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Film 1
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アクリルを潜ってみて、雨川は驚愕した。
「なん、ですか、これ」
その白い空間は見慣れている。
滅菌されているような空間に水槽があって、恐らく南沢がどこかの川だかなんだか知らないが、釣ってきたのだろう小さな桜エビのようなエビがいるのも彼の密かな娯楽、これもわりと雨川は見慣れている。
密かな南沢の娯楽がここにあるということは、彼がここによく出入りするのだろう、というのは察しがつくのだ。
だからこの目の前で、そのエビにエサだかなんだかをあげている、透けるような金の長髪で色白の何人だかわからない、推定10代後半くらいの性別不詳な子供の正体がわからない。ロシア系だろうか。
その子供はこちらを空虚な碧眼で眺め、小首を傾げた。
美人だ。女性かもしれない。外人ならもしや10も歳はいっていないかも。少なくとも身長は165はありそう。
しかし不似合いにその子供は赤い体育のジャージだろうか、着ている。その右胸に書かれた乱雑な『南沢』これってどうなんだ、なんなんだ一体。
「顔に困惑と書いてあるねぇ真冬ちゃん」
「…その通りです。なんですかこれは」
「うーん、そうですねぇ」
「ナツエさん、」
喋った。
子供、喋った。わりとはっきりと。
「はいはい、どうしたのソラちゃん」
「ソラちゃん!?」
「食べた。エビがエビを食べました」
「あらぁ、まぁ野生だからねぇ。共食いしたんですねぇ」
え何これ。
どういった現象が起きているのですかこれは。
「共食い?何ソレ」
ソラちゃんというらしいその赤ジャージの子供がそう問えば、南沢はソラちゃんににやっと笑いかけ側に寄ってと言うか子供を後ろから抱き締める形で手の中に納め、一緒に水槽を眺めて「見たんでしょソラちゃん。こんな感じだよ」と耳元で囁いている。
ソラちゃん、くすぐったそうに笑って南沢を見上げていた。
え、お前そんな趣味あったのかなんだそれ。
研究成果を見せるってあれ、なんだったんですか貴様。
「…あの、南沢准」
「あ、紹介します。ソラです」
「…え?」
「あの人は雨川くん。雨川真冬です。ソラ、君と逆なんです、彼」
ナニソレ。
「逆?」
「そ。
彼は女の子だけど、男なんです」
は?
「南沢さん、あの、」
「仲間なの!?」
「え?」
「そうだよソラちゃん」
「は?」
「こんにちはえっと…」
「真冬ちゃん」
「マフユちゃん!私はソラです!海から来ましたよ!魚釣りに来た、ナツエさんに釣られたんです!」
「え、」
えぇぇぇ!
「ナニソレぇぇぇ!」
「ははは、良いリアクションありがとう真冬」
「え、何あんた、本気で変態なんですか?」
「いや、違いますよ。色々語弊があるので訂正いたします。
俺は一週間前、喜多教授補佐と、ロシアのとある大学に行きました」
「行ってましたね、ハイ」
確かわりと大きな研究成果を見せにな、全国的にな。有名なやつな。それをなんだ、なにがあった。
「そこでお腹をすかせた少年を発見しましたが、彼はどうも、なんかぁ、怪しいお兄さんに身売りして怪しいお金を稼いでるご様子。
聞いたら自分は女の子で、精通もないし毛も映えてないしてか女の子!おっぱいある!とか言うので触って確認しました。
俺は驚愕しました。そして君を思い出しました。
まぁこのままここにいても青少年だしぃ、よくないよね!といって現在、ここで育てて研究をしております」
「おい待ておい待て!」
思わず言葉が荒くなる、というより素が出た。
「待てません。ということで君の道徳どうでしょう?飼ってくれませんかこの子」
「ふざけてますよね大方」
「大方大真面目です」
「では言いましょう。
ふざけんな変態クソ野郎!」
「あははー、ソラちゃん、いまのは聞いてはいけませんよー」
「おいロリコン変態野郎、貴様俺をどれ程ナメていらっしゃいますかえぇ!?
大体よく意味わかんねぇし話飛びすぎてるしまずは国語、日本語を中学辺りからやり直してこいバカタレ人でなしぃ!」
一息で言い切って少し疲れた。
雨川が一人はぁはぁ息をしていると、当の南沢はソラを見つめ、ソラはとても疑問そうに南沢を仰ぎ見ている。
「どうしたの」「なんだろね」という会話に雨川は少し呼吸を置いてみる。
「…あんたみたいな宇宙人にはひとつだけしか究極を言いません。
易々と人間をペット感覚で拾ってきちゃったの?とかそーゆーの一回置いといて突き詰めますと、断ります。何故なら俺は男性です、その子は女性の、見るところ思春期です。ダメです。健全じゃぁない!」
「だから頼んでいるのですよ雨川くん」
「ふざけんなっつってんだよ、このクズ!」
怒鳴った。
「あんた、だけは、少しくらいわかっていて欲しかった。まぁ無理だと思ってたがホントに無理か。
なんだそれ、そんなの冒涜だ、セクシャルハラスメントだ。その子に対しても、俺に対してもぉ…、んだよ、あんたにはわかんない、どんな思いでこっちが生きてるか、なんて、」
しまいには言いながら溢れてしまった。これは凌辱だ。俯いて泣く雨川に南沢もさすがに「侵害だ」と、低い声で言う。
「セクシャルハラスメント?結構だ、こっちはならば人権侵害で応戦してやる。
自意識過剰め。俺は君たちを人として見ているのに何を拘るかよくわからん。意味わかんねぇ。俺がそれでも君が好きだと言ったらどうだ、それでも言うかこの野郎。
君だから、こんなことでぼろぼろ無様に泣ける君だからソラを預けるんだろうがわかれよ頭悪いな、真冬!」
えっ。
なんか色々突っ込むべきだったか今。
「君も充分社会不適合だっつーの!守られて驕ってんじゃねぇよ!」
「なんだよこのっ、」
言い返せない。
何か言い返そう、そう思って見返してやったらその南沢の表情はもの凄く切なそうで。
どうしよう。
そう思っていたら南沢が急にソラを置き自分の元へ歩いてきて、がっつり強めに抱き締めてくる。
「なっ、」
「悪かったって。けど謝れ」
ムカつく。
背中をぶん殴ってやったら離れた。ソラが「ダイジョブ?」と駆け寄ってくる。
「なん、ですか、これ」
その白い空間は見慣れている。
滅菌されているような空間に水槽があって、恐らく南沢がどこかの川だかなんだか知らないが、釣ってきたのだろう小さな桜エビのようなエビがいるのも彼の密かな娯楽、これもわりと雨川は見慣れている。
密かな南沢の娯楽がここにあるということは、彼がここによく出入りするのだろう、というのは察しがつくのだ。
だからこの目の前で、そのエビにエサだかなんだかをあげている、透けるような金の長髪で色白の何人だかわからない、推定10代後半くらいの性別不詳な子供の正体がわからない。ロシア系だろうか。
その子供はこちらを空虚な碧眼で眺め、小首を傾げた。
美人だ。女性かもしれない。外人ならもしや10も歳はいっていないかも。少なくとも身長は165はありそう。
しかし不似合いにその子供は赤い体育のジャージだろうか、着ている。その右胸に書かれた乱雑な『南沢』これってどうなんだ、なんなんだ一体。
「顔に困惑と書いてあるねぇ真冬ちゃん」
「…その通りです。なんですかこれは」
「うーん、そうですねぇ」
「ナツエさん、」
喋った。
子供、喋った。わりとはっきりと。
「はいはい、どうしたのソラちゃん」
「ソラちゃん!?」
「食べた。エビがエビを食べました」
「あらぁ、まぁ野生だからねぇ。共食いしたんですねぇ」
え何これ。
どういった現象が起きているのですかこれは。
「共食い?何ソレ」
ソラちゃんというらしいその赤ジャージの子供がそう問えば、南沢はソラちゃんににやっと笑いかけ側に寄ってと言うか子供を後ろから抱き締める形で手の中に納め、一緒に水槽を眺めて「見たんでしょソラちゃん。こんな感じだよ」と耳元で囁いている。
ソラちゃん、くすぐったそうに笑って南沢を見上げていた。
え、お前そんな趣味あったのかなんだそれ。
研究成果を見せるってあれ、なんだったんですか貴様。
「…あの、南沢准」
「あ、紹介します。ソラです」
「…え?」
「あの人は雨川くん。雨川真冬です。ソラ、君と逆なんです、彼」
ナニソレ。
「逆?」
「そ。
彼は女の子だけど、男なんです」
は?
「南沢さん、あの、」
「仲間なの!?」
「え?」
「そうだよソラちゃん」
「は?」
「こんにちはえっと…」
「真冬ちゃん」
「マフユちゃん!私はソラです!海から来ましたよ!魚釣りに来た、ナツエさんに釣られたんです!」
「え、」
えぇぇぇ!
「ナニソレぇぇぇ!」
「ははは、良いリアクションありがとう真冬」
「え、何あんた、本気で変態なんですか?」
「いや、違いますよ。色々語弊があるので訂正いたします。
俺は一週間前、喜多教授補佐と、ロシアのとある大学に行きました」
「行ってましたね、ハイ」
確かわりと大きな研究成果を見せにな、全国的にな。有名なやつな。それをなんだ、なにがあった。
「そこでお腹をすかせた少年を発見しましたが、彼はどうも、なんかぁ、怪しいお兄さんに身売りして怪しいお金を稼いでるご様子。
聞いたら自分は女の子で、精通もないし毛も映えてないしてか女の子!おっぱいある!とか言うので触って確認しました。
俺は驚愕しました。そして君を思い出しました。
まぁこのままここにいても青少年だしぃ、よくないよね!といって現在、ここで育てて研究をしております」
「おい待ておい待て!」
思わず言葉が荒くなる、というより素が出た。
「待てません。ということで君の道徳どうでしょう?飼ってくれませんかこの子」
「ふざけてますよね大方」
「大方大真面目です」
「では言いましょう。
ふざけんな変態クソ野郎!」
「あははー、ソラちゃん、いまのは聞いてはいけませんよー」
「おいロリコン変態野郎、貴様俺をどれ程ナメていらっしゃいますかえぇ!?
大体よく意味わかんねぇし話飛びすぎてるしまずは国語、日本語を中学辺りからやり直してこいバカタレ人でなしぃ!」
一息で言い切って少し疲れた。
雨川が一人はぁはぁ息をしていると、当の南沢はソラを見つめ、ソラはとても疑問そうに南沢を仰ぎ見ている。
「どうしたの」「なんだろね」という会話に雨川は少し呼吸を置いてみる。
「…あんたみたいな宇宙人にはひとつだけしか究極を言いません。
易々と人間をペット感覚で拾ってきちゃったの?とかそーゆーの一回置いといて突き詰めますと、断ります。何故なら俺は男性です、その子は女性の、見るところ思春期です。ダメです。健全じゃぁない!」
「だから頼んでいるのですよ雨川くん」
「ふざけんなっつってんだよ、このクズ!」
怒鳴った。
「あんた、だけは、少しくらいわかっていて欲しかった。まぁ無理だと思ってたがホントに無理か。
なんだそれ、そんなの冒涜だ、セクシャルハラスメントだ。その子に対しても、俺に対してもぉ…、んだよ、あんたにはわかんない、どんな思いでこっちが生きてるか、なんて、」
しまいには言いながら溢れてしまった。これは凌辱だ。俯いて泣く雨川に南沢もさすがに「侵害だ」と、低い声で言う。
「セクシャルハラスメント?結構だ、こっちはならば人権侵害で応戦してやる。
自意識過剰め。俺は君たちを人として見ているのに何を拘るかよくわからん。意味わかんねぇ。俺がそれでも君が好きだと言ったらどうだ、それでも言うかこの野郎。
君だから、こんなことでぼろぼろ無様に泣ける君だからソラを預けるんだろうがわかれよ頭悪いな、真冬!」
えっ。
なんか色々突っ込むべきだったか今。
「君も充分社会不適合だっつーの!守られて驕ってんじゃねぇよ!」
「なんだよこのっ、」
言い返せない。
何か言い返そう、そう思って見返してやったらその南沢の表情はもの凄く切なそうで。
どうしよう。
そう思っていたら南沢が急にソラを置き自分の元へ歩いてきて、がっつり強めに抱き締めてくる。
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