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CRAVING【短編】
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「なぁ太田」
ちびちびとビールを飲みながらタカさんは太田へ諭すように、寂しそうに言うのだった。
「楽しかったよな、RockとかPunkとか、全然わからんで、無我夢中に、ただただギター弾いていた頃。
J-pop、こんなん売れんのに俺たちはなぜ売れねぇと、ならばいっそ、わかりやすくエキセントリックな洋楽被れのJ-popにしようだとか、色々、色々やってきて」
ノリトさんもすっと、立ち尽くす俺の横を通って、タカさんの隣に座る。勝手にビールを注ぐ音が、生々しい。
3人が、ele groundが生々しい。
そうか俺。そもそも、サポートのハズだった。
やっぱ、入れてなかったんだ。正式になんて。傲っていたのは、俺だって、そうだったんだ。
「違う、俺は、」
「俺はそのつもりでやって来たんだ太田。
そんなのも、お前は俺のベースを聴いて、わかんなかったのかよ」
「俺はな、タカ。
俺はそうだなぁ、いつか話した、『J-popと洋楽の融合』だと思ってたな。これ、あんまりいないよなって、四人でいつか、話したやつな」
「そうだな、話してた」
「弦次は…」
ここに来てタカさんとノリトさんが振り返り、入り口でアホ面こいてた俺に話が飛んだ。
太田に睨まれ、タカさんとノリトさんには、優しいような、決定打を求めるような笑顔で見られて。
「俺は…」
俺はどうだったか。
「…ファン、だった。
ここの、ele groundの。始め、本当に。田中…由紀矢がいた頃のエルグラ。フェスにも行って、出禁になったの、観てたよ。
大学サークルのやつらが、ニルヴァーナもピストルズも知らなくて、なんならJ-popしか知らねぇやつらだって、その人に誘われたとき知って、俺、もうなんかでも嬉しくて。
だから、入ったと、思ってた。最初は、サポートでなんて、物凄く調子こいてねぇかとか思ってたけど、今ならわかるよ。
俺やっぱ、サポート止まりだよなぁ、だって俺、もう別に音楽とか好きとか嫌いとか個性とか、んなん、考えてないし」
「…弦次」
「…ホント、悪かったな。
タカ、俺もお前もやっぱ弦次に頼りすぎたな。若者にすべて委ねた怠惰がこれだよ」
「違うよノリトさん、俺、そんなんじゃなくて、」
「太田、以上だ。解散しよう。
俺もタカも弦次ももう、やりたくない」
「…はぁ?」
「いいだろ。お前なら一人でも。俺達は、少なくともお前を渇望しない」
「…そうだな。
黙ってたけど俺、Spaceからお声掛かっちゃってんの~。ウチの高慢野郎は多分無理だよって言っちゃったんだけどぉ、俺実はあそこ、最近のオルタナってジャンルはどうかなぁと思って聴かなかったんだけどさぁ。これをきっかけに最近のヤツ、聴いてみた。案外、良いもんだね」
そう言いながらタカさんは楽しそうにケータイを開き、どこかに電話を始めた。
「あ、もっしー。俺~。エッレ高安でぃーす。
ねぇねぇもうベースって見つかっちゃった?
あ、マジ?やっりぃ~。
うん、今度話聞かしてよ。なんなら今日夜空いてない?すっげぇ遅いけど。そうねぇ、うーん。いまねぇ、フェスなのよー。
てか来ちゃえば?マジおもろいよ。あれあれ、スーパーアリーナ。
うんはーい。じゃぁね~」
切ってからタカさんは、いたずらっ子のような笑顔で見てきて、親指立ててGoodサイン。
「てめぇ高安っ!」
「つーわけで、バーイバーイ。
あ、見る?Space。まだまだだけどさぁ、楽しそーだよマジ。3ピースだから俺ちょっと死んじゃうかもね。なんせ俺、今まで4人でやってきたからなぁ、あんなリズムベース弾けっかな」
「3ピースでベース抜けたのかそこ」
「らしいよ~。解散の危機、救ってくだせぇベース神!だってさ。
笑っちゃうよなノリト~、俺ゴトキがベース神よベース神。他にたくさんいるよなぁ。
でもバンド解散って悲しーよね、と思ってねぇ、行っちゃおーかな、ベース神タカヤス」
「お前らしいな、タカ」
「つかお前らどーするの?」
「まぁドラマーは案外サポートやりまくれば食えないけどなんとか」
「弦次は?お前エレキトリッキーどーすんの?」
「うーん…」
最早太田が騒いでるのは誰も聞いていない。それどころか「うるさい」とか言ってノリトさんがイスを揺らして太田を威嚇する始末。確かに一升瓶空いている。最早二人とも酔っているだろう。
そんな時だった。
「ありゃ」
また現れた。
例の、3人組。
今度はびしゃびしゃじゃないが。
「なにそれっ」
金髪ドラムが驚愕顔で言う。そして間を開け、
「ふっ、ははははは!」
三人で腹を抱えて爆笑し始めた。
ハッとした。
まさかこの楽屋、いまの時間。こいつらなのか、もしや。
「あ、すみません、あの、楽屋もしかして」
「あ、へぇ、はぁ、いや、も、い、いいですはい、ひっ、あの、は、離してあげないんですか」
ちょっと殺し屋あんまり何言ってるかわかんないくらいウケてますけど。
「待って~、待って~!しゃ、写メだけ撮らして!ひぃ、ちょ、何どうしたの苛め?苛め?仕返し?仕返しだよね絶対!」
チビがなんかそう言ってケータイを取り出した。それを後ろから震える手で、「や、やめぃやおもろいけん!」と、若干の鈍りで制して取り上げようとするは金髪。
なにその漫才。
ちびちびとビールを飲みながらタカさんは太田へ諭すように、寂しそうに言うのだった。
「楽しかったよな、RockとかPunkとか、全然わからんで、無我夢中に、ただただギター弾いていた頃。
J-pop、こんなん売れんのに俺たちはなぜ売れねぇと、ならばいっそ、わかりやすくエキセントリックな洋楽被れのJ-popにしようだとか、色々、色々やってきて」
ノリトさんもすっと、立ち尽くす俺の横を通って、タカさんの隣に座る。勝手にビールを注ぐ音が、生々しい。
3人が、ele groundが生々しい。
そうか俺。そもそも、サポートのハズだった。
やっぱ、入れてなかったんだ。正式になんて。傲っていたのは、俺だって、そうだったんだ。
「違う、俺は、」
「俺はそのつもりでやって来たんだ太田。
そんなのも、お前は俺のベースを聴いて、わかんなかったのかよ」
「俺はな、タカ。
俺はそうだなぁ、いつか話した、『J-popと洋楽の融合』だと思ってたな。これ、あんまりいないよなって、四人でいつか、話したやつな」
「そうだな、話してた」
「弦次は…」
ここに来てタカさんとノリトさんが振り返り、入り口でアホ面こいてた俺に話が飛んだ。
太田に睨まれ、タカさんとノリトさんには、優しいような、決定打を求めるような笑顔で見られて。
「俺は…」
俺はどうだったか。
「…ファン、だった。
ここの、ele groundの。始め、本当に。田中…由紀矢がいた頃のエルグラ。フェスにも行って、出禁になったの、観てたよ。
大学サークルのやつらが、ニルヴァーナもピストルズも知らなくて、なんならJ-popしか知らねぇやつらだって、その人に誘われたとき知って、俺、もうなんかでも嬉しくて。
だから、入ったと、思ってた。最初は、サポートでなんて、物凄く調子こいてねぇかとか思ってたけど、今ならわかるよ。
俺やっぱ、サポート止まりだよなぁ、だって俺、もう別に音楽とか好きとか嫌いとか個性とか、んなん、考えてないし」
「…弦次」
「…ホント、悪かったな。
タカ、俺もお前もやっぱ弦次に頼りすぎたな。若者にすべて委ねた怠惰がこれだよ」
「違うよノリトさん、俺、そんなんじゃなくて、」
「太田、以上だ。解散しよう。
俺もタカも弦次ももう、やりたくない」
「…はぁ?」
「いいだろ。お前なら一人でも。俺達は、少なくともお前を渇望しない」
「…そうだな。
黙ってたけど俺、Spaceからお声掛かっちゃってんの~。ウチの高慢野郎は多分無理だよって言っちゃったんだけどぉ、俺実はあそこ、最近のオルタナってジャンルはどうかなぁと思って聴かなかったんだけどさぁ。これをきっかけに最近のヤツ、聴いてみた。案外、良いもんだね」
そう言いながらタカさんは楽しそうにケータイを開き、どこかに電話を始めた。
「あ、もっしー。俺~。エッレ高安でぃーす。
ねぇねぇもうベースって見つかっちゃった?
あ、マジ?やっりぃ~。
うん、今度話聞かしてよ。なんなら今日夜空いてない?すっげぇ遅いけど。そうねぇ、うーん。いまねぇ、フェスなのよー。
てか来ちゃえば?マジおもろいよ。あれあれ、スーパーアリーナ。
うんはーい。じゃぁね~」
切ってからタカさんは、いたずらっ子のような笑顔で見てきて、親指立ててGoodサイン。
「てめぇ高安っ!」
「つーわけで、バーイバーイ。
あ、見る?Space。まだまだだけどさぁ、楽しそーだよマジ。3ピースだから俺ちょっと死んじゃうかもね。なんせ俺、今まで4人でやってきたからなぁ、あんなリズムベース弾けっかな」
「3ピースでベース抜けたのかそこ」
「らしいよ~。解散の危機、救ってくだせぇベース神!だってさ。
笑っちゃうよなノリト~、俺ゴトキがベース神よベース神。他にたくさんいるよなぁ。
でもバンド解散って悲しーよね、と思ってねぇ、行っちゃおーかな、ベース神タカヤス」
「お前らしいな、タカ」
「つかお前らどーするの?」
「まぁドラマーは案外サポートやりまくれば食えないけどなんとか」
「弦次は?お前エレキトリッキーどーすんの?」
「うーん…」
最早太田が騒いでるのは誰も聞いていない。それどころか「うるさい」とか言ってノリトさんがイスを揺らして太田を威嚇する始末。確かに一升瓶空いている。最早二人とも酔っているだろう。
そんな時だった。
「ありゃ」
また現れた。
例の、3人組。
今度はびしゃびしゃじゃないが。
「なにそれっ」
金髪ドラムが驚愕顔で言う。そして間を開け、
「ふっ、ははははは!」
三人で腹を抱えて爆笑し始めた。
ハッとした。
まさかこの楽屋、いまの時間。こいつらなのか、もしや。
「あ、すみません、あの、楽屋もしかして」
「あ、へぇ、はぁ、いや、も、い、いいですはい、ひっ、あの、は、離してあげないんですか」
ちょっと殺し屋あんまり何言ってるかわかんないくらいウケてますけど。
「待って~、待って~!しゃ、写メだけ撮らして!ひぃ、ちょ、何どうしたの苛め?苛め?仕返し?仕返しだよね絶対!」
チビがなんかそう言ってケータイを取り出した。それを後ろから震える手で、「や、やめぃやおもろいけん!」と、若干の鈍りで制して取り上げようとするは金髪。
なにその漫才。
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