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An heroin near
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スバルくんのケータイが鳴った。パソコンを止め、ケータイ画面を見ると溜め息を吐く。
どうしたんだろ。
画面を覗いてみれば、「福寿園」と言う表示。睨むスバルくんは疲れたように、「ばあちゃん」と素っ気なく告げる。
なんだ。
「ん、」
もううざったいなぁ。
手を出すと、疑問符を顔に張り付けているのでケータイを奪い取った。
「困ったときの真樹さんだよ」
通話ボタンを押した。
『昴?』と言う嗄れた、少し配水管が詰まったような、そんな弱々しい声が電話越しに聞こえる。
「おばあさん?」
『昴?』
「そうだけどどうしたのかな、ばあちゃん」
『あのね、ここの人が電話をさせてくれないんだ』
ちらっとスバルくんを見ると、呆れたような、しかし心配そうな表情で、「貸して」と言って手を広げてくるが構わない。もう遅い。
申し訳程度の温情など、要らないじゃないか。ましてやこんな、死にそうな知り合いになんて。
俺はスバルくんの手を握って、多分厭らしいだろう笑顔を見せてやった。
大丈夫だスバルくん。俺は君よりか優しいハズだ。
「まぁ迷惑だからね、ばあさん」
『…は?』
「嘘の番号教えたんだよ、スバルくんのばあさん。てか、俺を誰と勘違いしてんだボケ老人」
『…昴?』
「わかんねぇなら二度と掛けてくんなよ迷惑だなぁ、クソババア。掛けてくんなら、メモはいい?おばあちゃん、ねぇ」
優しく畳み掛ければ老人は黙り込んだ。そして言う。「昴がそう言ったんですか」と。
「わからない。俺はスバルくんの友人だから。もしよかったら俺は暇だから。これは詐欺とかじゃなくて本当。
実際これはスバルくんのケータイでしょ?俺が勝手に出たの。だからあとで、話したくなったら俺のケータイ、教えるから掛けてね。お名前はなんて言うんですか、おばあちゃん」
『…サチ子』
「フルサト納税サチ子さん。俺は天崎真樹です。080の、8×××、5×××」
老人は黙りこくっている。
確かな沈黙があって、それから、『もう一度お名前を』と言われて考え、「あまちゃん」と答えると『へぇ?』と気の抜けた返事。そして笑い声がして。
『あまちゃん…』
「真樹でもいいよ」
『マキ…。彼女?』
なんてババアだこのババア。
「違います、俺男の子だよ、わかる?」
『そうね』
そして突然切れた。
「えっ…」
スバルくんを見ると、タバコを吸っていた。心底どうでも良さそうに、「突然切れたっしょ」と言われた。
「うん」
「ばあちゃん多分元気そうだね」
体裁程度、というか一応な話題に至極どうでも良さそうに言う。敢えてなのか、本当にどうでもいいのかはわからないけど。
ああ、なるほど。
スバルくんには本当にどうでもいい。と言うか、どちらかと言うと、忘れたい人なのかも。だとしたら俺のそれは正解か?
「真樹さ、あそこでタバコ吸ったね?」
「ん?」
スバルくんの目線の先には、ヒーター。
の前のラキストのパッケージ。
「あっ」
「灰皿は戻せたのになお前」
「ごめんなさい寒かった」
「水なんて浴びるからだよまったく…どうしちゃったの」
あれバレてる。
しかしどうやら怒ってるわけではなさそうで、振り返った表情は優しかった。
ふと聞き覚えのある、というか俺が大絶賛した、あれから入り出しミスっちゃうげんちゃんが作った俺のリフがスタートした。
唯一ミスっていない、新曲発表と題したときの、復活ライブ。
いつの間にか押されていた再生ボタンに思わず「うぉぉぉ」と唸ってしまった。スバルくんも画面を見始め、笑った。
「あらぁ、なにこれ」
「げんちゃんが考えたんです。シンプルだけど高度すぎてこのとき以外俺ミスっちゃうんです」
「あー、ジャズマスとかそーゆーギター使いこなしちゃうからか。感覚ズレだね。あまちゃんにはキツいね」
「ホントだよ」
「えでも上手いじゃんなにこれすげえ」からの、『ソーダ水の発狂を返して』と唄い始めた俺を見て肩を震わせやがる。なんだこの変態。何が言いたい。
「なによ」
「ん?可愛いなぁ」
「なによそれは!」
「し!なに言ってっかわかんないから黙って!」
失礼な。どうせ舌足らずですよ。でもだからげんちゃんのちょっと口出しされた歌詞が生きた歌なんですよこのバカ。
『クリティカルに狂っていくのは
ただ愛情を知らないだけさ
どうでもいいよ そんなことは もう さ
カストルと星空の群青
侮るな存亡と羨望
形状と激情の情緒
ソーダ水の発狂を返して』
やっぱ最後いいねぇげんちゃん。センス。まぁ基盤は俺ですが。
しかしまぁこうやって観てると案外俺ってなんか仕事スイッチあるねぇ。やっぱあまちゃんバージョンの俺、ダメなとこも物にしてるのがいいのかな。
練習のがぶっちゃけイケてるし。
なんだかんだで半分くらいまで一緒に観ているとあぁ、ダメな部分も多々ある。けど楽しい思い出もたくさんあったなぁ。
『脳が
思考が
停止していくの
そこから漏れていく 言葉は
嘔吐 手にはない
赤く染まって水道管へ』
眠いなぁと思ってたらバシバシと来るハゲドラム。あぁそうそう。これ、ハゲに歌詞作ったら文杜も盛り上がって歌詞いじってくれたやつ。
「綺麗…」
「ん?」
「声が。あとなんかメンバーの一体感がハンパじゃない」
「あぁ、ありがとう。これ文杜も歌詞いじってくれた。ハゲに書いたって言ったらベースとか超やる気になって、あいつ珍しく。
逆パターンが確か次の曲かなあ。文杜に曲書いたって言ったらハゲがやる気になったパターン」
しばらく見入るように聞いているスバルくん。なんか照れ臭いなぁ。
「あこの曲?うわぁ、いいねベース」
「ベースを生かしたからねぇ」
「歌詞どんなん?全然聞き取れない。ドレミファにしか聞こえない英語」
「実際ドレミファって言ってる。歌詞もそう書いてるけどまぁホントは英詞」
「えなにそれ」
「これ全体的に言葉遊び歌詞だよ。
ドレミファはDon't let me first、ソラシドはSo last shing down.シラソファはSee last sound found.さくらはタイトル通りSound Coup d'etat Love.だった気がする」
「おもろい。君が作った訳じゃないの?」
「いや、これは意外と俺」
たまにこういう日があるのさ、アーティストにはな!
「スバルくんもう眠いよ。俺寝るー」
「ああうん。おやすみ真樹。あっちで寝ていいよ」
確かにここにいたらちょっと観ちゃいそうだ。
毛布を持って、定位置に移動して寝ることにした。
どうしたんだろ。
画面を覗いてみれば、「福寿園」と言う表示。睨むスバルくんは疲れたように、「ばあちゃん」と素っ気なく告げる。
なんだ。
「ん、」
もううざったいなぁ。
手を出すと、疑問符を顔に張り付けているのでケータイを奪い取った。
「困ったときの真樹さんだよ」
通話ボタンを押した。
『昴?』と言う嗄れた、少し配水管が詰まったような、そんな弱々しい声が電話越しに聞こえる。
「おばあさん?」
『昴?』
「そうだけどどうしたのかな、ばあちゃん」
『あのね、ここの人が電話をさせてくれないんだ』
ちらっとスバルくんを見ると、呆れたような、しかし心配そうな表情で、「貸して」と言って手を広げてくるが構わない。もう遅い。
申し訳程度の温情など、要らないじゃないか。ましてやこんな、死にそうな知り合いになんて。
俺はスバルくんの手を握って、多分厭らしいだろう笑顔を見せてやった。
大丈夫だスバルくん。俺は君よりか優しいハズだ。
「まぁ迷惑だからね、ばあさん」
『…は?』
「嘘の番号教えたんだよ、スバルくんのばあさん。てか、俺を誰と勘違いしてんだボケ老人」
『…昴?』
「わかんねぇなら二度と掛けてくんなよ迷惑だなぁ、クソババア。掛けてくんなら、メモはいい?おばあちゃん、ねぇ」
優しく畳み掛ければ老人は黙り込んだ。そして言う。「昴がそう言ったんですか」と。
「わからない。俺はスバルくんの友人だから。もしよかったら俺は暇だから。これは詐欺とかじゃなくて本当。
実際これはスバルくんのケータイでしょ?俺が勝手に出たの。だからあとで、話したくなったら俺のケータイ、教えるから掛けてね。お名前はなんて言うんですか、おばあちゃん」
『…サチ子』
「フルサト納税サチ子さん。俺は天崎真樹です。080の、8×××、5×××」
老人は黙りこくっている。
確かな沈黙があって、それから、『もう一度お名前を』と言われて考え、「あまちゃん」と答えると『へぇ?』と気の抜けた返事。そして笑い声がして。
『あまちゃん…』
「真樹でもいいよ」
『マキ…。彼女?』
なんてババアだこのババア。
「違います、俺男の子だよ、わかる?」
『そうね』
そして突然切れた。
「えっ…」
スバルくんを見ると、タバコを吸っていた。心底どうでも良さそうに、「突然切れたっしょ」と言われた。
「うん」
「ばあちゃん多分元気そうだね」
体裁程度、というか一応な話題に至極どうでも良さそうに言う。敢えてなのか、本当にどうでもいいのかはわからないけど。
ああ、なるほど。
スバルくんには本当にどうでもいい。と言うか、どちらかと言うと、忘れたい人なのかも。だとしたら俺のそれは正解か?
「真樹さ、あそこでタバコ吸ったね?」
「ん?」
スバルくんの目線の先には、ヒーター。
の前のラキストのパッケージ。
「あっ」
「灰皿は戻せたのになお前」
「ごめんなさい寒かった」
「水なんて浴びるからだよまったく…どうしちゃったの」
あれバレてる。
しかしどうやら怒ってるわけではなさそうで、振り返った表情は優しかった。
ふと聞き覚えのある、というか俺が大絶賛した、あれから入り出しミスっちゃうげんちゃんが作った俺のリフがスタートした。
唯一ミスっていない、新曲発表と題したときの、復活ライブ。
いつの間にか押されていた再生ボタンに思わず「うぉぉぉ」と唸ってしまった。スバルくんも画面を見始め、笑った。
「あらぁ、なにこれ」
「げんちゃんが考えたんです。シンプルだけど高度すぎてこのとき以外俺ミスっちゃうんです」
「あー、ジャズマスとかそーゆーギター使いこなしちゃうからか。感覚ズレだね。あまちゃんにはキツいね」
「ホントだよ」
「えでも上手いじゃんなにこれすげえ」からの、『ソーダ水の発狂を返して』と唄い始めた俺を見て肩を震わせやがる。なんだこの変態。何が言いたい。
「なによ」
「ん?可愛いなぁ」
「なによそれは!」
「し!なに言ってっかわかんないから黙って!」
失礼な。どうせ舌足らずですよ。でもだからげんちゃんのちょっと口出しされた歌詞が生きた歌なんですよこのバカ。
『クリティカルに狂っていくのは
ただ愛情を知らないだけさ
どうでもいいよ そんなことは もう さ
カストルと星空の群青
侮るな存亡と羨望
形状と激情の情緒
ソーダ水の発狂を返して』
やっぱ最後いいねぇげんちゃん。センス。まぁ基盤は俺ですが。
しかしまぁこうやって観てると案外俺ってなんか仕事スイッチあるねぇ。やっぱあまちゃんバージョンの俺、ダメなとこも物にしてるのがいいのかな。
練習のがぶっちゃけイケてるし。
なんだかんだで半分くらいまで一緒に観ているとあぁ、ダメな部分も多々ある。けど楽しい思い出もたくさんあったなぁ。
『脳が
思考が
停止していくの
そこから漏れていく 言葉は
嘔吐 手にはない
赤く染まって水道管へ』
眠いなぁと思ってたらバシバシと来るハゲドラム。あぁそうそう。これ、ハゲに歌詞作ったら文杜も盛り上がって歌詞いじってくれたやつ。
「綺麗…」
「ん?」
「声が。あとなんかメンバーの一体感がハンパじゃない」
「あぁ、ありがとう。これ文杜も歌詞いじってくれた。ハゲに書いたって言ったらベースとか超やる気になって、あいつ珍しく。
逆パターンが確か次の曲かなあ。文杜に曲書いたって言ったらハゲがやる気になったパターン」
しばらく見入るように聞いているスバルくん。なんか照れ臭いなぁ。
「あこの曲?うわぁ、いいねベース」
「ベースを生かしたからねぇ」
「歌詞どんなん?全然聞き取れない。ドレミファにしか聞こえない英語」
「実際ドレミファって言ってる。歌詞もそう書いてるけどまぁホントは英詞」
「えなにそれ」
「これ全体的に言葉遊び歌詞だよ。
ドレミファはDon't let me first、ソラシドはSo last shing down.シラソファはSee last sound found.さくらはタイトル通りSound Coup d'etat Love.だった気がする」
「おもろい。君が作った訳じゃないの?」
「いや、これは意外と俺」
たまにこういう日があるのさ、アーティストにはな!
「スバルくんもう眠いよ。俺寝るー」
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毛布を持って、定位置に移動して寝ることにした。
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