金魚すくい

二色燕𠀋

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 ふっくらした袋の中にいる赤い金魚。
 人通りが多いところが苦手だった私に母が「一カ所だけ寄っていこうか」と一声かける。車の窓から私が眺めていたのは、同じ年の頃の子供が腕からぶら下げていた金魚だった。
 
 母は設けられた簡易駐車場に車を停め、私の手を取る。保育園の帰り、まだ日は沈みきってはいなかった。

「どこ行こうか」
「あれ!」
 
 通りかかった浴衣姿の学生が持っていた金魚の袋を指差した。
 「えぇ?育てるの大変よ?」と、私の目線にあわせてしゃがみこむ。

「餌とかあげる?毎日だよ?」
「あげるあげる!あれなぁに?」
「まいっか…あれはね、すくうんだよ。さえちゃん、行ってみよっか」
「行く行く!」

 「やったことあるけど、難しいんだよ~」なんて言いがら、出店を探して二人歩く。
 他に、綿飴やたこ焼きなんかもあって、「さえちゃん、いいの?」と母は話を振ってくるが、頭は金魚すくいでいっぱいだった。
 
 そのうちやっとすいてる金魚すくいの出店に出会う。たくさん金魚が泳いでいて、ずっと眺めていた。中には黒くて目が大きいのがいて、私は母を振り返った。

「まま、これ何?」 
「これ出目金だよ。さえか、これ狙いなよ、高いよ」
 
と冗談を言って母は笑った。
 「可愛くないよこれ!赤いのにする!」と本気で言い返し、金魚すくい屋のおじさんから金魚をすくう、和紙で出来たポイをもらった。

「2回までだよ」
 
 言い終わるか終わらないかのうちに私はそのまま上からポイを水につけてしまい、破いてしまった。

「あっ」
「さえちゃん下手くそ!」
 
 おじさんは優しく、「横から入れるといいよ」と教えてくれた。

「さえちゃん、どれにするか決めてから水に入れたら?」
「わかった!」
 
 わかったと言ったものの、なんだかどれも同じに見えてしまう。母が言う出目金以外、あまり違いがわからない。仕方がないので、なんとなくで赤い金魚を選んで横からポイを入れる。が、また破けてしまった。
 
 金魚がとれなかったとちょっとがっかりしていると、「次は取れるといいね」とおじさんが言い、おわんで一匹すくって袋に入れて渡してくれた。 

 どうしてもらえるのかわからないまま、「ほら、ありがとうしなさい」と言われ、あぁ、そうだったと思い、金魚すくいのおじさんに感謝する。

「どうせならご飯も買ってこうか」
「うん!」
 
 金魚すくいを後にして、右手は母と繋いでいる。左手には金魚の袋を持っている。
 
 袋の中に入っているのが生き物であると思うと少し気が気ではなかったが、さっきまで見ていた通行人の光景。これと一緒なんだと思うと少し誇らしげだった。

 
 私はその頃、大体は母と二人で住んでいた。自宅もワンルームで築30年は経っているだろうボロアパート。もちろん、ペットを買う余裕なんてものはない。
 
 そんな中で出来た、二人で育てる何かというのが単純に嬉しかった。
 祖母の家では犬を飼っていた。だからだろうか、心のどこかで何かを飼ってみたいと思っていたんだとこの時に気が付いた。
 
 夕飯を買い終えて車に乗ったとき、母が「どうしよっか」と問う。

「さえか、金魚ずっと持ってられないよね…」
 
 確かにそこを考えていなかった。

「え?持ってる!」
「うーん…
あ、そうだ!貸して!」
 
 本当はまだその余韻に浸っていたかったが、仕方なく金魚が入った袋を母に渡す。母はそれを車のミラーに持ち手の紐をぶら下げた。

「これなら見えるし、大丈夫っしょ!なんかでも段差とかでさ、ガタンってなったらぴょんって跳ねてどっか行っちゃいそうだね」
「ずっと見とくー!」
 
 笑いながら言われたので私はそう決心した。母はやはり、今思い返しても破天荒である。
 
 ただ、決心しなくても私はずっと金魚を見ていた。車で走り去る町の景色が水で滲む。そこにはっきりといる赤い金魚が凄く不思議で、綺麗だった。過ぎ去る景色は80km。だけど金魚はゆらゆらとゆったり水に浸かっている。
 
 横を向けば天気のいい赤く静む夕日。同じ色なんだなとふと思ったのを今でも覚えてる。
 
 何かの拍子で余所見をして、家の駐車場付近で気が付いた。金魚がいない。丸い袋に入った透明だけがそこにぶら下がっていて。

「まま…!」
 
 一瞬自体が飲み込めなくて袋を凝視することしかできなかった。

「え?何?」  
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