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28話 デートじゃありません!

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「お前さ、なんで俺がここから打ち込むのがわかったんだ?」

アレクが興味深げに聞いてきた。

「ああ、それはあからさまに正面から殺気を飛ばしたのですぐにフェイクだとわかりました。で、多分右か左から打ち込んでくると想定して、左側だと芝生なので音で気づかれると思ったのではないですか? それでレンガで舗装されている右側の方から打ってくるのでなないかと予想しました。」

私がそう答えるとアレクはぽかんとしてそれからすごく悔しそうな顔をして肯定した。

「くそ、そこまで読まれていたとはな。……まあ、いい。俺の負けだ、で、賭けに勝ったのだから何でも言うことを聞いてやる。何がいい?」

そっか、勝った方がなんでも言う事聞くんだっけ。どうしよう。

「そうだ! 今日は1日、私の買い物に付き合ってください。片手だけでも荷物もってくれると助かるので、あと、その前にアレク様のそのヤマアラシみたいな髪と髭をなんとかしましょう! 私、いいお店知っているのでそこへ最初に行きましょう。」

「ヤマアラシって何だよ…って髪切るのは決定事項かよ。」

「もちろんです、そんな不審者みたいな格好の人と一緒に歩きたくありませんもの。……なんでも言う事聞くんですよね?」

「はぁ~、わかったよ! でも俺らが街うろちょろするのはまずいんじゃないのか?」

「そこは大丈夫です! 髪の色と目の色を変えていつもと雰囲気の違う格好をすればバレませんよ。」

いつも、商店街への買い物はそうやって行っている。



私達は朝食を食べてから部屋に戻って着替えた後、玄関に集合した。
アレクはグレーのシャツに濃紺のジャケットとパンツを着ていた。いつも騎士服か部屋着は白いシャツだったので新鮮だ。私は薄い水色の小花柄のワンピースにした。
魔法でアレクの髪の色を銀色と青い瞳に私は黒髪に黒目で眼鏡をかけた。

「色が変わるだけで分かりにくくなるものだな。」

「そうでしょう? では行きますか! 」





初めに向かった先は私が髪を切ったお店だった。

「こんにちはー、今、空いていますか?」

「おや、いらっしゃい!」

先日と同じく店主さんと奥さんが迎えてくれた。

「今日は私じゃなくて、この人をお願いしたいのですけど。」

「おい、引っ張るなって。」

アレクの腕をぐいぐい引っ張りながら店の中へと入る。

「髪を短めにして髭もきれいに剃ってもらえますか。」

「おい! 何勝手に言っている。」

「だって、髪もいつもボサボサじゃないですか洗ってそのままだったら短めにした方が楽ですよ。あと、今は片手が不自由なのですから髭を剃るのも大変でしょう? だからこれでお願いします!」

「お前は、俺の母親かっ!!」

最初はアレクに言い聞かせるように言ったら何故かキレられた。

「まあまあ、仲がいいわねえ~。お二人はお付き合いされているの?」

「「違いますっ!」」

奥さんがニコニコしながら聞いてきたので、すかさず否定する。

「今から出かけるんですけど、こんなボサボサ頭の人と一緒に歩いたら私も変な人と思われてしまいます!」

「なるほど、そういうことなら腕によりをかけてこの兄ちゃんをかっこよくしなきゃあな!」

「いや、別にそこまでしなくてもいいぞ。普通でいい……。」

店主さんが腕まくりをしながらアレクを座席に案内している。アレクは不服そうな顔をしているが髪を切ることは嫌ではないらしい。大人しく席に座った。

私は、店の奥で席を通されて奥さんに用意してもらった紅茶とお菓子を食べながら終わるまで楽しくおしゃべりをしていた。

「今からお出かけするって言っていたけど、デート?」

「っ!」

いきなり奥さんがそんなことを聞いてきて、思わず飲みかけの紅茶を吹き出しそうになった。

「ち、ちがいます、デートじゃありません!  ただの買い物です、あの人は荷物持ちなんです!」

「あら、そうなの?」

「そうです!」

意味ありげに笑う奥さんをなんとか曖昧な笑みで躱していると店主さんの声が聞こえてきた。


「おーい!終わったぞ~。」

「終わったらしいわね、どう変わったか楽しみね。」

「べ、別に楽しみでないですけど、ただ清潔感があれば……。」




髪を切ったアレクを見て胸の鼓動が大きくなったのを感じた。
左右に流すように短めに切られていつもは半分隠れていた目が実は涼し気な切れ長の瞳だと知った。無精ひげも綺麗になくなり意外と端正な顔立ちにヴィクトリアは時が止まったように凝視してしまう。

「やっぱ、変だろ? 切りすぎだって言ったんだけどよぉ。」

アレクはそんなヴィクトリアを見て何を勘違いしたのかブツクサ言っている。

「…っこいい」

「は?」

「すっごい、カッコイイデス! どうしましょう、私、好きになってしまいそうです…。」

「はああああっ!?」

アレクに見惚れたヴィクトリアはそんな爆弾発言をした。


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