婚約破棄された私の就職先はワケあり騎士様のメイド?!

逢坂莉未

文字の大きさ
31 / 92

27話 俺に勝ったらなんでも言う事聞いてやるよ(side:アレク)

しおりを挟む



「ヤァァア!!」

ヴィクトリアが真正面から打ち込んでくるのを俺は片手で握った木剣で難なく受け止める。ヴィクトリアはまだやる気で瞬時に後じさり間合いを取る。

ふむ。なかなか筋がいい。
さすが俺相手に大口を叩くだけの事はある。




宰相たちが領地へ向かって一週間が経ち俺の腕のギブスも昨日には外すことができた。だが当分はまだリハビリが必要だと医者に言われたがいい加減、一週間も体を動かさないとなまってしまう。
今朝、いつもより早めに目が覚めてヴィクトリアが素振りをしているのを部屋の窓から見つけて庭へと向かった。庭でヴィクトリアは一心に木剣で同じ動作を繰り返していた。ただ、上から下へと下ろしているのではなく、一本の線を引いているかのようにその所作は美しくそして力強さがある。そして、かなりの使い手と見える。
俺は思わず声に出していた。

「ヴィクトリア、俺と打ち合いしてみるか?」

ヴィクトリアはパッと後ろを驚いたように振り向いた。

「びっくりした! 驚かさないでくださいよ…って、今、打ち合いって言いませんでした?」

「言ったぞ。最近、体が鈍っている気がしてな。お前ならいい練習相手になりそうだ。」

ヴィクトリアは一瞬、嬉しそうに目を輝かせたがすぐに不安そうな表情へと変えた。

「私、熱中すると手加減できなくなりますよ。」

「おいおい、なんだそりゃ。この俺が女相手にやられるわけないだろう。」

ヴィクトリアはむっとした表情になる。本当にコロコロとよく表情が変わる奴だな。まあ、見ていて飽きないが。

「あとで泣いても知らないですからね。」

「そりゃあ、こっちのセリフだな。。」

「ぐぅぬぅ!! ムカつく!」

おーおー地団駄踏んで怒っている、ははっ。ほんと面白いやつ。
さて、煽ってやったんだから、ちょっとは楽しませてくれよ。
そこで俺は面白いことを思いついた。

「なあ、どうせやるなら賭けをしないか? 俺から1本でも取れたらなんでもお前の言う事聞いてやるよ。もし取れなかったらお前が俺の言う事を聞くっていうのはどうだ?」

「いま、なんでもって言った? 男に二言はないわね!」

「おう、いいぜ。もしできたらだけどな。俺が勝ったら……そうだな、昼飯と晩飯を俺のリクエストのものにする。あ、おやつもな。」

「そんな簡単な事でいいの? 」

「いいぜ。あんまり難易度が高いと泣いちまいそうだからな。」

「くぅ~!! ぜーったいに負けないから!3本勝負でいい?」

「いいぞ。」

予備の木剣を手に取る。怪我をした腕はまだ包帯で固定されているが片手で十分だろう。
互いに間合いを開けて木剣をかまえる。

ヴィクトリアの眼光の力強さに俺は内心ほくそ笑む。気合十分ってやつだな。さあて、お手並み拝見と行こうか。

「んじゃ、はじめるか。どこからでもかかってこい。」

「ヤアッ!!」

ヴィクトリアが一瞬のうちに目の間に跳躍して木剣を打ち落とす。
早い! だがそれだけでは駄目だ。
俺は木剣を受け止めてそのまま薙ぎ払う。

「あっ。」

ヴィクトリアの手から木剣が落ちたところで俺の木剣がヴィクトリアの首に軽く当たる。

「俺がまず一本だな。」

「くっ!!」

俺がにやりと笑うとヴィクトリアは悔しそうに顔を歪ませた。

2本目は乱打戦となった。次々と打ち込まれる木剣をすれすれでかわしていく。
なるほど、確かに剣の腕はそこいらの新人の騎士たちよりも確実に強い。女にしておくのは惜しいなとも思うが……。

ヴィクトリアの木剣での突きが俺の首の側を通っていく。そして俺の木剣はヴィクトリアの脇腹に当たった。

「はい、これで2本目。どうした、もう後がないぞ。大人しく負けを認めてもいいのだぞ。」

「だれが! 次は絶対勝つ!!」

おーおー、これはかなり頭にきているな。だがそうなるだけ俺の思うつぼなんだが。
まあ、少し大人げない気がするのでアドバイスしてやることにする。

「お前の腕がたしかなのは認めるが、お前の剣は真っ直ぐすぎる。」

「真っ直ぐ…?」

「剣筋っていうのがわかっちまうんだよ。次はここに打ち込むって目で教えてくれんだ。だから俺には勝てない。」

「目で教える……、わかりましたわ。じゃあ、こうします。」

と言って何を思ったのかヴィクトリアは剣をかまえたまま目を閉じた。

「は? お前、馬鹿か。どうやって俺の攻撃見るんだ。」

「大丈夫です。はじめましょう。」

こいつは本当に面白い。
敵の前で目をつぶるとか勝負を投げているようにしか思えない。
さて、どうするか。そのまま正面から打ち込むのもいいがそれを狙っている可能性もあるな。

俺は正面からワザと殺気をヴィクトリアにぶつける。そうしてすぐに気配を殺して彼女の横に移動し木剣を振り下ろした。


カンッ!

おれは瞠目した。
振り下ろした俺の木剣をヴィクトリアは手首を返し下から木剣で受け止めてそのまま振り上げた。俺の手から木剣が離れて地面に落ちる、そしてヴィクトリアの木剣は俺の首にトンと当たった。

「……見事だ。」

「やったぁーーーー!!!!!!」


「俺はこの間食べた『オムライス』と『しゅわしゅわのスフレケーキ』が食べたかっただけなのに……。」

まさか、自分が負けるとは思わなかった。
飛び跳ねながら喜ぶ彼女を尻目に俺はため息をついた。


しおりを挟む
感想 186

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...