愛し愛され。また愛す。

佐々木 おかもと

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第3話

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「よし。…完了っと」

パソコンを目の前に俺は仕上げた計画表やその他諸々のデータを保存した。

そう、やっと今月末に行く社員旅行の計画が立て終わったのだ。よく頑張ったよ俺~。

俺は大きく伸びをして小さく息を吐いた。
今は、定時をとっくにすぎたサービス残業をしているところだ。残念ながら、計画を立てるのに残業手当は出ないらしい。悔しい。

ふと、スマホを見ると着信があったようで通知が来ていた。
誰からなのかを確認すると、小林からだった。
メールじゃなくて電話を掛けてくるなんて珍しい。何か急用だったのだろうか。
俺は取り敢えず掛け直してみる事にした。



───おかけになった電話番号はおでになりません。


おい。嘘だろ。上司の電話を無視か…?

と思ったら今考えると深夜に着信があっても起きていない限り出れない筈だ。

俺はスマホを置き、冷えきったコーヒーを飲み干した。

そして、急いで会社を後にした。

その足のまま俺はゲイバーmomoへ向かった。
久しぶりにマスターと話そうかな。それにこの時間帯は人がほとんど帰っていく時間だ。

momoの建物の前に立つと少し重ためなドアを引き中に入る。

「ん?あっ、涼太じゃん。久しぶりだね。」

中に入るとここのオーナーである桃瀬がいた。彼は基本的に、バーには来ないが時々こうやって顔を出しては気に入った客と飲んでいる。
しかし、今日は1人で飲んでいたようだ。

「なんだ、珍しく顔を出しにきたのか?」
「そう。久々に飲みに来たの。案外この時間は静かなんだね。僕、今度からこの時間に来ようかな。」

ふわふわした雰囲気の桃瀬だが酒が抜けると、しっかりとした男らしい性格になる。
桃瀬とは俺がここの常連になった頃から一緒に呑み出した友人?だ。

「そんな寂しいこと言うなって。以外と常連の中にはお前に会いに来てるやつもいるだろ。」
「はは。それは嬉しいなぁ。僕って人気者ー?」
「そうかもな。」

そう言ってやれば大分酔っているのだろう、にへぇと笑って突っ伏してしまった。

「あーあ。……マスターおまかせでカクテル一つ。」

取り敢えず自分の酒を頼み、自分のスーツのジャケットを桃瀬に掛けてやった。
すると桃瀬は顔だけを横に向けて俺の方を見た。

「もぉ。そういう所がモテるんだよ。そろそろ僕のものになってよ。涼太ぁー。」
「それは、前にも言ったけど俺は恋人は作らない。それに、タチ同士では付き合ってもセックスがソフトしか出来ないから。嫌だ。」

そうキッパリと答えると桃瀬は不貞腐れてしまった。
桃瀬と飲み出してからよく、彼に恋人になってと告白され続けた。その度に俺は断っている。1度はOKしそうになったが、いざ向き合うと言えなかった。

そんなこんなで、桃瀬と話しているとカクテルが出来た。
俺はそれを一口のみ息を吐いた。
すると、携帯の着信音が甲高くなった。表示を見てバーから一旦外に出た。

「はーい。」
『先輩。なんですか、こんな夜中に。』

相手は小林だった。寝起きのいつもより低音で少しガラッとした声がエロい。だが、やけに不機嫌そうだ。

「何って、お前が電話してきたんでしょーが。なんか急用だったらヤバいと思って掛け直したんだけど?」
『あぁ。それなら大丈夫です。自分で何とか出来ました。ではおやすみなさい。』
「えぇ。…って切れた…。」

相変わらず冷たいな。まぁ、いいや。
俺は胸ポケットに入れて置いたシートガムを口に入れた。レモンの風味が鼻に抜ける。

「寒っ。中入ろ。」

肩をさすりながら中に入ると桃瀬はもう帰るようで支度をしていた。

「帰るの?」
「うん。好きな人に振られたから。」
「ははは。そりゃ悪かったな。」

そう言いながら桃瀬は案外、しっかりとした足取りで帰って行った。
バーに残された俺はマスターと久々に話した。

「久しぶりに2人だね。マスター?」
「えぇ。そうですね。」

俺よりも少し上の年代のマスターは俺よりも幾分落ち着いている。
マスターはノンケでバツイチらしい。離婚してさまよってたところを桃瀬に拾われた。と前に言っていた。

「ねぇ。マスター。」
「はい。」
「俺さ今月末に社員旅行があるんだよね。京都と奈良の観光。」
「良いですね。紅葉が綺麗ですよ。」
「へぇ。そうなんだ。ちょっと楽しみかも。お土産買ってくるねー。」
「はい。楽しみに待っておきます。」

そんな包容力ある雰囲気に包まれて俺は少しの間その場を楽しんだ。

翌日、連日の早朝出勤から元の出勤時刻に戻した。
デスクに着くと小林が珍しく会社に来てなかった。休みの時とかはだいたい俺に連絡が入るから、恐らく遅めの出社だろう。

「課長~。社員旅行の計画表です。最終確認をパパっとやって貰ってもいいですかー?」

俺は昨日出来た資料と一緒に課長に丸投げをして、新しい企画の原案を考え始めた。

それから数時間後には小林が出社してきた。

「やっと来た。おはよー小林くん。」
「おはようございます。相変わらず気の抜けた人ですね。」
「朝からズバズバしてんのな~。」

いつものように挨拶を済ませて、小林も仕事に取り掛かった。

「暁くん!ちょっといいかな?」
「はーい。今行きます…!」

コピー機の前で寝不足でぼーっとしていると、同期のたなゆいさんこと田中 結子たなか ゆいこさんに呼ばれた。彼女も社内の男を十分釘付け出来るほどの美貌を持っている。
あ、ほら。俺が呼ばれただけで周りの空気がピリついた。大丈夫。俺は女には興味無い。もはや同性と同じ感覚だから。

「どうしました…?」
「ごめんね忙しいのに。ちょっとこの資料のここの計算が曖昧でどうしたらいいのか教えて貰ってもいい?」
「あぁ。いいですよ。えっと、ここは…」

今の計算は俺も最初は意味わかんなかった。それに凄く凡ミスして怒られた記憶があるな。
彼女に教えて、給湯室にコーヒーを注ぎに行くと小林がいた。

「相変わらずですね。」
「えー?何が?」

いつものように、へらへらと笑って聞き返すとその態度が気に食わないようで小林は眉をしかめてため息を小さくついた。

「貴方のその態度ですよ。…はぁ、俺。仕事に戻ります。」

何だろう。最近、小林がおかしい。何がおかしいかと言われたら具体的には言えないがなんかおかしい。まぁ。大丈夫だろう。多分…

それに来週末には社員旅行だし今週は頑張らないとな~。

「さてと。気合い入れ直しますか。」




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