Eccentric Late Show

二色燕𠀋

文字の大きさ
97 / 107
CRAVING【短編】

6

しおりを挟む
 その日の『ele ground』のライブは。
 楽しかった。多分一番、今までで一番。

 だって最早俺もタカさんもノリトさんも。
 ギターは聞いていたかもしれない、唄も聴いていたかもしれない。

 それがあったけど何より、好きにやらかした。

 ステージに立っていた太田は後半不機嫌そうで、なんならマイクスタンドを蹴っ飛ばしたりして、オーディエンスは最高潮。それに少し驚きもあったように、右からは見えた。

 退場はさっさと、太田は挨拶すらせずに早歩き。
 蹴られてしまっていたがマイクは太田の近場にあったので、退場の際に拾ってマイクスタンドも戻し、「ありがとうございました」を告げるタカさん。

 俺はいつも通り手を合わせ、ノリトさんは客席に手を振って、わりといつもよりも俺たちは時間を掛けて退場した。そんなことも、初めてだった。

 大体俺たちの退場は、俺が手を合わせる以外、あとは客席に何もくれてやらない。くれてやる、というのもおかしいが、まぁ太田の概念の言い方なら、それがしっくりくる。

 始めた当初はやはり、みんな一緒に盛り上がって行こうぜ、俺とele groundで音楽を、だったと思う。俺が客席にいたころは。

 それが舞台に立ち、演奏する立場となれば、ただただ、俺の、いや、太田の演奏技術を見てくださいや、心酔してくださいになってきているのは最早、結構前から気付いていた。

 大学生の頃は、まぁ確かに、俺の演奏黙って聴いとけ。これはあった。

 だが弾けばわかるものだ。まだまだ、もっと、俺はピストルズも好きだがニルヴァーナのようなそう、同じヤク中だって不安定過ぎるようなあんなんも弾いてみたい。
 というかJ-popすら知らなかったかもしれない疑惑があるだなんて。

 あんなに世界を知った気になったって太田が好きなカナダにしか行ってねぇし。カナダ英語なんて、わかんねぇ洋楽に立ち向かうことだってあるし。

 てか俺じゃぁなんだった。なんで、なんでこいつに。

「あれはなんだったんだよお前ら!」

 廊下に怒鳴り声がした。太田だ。
 はっとして見てみれば、キレている。太田が肩呼吸しながらキレている。

「お前ら俺のことバカにしてんのかクソッタレがぁ!」
「ま、まぁ、」
「弦次、いい」

 咄嗟に俺が止めに入ろうとすれば、すっと、いつもは無口なノリトさんが前に出た。
 目がキレている。

「あぁ!?んだよノリ…」
「うるさいんですけど。公共ですけど」
「あ?だからなんだって、」

 ごつっ、と音を立て、太田の頭が前のめりになったのは見えて。

 ちらっと横から覗いてみれば、細マッチョの七分シャツから覗いたノリトさんの青筋、の上に倒れた?凭れた太田がいて、そんな太田を「ほらよ」と言って後ろに放り投げ、タカさんがそれを「へーい」と、キャッチした。

 えっ。

 咳き込んで睨み上げる太田を見下げるノリトさんが、一言、「ドラマーナメんじゃねぇよFuck'n Les Paul野郎」と冷く腹の底に響くシンバルのように叩く。

 そしてまだ何か言い返そうと向かって行こうとする太田に、「はいはい~、手当て手当て。ほらほら胃液で声が出ないんじゃないですか~?サノバイングリッシュ野郎~、へるおんへるおーん」と、茶化すように言って、まるで羽交い締め、引き摺るようにタカさんは太田を楽屋の方へ連れていく。

「えっ、嘘ぅ…!」

 なんつークーデターなの、これ。
 てかもしや。

「あんたら、もしかして」
「いや、きっかけは弦次だよ。ただいつかはこうなってた」
「マジ?」

 ノリトさんは、それにやっと笑った。

「お前って案外良い奴だな。悪かったよ。
こっちはお前なんてお人良し、さっさと潰れてそれで終わりなんだろうって思ってたから…。悪いことしたな」
「なに、それ」
「まぁ、早く悩みは打ち明けた方が良いっていう話だ。どこへ行って何しても。お前その辺の自分の感性、鈍ってんぞ」
「ノリトさん…」

 なんだよなんだよ。

「どーした」
「最早抱いて。あんた良い男やわぁ~」
「そーゆー冗談は大学生までにしろ。この業界少なからずいるからな」
「はぁーい」

 そうかそうか。
 二人、どちらから共なく笑いだした。

「さぁ、行くかぁ…。写メ取りに。公式にあげてやんなきゃ。『解散しました』って。今頃あいつ、タカにぐるぐる巻きにされてるよきっと」
「ノリトさん、それ充分大学生ノリだと思う」

 ただ想像したら笑えてきたので、二人で仲良く楽屋に戻ったら。

「マジだ」

 マジだった。

 「ほらな」と後ろでノリトさんが言いながら入って行くなか、ぐるぐる巻きとまではいかない、ぐったりしてイスに座らせられ、明らかあれからぶん殴られ、後ろあたりで手を拘束されている?のだろう惨めな太田がいた。

 流石に可哀想じゃないかと思うがタカさん、いつのまにやらビール瓶を床に置いてプラスチックのコップに注ぎ、飲みながら太田の前に胡座をかいている。
 太田にも一応ビールを勧めるが、顔を横に背けて太田は拒否する。そもそもそれ、飲めなくないか。

「あ、来た来た。お前らも飲むか?」
「飲む。流石柔道部だな元」

 そうだったの!?
 てか普通に怖ぇよなにこれ。

 奥田弦次22歳、人生史上最大の恐怖がここにあり。しかしエキセントリック。いやエレキトリッキーであります。パニクってよくわかりません。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...