Eccentric Late Show

二色燕𠀋

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An heroin near

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 まずは流すように、新曲ミニアルバムの計5曲を弾いてみる。その時点で突っかかりを改善していき、次に歌詞を入れてみる。

 案外歌詞を入れてみた方が突っかかりがなくなった。曲の意味と世界観をより理解し俺の唄い方の出方を見るからかもしれない。

 だが今回実は、げんちゃんが作詞した曲を一曲だけ入れた。これ結構ムズかった。

 それはげんちゃんも同じ心境だったようだ。
 やはり、歌詞を詰め込んだはいいが、俺はどう歌う、と考えてメインギターを考案してくれたがどうしても、しばらく彼の担当はサイドギターだった。やはり頭がそちらに傾いてしまう。

 しかしそんなことで怯まないのが。

「わりと静めでいってるね。でもなんていうかポップさもあるから、俺はげんちゃんの音に寄せてこうかな。ちゃららん、で」
「エイトビートかなしたら」

 ベースとドラムなんです。そして。

「じゃぁ、ちゃーんちゃんちゃーんで」

 3ピースバンドだった強みなのです。

「おぉすげぇ」
「げんちゃんあっちでもそう言えばサイドだもんねぇ」
「そうだねぇ。いやぁ、やっぱこんな時すげぇわ」
「あ待て待て、ちょっとそのジャズマス貸しぃや」

 え?と言う顔をされる。立ち上がって手を出すと仕方なく肩から外して渡してきたのでギブソンを代わりに渡す。

「ちと俺のパート弾いて」
「え?はい…」

 ちょっと思い付いたのでさっき言ってたとこをアレンジしてみる。ちゃーらんららんらん。返す。

「どうすか?」
「あそれいいわ」
「それを引き立たせるならベースはあまちゃん寄りのがいいねぇ」
「そだね。だってあくまでこれはげんちゃん作詞だからねぇ。なんならげんちゃん唄う?」
「それじゃ歌詞の意味」
「確かに。一回今んとこ合わせよーか」


『俺はいまからメロディーを弾くよ
君はいまから唄を歌うんだ
君はそれから心臓を叩いて
君はいつでも安定を唸って』


 ここの間奏。
 すげぇ指さばきの文杜とげんちゃんとバシバシなハゲ。これはライブ真ん中にしよう。多分アドレナリン、ヤバイ。

 弾き止めて「いいんじゃねえ?」とハゲが言う。うん、いいんじゃねえ?定まった。

 そんな時だった。
 スタジオのドアがノックされた。
 誰だろ。まだ、あと1時間はあるけど。

「はい?」

 近くにいたげんちゃんがドアを開けると。

 「あ、やっぱりな」と、聞き覚えがない声がして、「てめぇ、」と、とても低い声を発したげんちゃんが見上げた先には、少し記憶を掠めた、フェスで2度ほど会った吊り目で長身の人物が立っていた。

太田おおた、」

 まあ、実は俺知っていたけど。
 ele groundのボーカル、太田剛士つよしの片手間バンドが今日この時間にこのスタジオに来ていることは、西東氏にスケジュールを横流ししてもらっていた。(西東氏もわりと人でなしだと俺は訴えたい)

 まぁこちらから終わったら行ったろーかと思ってたんですけどまさか来て頂けるとは。

「あぁ、あんたが天崎さん?へぇ、どーも」
「あらどうも。なんですかこんにちわ」
「いやぁ、奥田おくだのギターが聴こえたんでついね」
「あそう。随分急だったんでびっくり。げんちゃん、下がって」
「あまちゃん?」
「用がないならお宅もスタジオ帰ったら?俺ら曲作ってるんで」
「じゃぁ一言。
 奥田、近々戻ってこない?またやりたいんだけど」
「はぁ?」
「こんなバンドでくすぶってねぇでさ。
 聞いたけどあんた、ジゴロなんだってね」

 嘲笑うかのように俺をみて太田は言う。

 何だこいつ。
 ぶっ飛ばしてくれって今言ったように聞こえたんだけど。

 俺が行こうとすれば後ろから「真樹ー、」とハゲに言われ、それに振り返ればバチがドアの横に飛んだ。
 怖ぇ。太田の真横に当たって落ちる。

「ほらほら仕事道具投げようとか、だから売れないんじゃねぇの?」
「うざっ」

 文杜まで言う。よほど嫌われてますな太田さん。

「ちょっとぉ、栗村くりむらさんには嫌われたくないなぁ。あんたの実力はわりと買ってるし、てか一人一人はわりといいセンスしてるよー。なんでこんな俺アウェイかなぁ、わからないなぁ」
「性格」
「ウザさ」
「てか何用?」
「いや、ふらっと来ただけ。奥田のギター、やっぱいいねぇ。素直に。あのE7の3フレッドどうしたの」

 え、それって。

「はぁ?それって」
「あのー太田さーん。うるさい中すげぇ申し訳ないけど…。それ、俺っすね」
「えっ」

 硬直太田。みるみる表情が青くなりそして赤くなっていった。

「あんたならD9かもね」
「うーん…、ふ、す…ばらしいね、うん」
「ウチのげんちゃんはあげないよ」

 お前、んなんだから仲間なんていないんだよ。案外お前ポンコツ耳じゃん。天才だかカリスマだか全英詞だか帰国子女だか知らんがとにかくお前大したことない。
 まず人間的じゃないやつの詞は何言ってるかよくわかんねぇから翻訳しろタコ。

 と、カリスマに心の中で言う。高々一音されど一音なんだよ。

「じゃぁあんたを頂戴よ」
「あ?」
「ウチにあんたを頂戴よ。あんたのジャズマスターを」
「ふざけろファック。俺はレスポールだ。あんたの装飾品になんてなれるか」
「いずれにしても!」

 げんちゃん、イライラしたようになんか書類を文杜とハゲから受け取り、太田に叩きつけるように見せた。

 ちらっと覗くとでんにじコーポレーションの書類だった。

「俺ここの従業員だからお前と働くなら契約書類必要よ?ねぇ社長?」

 確かに。
 げんちゃん頭ええ。

「そうだよ!ただじゃないよ!」
「なるほどそうきたか。奥田お前事務所辞めたの?」
「ごあいにくさま」
「あっそ」

 ふと太田に手招きされた。

 しかし行かずとも「You turned me on.」と囁かれ、耳朶を軽く噛まれて首筋に舌だか唇が触れた、そう認識した瞬間にはヤツはふと服の上からあの、へその近くにある傷口に触れた気がして俺は動けなくなってしまった。

 それを見て嘲笑うかのように太田は離れ、「明日観に行くよ、楽しみにしてる」と言って後ろ手を振って立ち去った。

 You turned me on.
 は?

「じ、上等だクソ野郎!」

 怒りが勝った。みんなが、「は?」とか「どしたの?」とか言っている。

「明日観に来るってよ。
 “You turned me on”とかちょーしに乗っておられましたぶっ殺す。意味わかんないけど」
「ぶっ殺す」

 怒ったのはまさかの文杜さん。無駄に英語が得意なのです、彼。だから助かってるんですけど。

「意味は“抱いてやるよ”ですよあまちゃん」

 笑顔で殺気立っていた。ネックをぶち折りそう。誰よりも殺気立っていらっしゃったので他が閉口。場が氷山のようになりました。

 そしてハゲが「…さぁ、戻ろー…」と声を掛けたので、正気に戻り、練習にも戻ることにしたのだった。
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