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29話 公私混同ダメ、絶対

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「なーんてね、冗談ですよー、そんなに顔を引きつらせないでくださいよ。あんまりにもさっきと別人になったから誉めただけです。」

私は思わず出てしまった言葉を取り繕うようにおどけて言った。

「おい、驚かすなよ。マジで一瞬お前の親父の満面の笑みが見えたぞ。」

「なんでそこでお父さんの顔が出てくるんですか。」

「いや、いろいろ事情がこっちにもあるんだよ。……お前、今みたいな冗談を絶対にルイスの前で言うなよ? 絶対だからな!」

やけに真剣に私の肩に手を置いて言ってくる。

「わ、わかりました! 言いませんからちょっと離れてくださいっ。」

ちかいっ近い!
私はイケメン耐性ないんだからますますドギマギしてしまう。
変ったアレクにときめいてしまったのは否めない。だけど、私、チョロすぎない!? 前世でもそんなことなかったはずなのに。
これはきっとアレクがイケメンすぎるから悪い。
ここで私が私情に駆られてしまうと仕事に差し支える。
今の仕事は楽しいし結構気に入っているのでそれをなくすのは惜しい。

だから
公私混同ダメ、絶対。

このドキドキはイケメンに慣れてないせいだ、きっと。
『美人は三日で飽きる』という言葉もあるしそのうち慣れる。

ヴィクトリアがそんなことを考えているうちにアレクはお会計を済ませて店の外へと出ていた。


「おい、さっきからボケっとしているけど大丈夫か? 次はどこへ行くんだ?」

「ひゃ、はい! ええと、次は買い出しに行きましょう。」

「了解。荷物持ちでも何でもしてやるよ。」

声をかけられて思わず変な声が出そうになったがこの後の予定を話すとニヤリと意地悪そうに妖艶な笑み(あくまでもヴィクトリアの主観)を返してきた。

いや、この人、私の心臓壊す気? わざとやっている?
なんで後光がさしているように見えるの?

「あ、あのちょっと離れて歩いてくれません? …心臓に悪いので。」

「はあ? 何言っ……。」



「きゃああ、だれかっ!!」

私達が歩き出すと同時に近くの路地裏の方から女性の悲鳴が聞こえた。
アレクと顔を見合わせてすぐに声がした路地裏へと向かったら3人の男たちに囲まれている女の人がいた。
男たちの影でよく見えないが若そうで少し見える服装からも貴族の令嬢のようだ。

「ちょっと、あんたたち何しているの?」

「おい、お前が声上げるから人が来ちまったじゃねえか。」

振り向いた3人組に見覚えがあった。

「はあああ、またあんた達なの? いい加減にしなさいよ。」

私が家を出た日に会ったあの3人組がまたよからぬことをしているようだ。痛い目に合ったはずなのにまだこりていないらしい。

「うるせええ! 誰だ、おめぇたちはよ? 痛い目見たくなかったら早くどっか行きな!!」

この間と格好が違うから自分たちをのした相手だとわからないらしい。

「た、助けてくださいませ!!」

男たちの間をすり抜けて出てきた女の子は意外な人物だった。




「ま、マーガレット様!! どうしてこんなところに!?」

「え? 私の事をご存知なのでしょうか。」

「私です。ヴィクトリアでございますわ。」

「ええっ!!? その髪の毛は? ヴィクトリア様はご病気だと……。」

マーガレット様はびっくりしたように私の事を凝視した。まあ髪の色も長さも違うから驚くのも無理はない。

「おい、話は後にした方がいいんじゃないか。」

マーガレット様と私のやり取りを後ろで見ていたアレクが話に割って入ってきた。
たしかにあの3人を何とかしないとゆっくり話もできないわね。

「アレク様、ここは私がやってもいいかしら。」

「はぁ、駄目だって言ってもやるんだろ?」

「もちろん。」

「まあ、死なないようには手加減してやれ。」

アレクは諦めたように許可を出した。

「承知しましたわ。」



「それでは、あなた達。覚悟は言いかしら?」

私は満面の笑みを浮かべながら3人に聞いた。


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