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母も袋をちらっと見る。
「停まったら探そう。いつから?」
「わかんない…いない!」
「うん、でも多分さっきまでいたからつい今だとは思うけどね…その辺いないの?」
「うーん…」
ここでやっと、金魚を探さなければと思うようになった。考えられそうな足元とかをちらっと見てみたが踏んでしまっては困ると思い、あまり動けない。駐車場にやっと停車し、母が付近を見回す。見つからない。
「足元いない?そっと立ってみ?」
私は確実にいないところに足をずらし立った。
私が座っていたお尻の下あたり、ちょうど座席の窪んでいるあたりにいた。動いていない。
「いた!けど…」
「…とりあえず、水の中戻してみ?」
あきらめたように母は言った。私も、これはもう死んだんだと思いながら金魚を手で拾い、袋を取って水の中に戻す。
母親が袋を私の手から受け取り、二人で車を出る。金魚を触った冷たさやぬめりが妙にはっきりとこびりついている気がした感触まで、ちゃんと覚えている。
「あ、大丈夫だ、生きてる!」
母が袋を眺めてそう言った。見上げると、金魚はまるで何事もなかったかのようにゆらゆら揺れている。が、動いていない。
「それって生きてるの?」
「そうだよ。魚は死んだら、なんていうのかな、寝っ転がるみたいにさ、横になって、水に浮くんだよ」
「そうなの?じゃぁ生きてるんだね…」
でも、あまり動いてくれないのでしばらく見ていた。
「ほら、危ないから」と私を注意をしつつ、金魚を渡してくれた。途中でひらっと鰭を動かして方向転換下のを見て、何だか金魚の色がより鮮明に見えた気がした。
「あっ!動いた!」
いきなり大きな声を出したので、家の鍵を開けようとしていた母の手から鍵が落ちた。
「びっくりした!」
母が鍵を拾ってドアを開けた。ごめんなさいと謝り、二人で帰宅する。靴を脱ぐ間母に金魚を預けると、困ったように言った。
「金魚さぁ、どこにいれようか…」
「え?」
正直全然意味が分からない。袋に入っているのに。
「袋に入ってる」
「これから飼うならこのままじゃだめだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。水槽とかは置けないし買えないから…うーん、コップでもいいかなぁ」
母は、台所の横にある木で出来た小さな食器棚の奥から、しばらく使っていない小さな、ネコのイラストが描かれた薄茶色のマグカップを取り出し、軽く水で濯いでから右手を私に出した。私が金魚の入った袋をそのまま渡すと、母はカップに金魚を移しながら、「とりあえずはこれでいっか。お腹すいたね、冷めないうちにご飯食べよう。よし、手ぇ洗っておいで」と言う。
お風呂場の前にあった洗面台で手を洗っていると、そのうち電気がついて、母が後ろから袖をまくってくれる。母も手を洗ってふたりで順番に手を拭いて、またキッチンで買ってきた屋台のご飯を電子レンジで暖める。
たこ焼きと焼きそばとお好み焼き。どれも、私の中では新鮮だった。
母は、この頃は料理が不得意だった。
そしてここ最近では、自宅で二人で夕飯を過ごすのが日課になっていた。普段は、母は帰りが遅い。大体は保育園で夜を過ごし、夕飯は祖母の家で食べる。
祖母は私と母の夕飯を作ってすぐ、夜のパートに出掛けるのだ。
たまに戻ってくる日課。だから、というのもあったがなにより、お祭りのご飯が嬉しくて。
「バケツの方がいいかなぁ…バケツ、どっかにあったなぁ。おっきいかなぁ。あそこに置いてあるとさぁ、さえちゃん、金魚見えないかなぁ」
母が洗面台で漸くバケツを発見した頃にご飯は暖め終わる。母はがさつな人で、3つ全てを一気に電子レンジで暖めてしまうような、そんな人だ。
「あったけど、出来たね。まず食べようかお腹すいたでしょ」
私はずっと、シンクを前に立ち尽くしていた。そこに置いてあるカップの中の金魚はどうしているのかなぁと、気になって仕方なくて。
「じゃ、一回だけだよ」
そう言って母は私を抱っこして、金魚を見せてくれた。
静かに止まっていた。生きているか、わからないくらいに。
「停まったら探そう。いつから?」
「わかんない…いない!」
「うん、でも多分さっきまでいたからつい今だとは思うけどね…その辺いないの?」
「うーん…」
ここでやっと、金魚を探さなければと思うようになった。考えられそうな足元とかをちらっと見てみたが踏んでしまっては困ると思い、あまり動けない。駐車場にやっと停車し、母が付近を見回す。見つからない。
「足元いない?そっと立ってみ?」
私は確実にいないところに足をずらし立った。
私が座っていたお尻の下あたり、ちょうど座席の窪んでいるあたりにいた。動いていない。
「いた!けど…」
「…とりあえず、水の中戻してみ?」
あきらめたように母は言った。私も、これはもう死んだんだと思いながら金魚を手で拾い、袋を取って水の中に戻す。
母親が袋を私の手から受け取り、二人で車を出る。金魚を触った冷たさやぬめりが妙にはっきりとこびりついている気がした感触まで、ちゃんと覚えている。
「あ、大丈夫だ、生きてる!」
母が袋を眺めてそう言った。見上げると、金魚はまるで何事もなかったかのようにゆらゆら揺れている。が、動いていない。
「それって生きてるの?」
「そうだよ。魚は死んだら、なんていうのかな、寝っ転がるみたいにさ、横になって、水に浮くんだよ」
「そうなの?じゃぁ生きてるんだね…」
でも、あまり動いてくれないのでしばらく見ていた。
「ほら、危ないから」と私を注意をしつつ、金魚を渡してくれた。途中でひらっと鰭を動かして方向転換下のを見て、何だか金魚の色がより鮮明に見えた気がした。
「あっ!動いた!」
いきなり大きな声を出したので、家の鍵を開けようとしていた母の手から鍵が落ちた。
「びっくりした!」
母が鍵を拾ってドアを開けた。ごめんなさいと謝り、二人で帰宅する。靴を脱ぐ間母に金魚を預けると、困ったように言った。
「金魚さぁ、どこにいれようか…」
「え?」
正直全然意味が分からない。袋に入っているのに。
「袋に入ってる」
「これから飼うならこのままじゃだめだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。水槽とかは置けないし買えないから…うーん、コップでもいいかなぁ」
母は、台所の横にある木で出来た小さな食器棚の奥から、しばらく使っていない小さな、ネコのイラストが描かれた薄茶色のマグカップを取り出し、軽く水で濯いでから右手を私に出した。私が金魚の入った袋をそのまま渡すと、母はカップに金魚を移しながら、「とりあえずはこれでいっか。お腹すいたね、冷めないうちにご飯食べよう。よし、手ぇ洗っておいで」と言う。
お風呂場の前にあった洗面台で手を洗っていると、そのうち電気がついて、母が後ろから袖をまくってくれる。母も手を洗ってふたりで順番に手を拭いて、またキッチンで買ってきた屋台のご飯を電子レンジで暖める。
たこ焼きと焼きそばとお好み焼き。どれも、私の中では新鮮だった。
母は、この頃は料理が不得意だった。
そしてここ最近では、自宅で二人で夕飯を過ごすのが日課になっていた。普段は、母は帰りが遅い。大体は保育園で夜を過ごし、夕飯は祖母の家で食べる。
祖母は私と母の夕飯を作ってすぐ、夜のパートに出掛けるのだ。
たまに戻ってくる日課。だから、というのもあったがなにより、お祭りのご飯が嬉しくて。
「バケツの方がいいかなぁ…バケツ、どっかにあったなぁ。おっきいかなぁ。あそこに置いてあるとさぁ、さえちゃん、金魚見えないかなぁ」
母が洗面台で漸くバケツを発見した頃にご飯は暖め終わる。母はがさつな人で、3つ全てを一気に電子レンジで暖めてしまうような、そんな人だ。
「あったけど、出来たね。まず食べようかお腹すいたでしょ」
私はずっと、シンクを前に立ち尽くしていた。そこに置いてあるカップの中の金魚はどうしているのかなぁと、気になって仕方なくて。
「じゃ、一回だけだよ」
そう言って母は私を抱っこして、金魚を見せてくれた。
静かに止まっていた。生きているか、わからないくらいに。
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