金魚すくい

二色燕𠀋

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 お風呂に入る前にこうさくくんに金魚を見せた。

「金魚の餌とかあんの?」

 という問いにままは、「あぁ、明日買ってこないとね」と言って。

 「なんだか元気ないなぁ、金魚。金魚ってぶくぶく必要なんじゃない?」

 こうさくくんがいうぶくぶくとは果たしてなんだろう。

 ままと二人でお風呂に入って、あがってすぐに私はじっと金魚を見つめていたけれど、「寒いから早く寝なさい」と言われ、金魚にバイバイして布団に入った。

 こうさくくんとままはしばらく二人で仲良くテレビを見ていた。

 ままはいつも、大体気付いたら隣で寝ているのです。次の日の朝も「さえかー…起きてー…」と寝惚けて起こしてくれて。

 朝にはこうさくくんはいつもいません。夜に来て朝にはいないのです。

 その日の朝のひとつの衝撃は、私がよく抱き枕にしていたアザラシのゴマちゃんの背に、焦げ目が合ったことで。

 「まま!ゴマちゃんが!」と言えば、まだダルそうなままは「んー?」と唸ってからゴマちゃんを見て「あっ、」と。

 これは犯人はままだ。絶対。

「まま、ゴマちゃん」
「ごめんごめん…寝タバコしちゃった」
「なにそれ」
「ごめんねさえちゃん」

 朝からそんなんでちょっと悲しい。悲しかったけど私は「ふぅん」と俯いて。

 私とままは普段、朝ごはんを食べない。歯を磨いてのろのろと着替えて「あら大変!急いで、会社遅れちゃう!」と保育園に向かう。

 車に乗ってなんとなく、ままの隣の助手席に座るとき、昨日の金魚が思い出されて浅く座って。ままは得に気にせず発進。

 砂利の駐車場をいく。

「今日も早いから、またご飯買っていこうね」

 約束のようにそう言って、保育園まで車は走って。
 今日はなにがあるかなぁ、とか、そんな事ばかりを毎日考えて。

「あ、帰りは金魚の餌を買って帰ろうか。あれってパンとかでもいいのかな」
「パン?」
「そのままじゃないよ?ちぎってさぁ。だったら食パンあるじゃん?」
「パン食べるの金魚」
「わかんない。やっぱりダメかなぁ」

 ままが不思議なことを言う。しかしそれから、

「あとは帰り、大ままの家に寄ろう」

 大ままとは、所謂祖母のことである。

「うん、わかった」

 楽しみがどんどん、増えていくようで。

 私は小さな頃から不思議な子だった。
 ブランコに乗りながら寝ちゃうし、一人でふらふらどこかへ行ってしまう子だった。

 やはた神社のお祭りが何日間なのかはわからなかった。しかしここ最近、金曜日から土日は祖母に預けられていた。だから私はどちらかと言えば当時は今と違い、おばあちゃんっ子であった。大ままの家に行く、というのはつまり金曜日だったのだろうと思う。

 しかし大ままも大ままで、わりと家には居ない人だった。夜の遅くまでやっているファミレスではたらいていたからだ。

 だけど私は大体、一人ではなかった。大ままの家で犬を飼っていたからだ。

 その犬は私よりも1つ年上だった。

 金曜日と言うのは、いま考えればとても忙しい日だった。色々なことがある金曜日。明日明後日は保育園でなく祖母の家で過ごす日。夜を飼い犬と過ごす日なのだ。

 犬の名前はマドンナ。柴犬とテリアの雑種で、何処かから貰ってきたのだという。私の小さい頃の写真には大体彼女が写っていた。

 ちなみにマドンナは、近くのパチンコ屋から名前を勝手に拝借したようだ。名付け親の写真を見たことはあり名前も知っているが、私には馴染みが薄い人物であった。

 名前はたかし。ままの兄なんだそうだ。



 やはた神社に寄って、真っ先に金魚すくいへ向かった私にままは、「ホントに?」と呆れなのか、なんなのか。

 やっぱり金魚は取れなくて、一匹貰ったのだった。また赤い金魚。だけどままは得に何も言わなかった。

 その日はご飯は焼きそばだけ買った。

 それから日課、祖母の家「時計はセイコー」の看板、大島時計店に向かう。

 大島時計店は最近どうやらお客さんが来ない。と言うか、閉めているのかもしれない。

 薄暗いお店の奥が祖母の暮らす家で、私たちは正面、所謂お店の入り口ではなく、裏口の古い扉から中に入る。

マドンナが二階からすぐに掛けてくる。

「あれ、大まま?」

 しかしどうにも気配がないのだ。

「もう仕事行っちゃったかな。でも…電気ついてるよねぇ…」

 ままはそれから家に上がり込んで、部屋の引き戸を開ける。

 そこは確かに暖かかった。と言うか、まだ食べていないインスタントラーメンがどんぶりのまま置いてあった。

「なにこれ…」
「まま、大ままいないの?」
「でもラーメンあるよね」
「食べて良い?」
「え、待ってようよさえちゃん」

 しかしお腹がすいている。 
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