではカーステレオ、あまちゃんの声が遠く鳴っていた。
それから言葉は続かない。国木田がタバコを取りだし火をつける。ふと俺を横目で見て、「あんたも吸う?」と聞いてきたので、俺はポケットからタバコを取り出し、頷いて火をつけた。
真ん中に眠るあまちゃんは健やか。良い夢見てるかな。ぼんやりそう思った。
寝てるっつーかこれってもしかすると気絶なのかな。果たして何があったんだ。
膝に乗るあまちゃんの頭を撫でる国木田の左手と視線が優しく哀愁。薬指のリングは生々しく質素だった。
なんか少し納得。確かに彼、面倒見良いよな。
「でもさぁ…」
運転席でふみとが笑った。返ってそれが深刻さを出す。
「真樹ってなんだかんだでこんな時、やらかすけど凄いよね」
あ、やっぱプライベートは真樹呼びなんだ。
「…まぁ、」
「ホントそう思わない?まぁ、ご立腹なのもわかるけど」
国木田はそれを聞くと、運転席である前方を睨むように見てしかし落ち着くように煙を吐いた。げんちゃんはちらっと見つつも黙ったままだ。
「あのー」
「あ、そうだ。道すがらって俺が言ったんだ」
「…社長と示談交渉で事務所を辞めた」
ポツリと国木田が言う。
「は?」
「今月いっぱいで」
「え?」
「だが怖いことにこいつ、個人データ、楽曲データ全てを社長から買い占めてた。社長の管理下に置かれてたのをどういうわけか全て、綺麗まっさら、こいつしか所在がわからねぇ状態だ」
「えっ、なにそれ」
案外やり手だなぁ。
「社長が言うには、楽曲版権やらデータは確かにこいつに管理させていたんだと。それが前回の喧嘩。最終的にまぁ了承した。そして今回、こいつの過去だのまぁ色々だのをマスコミに流してやると脅してあそこに呼び出した。その時まではネタが社長の手元にあった。
気付いたら履歴書から何から何までまっさら」
「え、なにそれ」
「俺らやこいつのこと、最早なんて言うんだろ、不利になりそうで決定打になりそうなもの全てがまっさらだったらしい。言うなれば俺らの事を新たにデータ化しようとしたら今日の事だけかな。なんか用意周到すぎて怖いくらいだった。
俺一人、文杜もげんちゃんも、あの事務所に関わったことない知らない状態みたいな。通話履歴だのなんだのいた痕跡が一切ねぇの、こいつ以外は」
「確かに怖いねそれ」
案外バカじゃなかったようだあまちゃん。てか怖いレベルで実はキレ者。恐るべし。いま国木田の膝の上で健やかに寝てる(気絶とも言う)やつの所業とは思えない。
「でもなんでそんなことを?」
「まぁ多分、自分がそうやって脅されて喧嘩してるから、俺らにもそうけしかけられるのはあり得ると考えたのかもな」
「しかし真樹の取り越し苦労。俺らは残念ながらそんなに社長に執着されていないと言うこと」
そこでふみともげんちゃんも、顔を見合わせてタバコをくわえた。ドアを開け一気に、寒くなる。
俺的には全然わからないんだけど。それがどうしてあまちゃん気絶へ繋がったのか。
「…で、げんちゃん、ここに来てどうする?」
「え?」
「多分来月から無職だよこのままだと」
「あぁ、まぁ」
国木田の結婚指輪が目に入る。
大丈夫か、これ。
「ナトリもどうするの。今更、まぁきっとこっちでハローワークだよね」
「そうだなぁ」
「てか多分、それないでしょ」
そうだよねげんちゃん。上げて下げられちゃったよね。
と思ってみてみれば、なんか違う雰囲気。
ん?
げんちゃん、なんだ?
なんだか、げんちゃんの表情。確信に満ちすぎていて最早、なんか、打開策がありそうな気がする。
しかし国木田が少し嘲笑を込めて笑った。
「まぁ、そうだな。
お前、こいつより太田のが神的我が儘っつったけどこいつもわりとヤバいよ」
「いやそうじゃなくて」
「夢だけじゃなんも出来ないよ、弦次」
どこか挑戦的にげんちゃんを見る国木田にげんちゃんは引き下がる。それを聞いているふみとは「まぁ」と遮った。
「ナーバスなのもよくないよナトリ」
また場の雰囲気は葬式と化した。
「俺は変わらないよナトリさん」
初めてげんちゃんが国木田をナトリと呼んだ。それはどうやらそうらしく、国木田は驚いたように、視線をあまちゃんから助手席へ、呆然と見上げた。げんちゃんは少し振り向き、
「あそこには戻んねぇしここにいるし。考えても、多分俺らしかそいつとやれねぇでしょ、違う?」
淡々と言った。
「…げんちゃんは、もうウチの子だね」
「今更?まぁ、漸くメンバーになった俺が言えた口でもないけど。考えたらもー、太田より長いわ6年だよ?まぁ休業があったからねここは。実質4年か。あいつなんかエッレ5年だからね実は」
「嘘ぉぉぉ」
「あ、それ俺の後輩も言ってた」
まさかのネタぶち込みに動揺。
「え?マジ?エッレって確か同期だよな俺ら」
「じゃない?多分」
なんて曖昧な返事。前を見ながらタバコをくわえるふみと。どうやら彼は、国木田よりはエッレネタに興味がないらしい。
「しかも俺はそのうちの1年半だよ」
「解散のときスタジオにさ、太田を手錠掛けて閉じ込めてみんなで置いてったの提案したのって」
「あれはタカさんだね」
うわぁぁぁ。
ひでぇぇぇ。
「ふっ、」
ふみとが吹き出し、「いまの一口返してよ」とどちらにともなく言う。タバコを挟む指が優雅だ。
車を発進させ少ししてから国木田が発した言葉で沈黙は破られた。
それまではカーステレオ、あまちゃんの声が遠く鳴っていた。
それから言葉は続かない。国木田がタバコを取りだし火をつける。ふと俺を横目で見て、「あんたも吸う?」と聞いてきたので、俺はポケットからタバコを取り出し、頷いて火をつけた。
真ん中に眠るあまちゃんは健やか。良い夢見てるかな。ぼんやりそう思った。
寝てるっつーかこれってもしかすると気絶なのかな。果たして何があったんだ。
膝に乗るあまちゃんの頭を撫でる国木田の左手と視線が優しく哀愁。薬指のリングは生々しく質素だった。
なんか少し納得。確かに彼、面倒見良いよな。
「でもさぁ…」
運転席でふみとが笑った。返ってそれが深刻さを出す。
「真樹ってなんだかんだでこんな時、やらかすけど凄いよね」
あ、やっぱプライベートは真樹呼びなんだ。
「…まぁ、」
「ホントそう思わない?まぁ、ご立腹なのもわかるけど」
国木田はそれを聞くと、運転席である前方を睨むように見てしかし落ち着くように煙を吐いた。げんちゃんはちらっと見つつも黙ったままだ。
「あのー」
「あ、そうだ。道すがらって俺が言ったんだ」
「…社長と示談交渉で事務所を辞めた」
ポツリと国木田が言う。
「は?」
「今月いっぱいで」
「え?」
「だが怖いことにこいつ、個人データ、楽曲データ全てを社長から買い占めてた。社長の管理下に置かれてたのをどういうわけか全て、綺麗まっさら、こいつしか所在がわからねぇ状態だ」
「えっ、なにそれ」
案外やり手だなぁ。
「社長が言うには、楽曲版権やらデータは確かにこいつに管理させていたんだと。それが前回の喧嘩。最終的にまぁ了承した。そして今回、こいつの過去だのまぁ色々だのをマスコミに流してやると脅してあそこに呼び出した。その時まではネタが社長の手元にあった。
気付いたら履歴書から何から何までまっさら」
「え、なにそれ」
「俺らやこいつのこと、最早なんて言うんだろ、不利になりそうで決定打になりそうなもの全てがまっさらだったらしい。言うなれば俺らの事を新たにデータ化しようとしたら今日の事だけかな。なんか用意周到すぎて怖いくらいだった。
俺一人、文杜もげんちゃんも、あの事務所に関わったことない知らない状態みたいな。通話履歴だのなんだのいた痕跡が一切ねぇの、こいつ以外は」
「確かに怖いねそれ」
案外バカじゃなかったようだあまちゃん。てか怖いレベルで実はキレ者。恐るべし。いま国木田の膝の上で健やかに寝てる(気絶とも言う)やつの所業とは思えない。
「でもなんでそんなことを?」
「まぁ多分、自分がそうやって脅されて喧嘩してるから、俺らにもそうけしかけられるのはあり得ると考えたのかもな」
「しかし真樹の取り越し苦労。俺らは残念ながらそんなに社長に執着されていないと言うこと」
そこでふみともげんちゃんも、顔を見合わせてタバコをくわえた。ドアを開け一気に、寒くなる。
俺的には全然わからないんだけど。それがどうしてあまちゃん気絶へ繋がったのか。
「…で、げんちゃん、ここに来てどうする?」
「え?」
「多分来月から無職だよこのままだと」
「あぁ、まぁ」
国木田の結婚指輪が目に入る。
大丈夫か、これ。
「ナトリもどうするの。今更、まぁきっとこっちでハローワークだよね」
「そうだなぁ」
「てか多分、それないでしょ」
そうだよねげんちゃん。上げて下げられちゃったよね。
と思ってみてみれば、なんか違う雰囲気。
ん?
げんちゃん、なんだ?
なんだか、げんちゃんの表情。確信に満ちすぎていて最早、なんか、打開策がありそうな気がする。
しかし国木田が少し嘲笑を込めて笑った。
「まぁ、そうだな。
お前、こいつより太田のが神的我が儘っつったけどこいつもわりとヤバいよ」
「いやそうじゃなくて」
「夢だけじゃなんも出来ないよ、弦次」
どこか挑戦的にげんちゃんを見る国木田にげんちゃんは引き下がる。それを聞いているふみとは「まぁ」と遮った。
「ナーバスなのもよくないよナトリ」
また場の雰囲気は葬式と化した。
「俺は変わらないよナトリさん」
初めてげんちゃんが国木田をナトリと呼んだ。それはどうやらそうらしく、国木田は驚いたように、視線をあまちゃんから助手席へ、呆然と見上げた。げんちゃんは少し振り向き、
「あそこには戻んねぇしここにいるし。考えても、多分俺らしかそいつとやれねぇでしょ、違う?」
淡々と言った。
「…げんちゃんは、もうウチの子だね」
「今更?まぁ、漸くメンバーになった俺が言えた口でもないけど。考えたらもー、太田より長いわ6年だよ?まぁ休業があったからねここは。実質4年か。あいつなんかエッレ5年だからね実は」
「嘘ぉぉぉ」
「あ、それ俺の後輩も言ってた」
まさかのネタぶち込みに動揺。
「え?マジ?エッレって確か同期だよな俺ら」
「じゃない?多分」
なんて曖昧な返事。前を見ながらタバコをくわえるふみと。どうやら彼は、国木田よりはエッレネタに興味がないらしい。
「しかも俺はそのうちの1年半だよ」
「解散のときスタジオにさ、太田を手錠掛けて閉じ込めてみんなで置いてったの提案したのって」
「あれはタカさんだね」
うわぁぁぁ。
ひでぇぇぇ。
「ふっ、」
ふみとが吹き出し、「いまの一口返してよ」とどちらにともなく言う。タバコを挟む指が優雅だ。
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