Eccentric Late Show

二色燕𠀋

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CRAVING【短編】

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 その日は確か、スーパーアリーナの、ちょっとしたフェスだった。

 総勢50組くらいの、3日間くらい開催されるフェスで、毎年わりと盛り上がる、しかしながらまだあまり知られてはいない、有名というわけでもない“若い”フェスだった。

 そんなフェスには、様々なアーティストが参加する。

 新人若手バンドから、往年の、昔売れまくって新しくバンドを再結成しちゃうような大物、いま売れているバンドやらなにやら。

 そんななかでは俺たちは所謂、今売れているバンド、しかしながら中堅、安定バンドだ。集客要員みたいな役割もあるのか、こんなとき、こんな仕事が舞い込んでくることも暫しある。

 この頃の、まぁ、所謂「調子こいた」太田は、仕事を選ぶアーティストに成り上がっていた。

 俺が大学生の頃は、大学講義になんて出ちまうくらいのヤツだったのが、今やスターだ。ロックスターだ。ヤツの頭はこの頃最早、エリック・クラプトンのマブダチくらいの勢いだった。

 エリックのマブダチ、ツヨシは、勿論そんなチンケな仕事は一回渋る。理由なんて簡単、「俺たちを誰だと思ってんの?」だ。

 しかしそんなのは業界で有名になっていることをヤツは知らない。太田剛士が高慢ちきであるという噂を。

 相手方はそれを承知か、はたまた、「マジだったわ」となるか、なのだ。しかし相手の対応は一緒。

「お宅だからですよ。お宅なら、確実に今回盛り上がれるし、新人たちも便乗できる」

 これで決まるのだ。

「わかりました今回だけですよぉ」

 と。

 そして俺たちのダルくも、まあダルい曲選が始まる。大体5曲。やる気はないフェス。しかし太田はなんだかんだ爪痕は遺したいタイプだ、そのパターンのセトリはこれだろうね、とタカさんとノリトさんと目を合わせてタカさんが最初にぶっ叩けば、「Stop!」

 あっ、こっちじゃないか。じゃぁこっちパターンだったね。悪いねノリトさん。
 と、ヒステリックな怒鳴り声の太田をBGMにして俺はタカさんと目を合わせて二人で小さく溜め息を吐く。

 最近スタジオではこんなんだ。気付けば俺は1年半、22歳にしてこんなことをしていた。

 怒り顔でマイクスタンドの前に立つ太田に見えないように、後ろで俺とタカさんがノリトさんに然り気無く目配せをして謝るのも日常。不満があった太田がリフを弾き始めて、ノせてやって、ele groundは完成する。

 わかっている、俺たちはどこかで多分。ただ、まだ言いたくないはずだったんだ、そのいつも通りの日常までは。

 それから5曲を、太田のああでもないこうでもない聞き流し、なんなら本番時間30分前くらいまで聞き流して弾き流して楽屋に向かう。

 唖然としたのはそこからで。

 このフェスには会場が、3つある。
 1つはまぁ、アリーナだし、ホールだ。
 もう1つが野外。そしてもう1つが夜限定のDJブース。最近のフェスにしては手が込んでいる。

 正直、前の、俺がele groundに入った当初やらその前の田中さん時代なら迷わず太田は野外ライブでダイブして出禁になるようなパフォーマンスをしただろう。

 しかし運営側が意図したのか高慢ちき太田が希望したのか知らんが、スカパラやらがいるホールでの演奏となったようで。

 やつらは、そこにやって来たのだった。

 その日は確かに、雨だったのだが。

「あ゛ー、さいやくやんけ」

 酷くびしゃびしゃな、紺のスーツに黒シャツ白ネクタイ姿の3人組が。
 俺は瞬時に、ミッシェルガンエレファントを思い描いたのだがどうも…。

「さいやくって、日本語じゃぁ災いわざわいだな確かに」
「違ぇよバカハゲ。最もワルイだぉつーか喋らせんにゃしぃ、あ゛ぁマジ喉死んじゃう」
「真樹がいきなり“いっすんとぅーみー!ふぁっきゅー!”とかよくわかんないの叫んだからだよ」
「お前よく聴き取れたね。俺夢中すぎて大して聞いてなかったけど、んな唄あったっけ」
「ねぇよ!ライブぱふぉ…ライブパフォだわ」

 3人のうち、後ろ側を歩く左にいた金髪の外人みたいなイケメン長身と、右の、猫背で切れ長で殺し屋のような鋭い目をした顎髭が顔に似合わず優しい笑顔をして、二人ハモって「言い直したっ」と、前の真ん中を歩く、女顔で童顔の子供みたいなヤツにツッコミを入れる。

 なんだこいつら。
 ミッシェルには程遠いぞ。
 しかし多分、ミッシェルだよなぁ、それ。なんとなく雰囲気的に。だって一瞬にしてビジュアルが浮かんだもん何故かわからんが。

「でも真樹まき頑張って。今日あとワンステージやらせてくれるって」
「パネェ。マジへりんたーあいね」
「なんでそんな自虐的なのお前」
「いや明日がら外出ないだめに」
「声死んでるじゃんマジバラードにしようぜ」
「えやだよナトリお前指弾きベースの腕をわかってないな、いまマジボルタレン利いてねぇんだよ湿布!」

 どうやら猫背がベースで小さいのがボーカルらしい。

 唖然として立ち尽くして見ていた俺にタカさんが肩を叩く。

「気分悪ぃから早く行こうってさ、太田が」
「え、えぇあぁ、はぁ…」
「まぁ太田、仲良しバンド嫌いだからなぁ…」

 仕方なく俺はタカさんについて行く。しかしタカさんは楽しそうにふと笑った。

「俺は好きなんだけどなぁ、あーゆーバンド。
 知ってる?“でんにじ”。ああ見えて、苦労してるらしいぜ。第一、ベーシストとして、あいつの指弾き、観てぇよなぁ…怒るかなぁ、観に行ったら太田」

 それは。

「タカさん…」
「…最近つまんなくね?って悪ぃな、弦次のがはるかに俺より若ぇのにな」

 それは…。

「いや…」

 そうか。タカさん。
 そうやって、そう思って、俺たちずっと、やってたのか。

「あ、今の、聞かなかったことに」
「タカさん、あのさぁ」
「ん?」
「…ちょっと話があんだけど。あと30分。…ノリトさんともさ」

 その俺のマジな提案に。

「…仕方ねぇなぁ。
 お前が悪いんだよぉ?お前が、へ、若いから!
 いーよ。ノリト呼んでくる。太田にはまぁ、なんかそうねぇ、弦次の弦が切れちゃったって言っとくわ」
「ふっ、ははっ!」

 それはなんて。

「センスあるぅ~!」
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