婚約破棄された私の就職先はワケあり騎士様のメイド?!

逢坂莉未

文字の大きさ
36 / 92

32話 兄弟喧嘩ですか

しおりを挟む


「さてと、そちらの件はうまく収まったようで何よりですが、私からアルフレッド殿下に一つ質問がございます。」

「何かな?」

「先ほど、アルフレッド殿下が『兄上』とお呼びしたのはこちらにいらっしゃるアレク様の事でお間違いないでしょうか。」

「あっ……。」

アルフレッドは自分の発言を思い出したのか気まずそうにアレクに目を向ける。

「まあ、ばれてしまったのは仕方がない。いずれは話すつもりだったから問題ない。… 俺の本当の名前はアレックス・オースティンだ。いろいろ事情があって今は騎士団長の養子としてアレク・ハワードと名乗っている。」

「アレックス殿下はたしか第一王子……。」

「そうだ。まあ病弱ってことで表に出てなかったけどな。王位も継ぐつもりはなかったから早々に王位継承権は返上した。」

「それはっ、兄上が勝手に言っていることで俺や父上は納得などしておりません! 本当なら兄上が国王になられるのが順当なはず……。」

「おい、それについては何度も話をしただろう。 俺は側妃の子供でお前は王妃の子供だ、王妃の子であるお前が王になるのが順当だ。それに、俺は王とかそういうガラじゃねえし、お前の方が相応しいと俺は思うぞ。」

「そうやって……。」

アルフレッドが拳を握り締めて俯いた。
それから顔を上げてキッとアレクを睨みつけた。

「アルフレッド?」

「そうやって! いつも兄上は俺に何もかも押し付ける、『お前ならできる』『お前の方が優秀だ』そうやって言葉で縛り付けて、俺は兄上や父上に認めてもらえるように、そして完璧なメグに嫌われないように必死で努力して……。彼女が、クララ嬢が言ったのです『周りを気にして自分を偽ることはない。自由に生きる権利は誰にだってある』と。俺は心が軽くなるような気がしました。それで気づいたのです。父上にとって優秀な者であれば後継者は誰でもよくて、兄上は王になるのが嫌で体よく俺に押し付けただけだって! 俺は国王にならない! 俺は、メグさえいてくれたらいいのです。」

アルフレッドは感情のままに捲し立てるとまた俯いた。
まるで叱られるのを待つ子供の様に少し体が震えていた。

「アル様……。」

マーガレットが強く握りしめているアルフレッドの拳に自分の手を重ねた。

「メグ…。みっともない姿を晒してしまったね。」

アルフレッドは照れくさそうにぎこちなく笑う。

「みっともなくないですわ。アル様は私の事、完璧とおっしゃいましたけど全然、完璧ではありませんのよ? 失敗もしますしそれを隠すのが上手なだけですの!」

マーガレットはエッヘンといった感じの顔をする。

「そうなの?」

アルフレッドはふふっと思わず笑みをこぼした。

「そうですわ! 完璧だったのはアル様のほうです。だから私は追い付くために必死に努力しましたのよ? 今、アル様の本音が聞けて嬉しいのです。やっと信頼してくださったのだと。私はアル様についていきますわ、たとえ平民になろうともご一緒させてくださいませ。」

「メグッ。」

アルフレッドは感極まったようにメグをぐっと抱き寄せて互いに顔を見合わせるとその距離がだんだん近づいていって……って!!

「すとーっぷ!! それ以上の事は場所を代えてください!」

「「あ……。」」

慌てて私が止めに入る。
いやいや、いくら親友でも人様のキスシーンを見るのは恥ずかしい。
我に返ったらしい二人は顔を真っ赤にさせていた。


というか、先ほどから隣のアレクが石像のように固まったままなのだが。

「アルフレッド。」

あ、石像が動いた。

「兄上。すみません、俺……。」

「いや、謝るのは俺の方だ。お前が何でもそつなくこなしていくのをみて勝手に安心していた。お前の苦悩をわかってやれずにすまなかった。」

「兄上…。」

「だが、王位継承の件はまだ待ってもらえないか。今の状況で俺達が王位を巡って争いになるのは避けたい。大公の件もある。俺が何とかするから今は城に戻ってくれないか。」

「わかりました。私は城に戻りますが、マーガレットも連れて行きます。そして父上に彼女との結婚を申し入れます。これだけは譲れません。」

「わかった。だが、マーガレット嬢は全力で守れ。あいつらは何をしでかすかわからない連中だ。」

「わかっています。絶対に守り切ります。」

「よし。……クロウいるのだろ? 出てこい。」

いきなり目の前に全身黒の衣装…っていうか忍者の格好をした男が現れた。

「ううっ… あのいい子ちゃんだったアルフレッド坊ちゃんとアレックス様が兄弟喧嘩をなさるほど仲が良くなるとは生きていてよかったです。」

黒いハンカチで目頭を押さえている。涙もろい忍者さんのようだ。

「おい、止めろ恥ずかしい。」

「クロウっ、坊ちゃんは止めてくれて何度も言っているだろう!」

忍者さんは王子二人には受けが悪いらしい。

「ああ! あなたはヴィクトリア様ですね。」

「はい、私のこと知っているのですか?」

「はい、アンジュ様のお孫様でらっしゃいますから。」

「え? お祖母様を知っているのですか?」

「もちろんでございます。私達、『影』の組織を作ったのはアンジュ様とエマ様なのですから。」

「はあ? それは俺も初耳なのだが。」

「まあ、話したことないので知らないのも無理はないかと。」

「はぁ~、まあいい。それより、この屋敷から二人を城に戻したいのだができるか?」

「もう、手筈を整えています。馬車を用意しましたのですぐにこちらに来ます。」

「よし、後はこの二人の護衛を頼んだぞ。」

「御意。」




しばらくすると馬車が来てアルフレッド様とマーガレット様が一緒に馬車に乗り込んだ。

「ヴィクトリア様、この度は助けて下さってありがとうございます。」

「いえいえ、大したことはしておりませんわ。とにかく、すべての事が終わりましたらお茶でもしましょう。」

「はい!」

そうして、アレクと二人で屋敷から出ていく馬車を見送った。


しおりを挟む
感想 186

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...