刹那の皇帝

たろ

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第1章

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「い、しょうけい」

宗元が連れて来た男はこの間有鄰の実家で会った男だった。月の下でなく明るいところでみると、彼の色彩はまた異なってみえる。色素の薄い髪は明るい光の下ではさらなる輝きを放っていられるように思う。強い力を感じる瞳はまっすぐに射抜いているが醒月を飾るいくつもの布によって体の影ぐらいしか見えていないだろう。…あの時会った女が醒月と気づくはずもない。

「翔渓!何をしてんだ!すまんな皇帝陛下。こいつたぁなぁ…」

「申し訳ない!手を洗いに出かけたら元の場所に戻ることができなかったのです。」

宗元は少し呆れた風に首をすくめる。

「まぁこうやって道でもなんでもすぐ迷うような奴ですが、本当腕は確かなんでな」

「だが道に迷いやすいなんて…宗元様を信じていないわけではありませんがこの国で最も尊きお方、皇帝陛下の護衛としていかがなものでしょう」

「そういうのも最もだ。でも人についていく分には迷わねぇんだ、こいつが仕事中に迷う時は護衛対象を離れた時。すなわち護衛失格だろう?いいじゃねぇかわかりやすくて。」

「しかしですね…」

頴達と宗元はすらすらと話を進めていくが醒月はそちらに入っていくことができない。どうしても彼に、翔渓に目がいってしまうのだ。

「他の者はいないんですか?」

「いない。さっきも言った通り、一人で若君を任せられる技量や気概なんかは他の者より抜きん出ている。さらに言えばこいつの一番の欠点は方向音痴なことだ。弱点が最初からわかっているんだから扱いやすいだろう」

少しの時間であったがあの夜の出来事は今でも醒月を落ち着かなくさせる。こんな風になるのは初めてあり、その元凶とも言える人物を側に置くことは恐ろしいことともいえる。

それに専用の護衛として雇うとなれば先に醒月の秘密を告げることになるか、距離が近いためにいずれ自然と気づかれてしまうだろう。女の姿を見られた身であるからには翔渓をこちらに取り組むことはなんらおかしいことではなく、むしろ予定調和だっていってもいい。…しかしなぜかこの男には正体を知られたくないという思いが頭をぐるぐると回る。

「皇帝陛下よろしいですね?」

 「あぁ!!!」

急に話しかけられたことで思わず返事をしてしまう。

「…ではとりあえず次の祭事まで」

「あぁそれが一番いいだろう」

「…え?」

翔渓は一歩前に進みでる。

「ありがとうございます。短期間とは言えしっかり努めます。」

…どうやら醒月は自ら決めてしまったらしい。翔渓を仮に採用することを。
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