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70話 スタンピード(side:アレク)
しおりを挟む訓練場でアレクは一人、もう何時間も黙々と剣を振っていた。
「荒れていますね~。」
そこに現れたのは彼の腹心のロイだった。
「……それで、マーガレット嬢は見つかったか?」
剣を振るのを止めずにアレクはロイに尋ねた。
「それがさっぱり。あれだけ厳重に守られている王宮から女の子がいなくなるなんて不可能に近いです。……マーガレット嬢自身が出ていったのではないかと言われ始めていますが……。」
「アルフレッドが否定しているだろう?」
「当たりです。『攫われたに違いない』と強く主張していまして。近衛達を使って隈なく探させています。」
アレクは剣を振るのを止めて、後ろに立っているロイの方を見た。
「昨日の襲撃事件と続いて、嫌な予感がするな。…何かが起こり始めている。騎士達にいつでも動けるようにと指示を出しておけ。」
「それはもちろん、既に俺から伝えています。」
「流石だな、副団長。頼りしているぞ。」
「それならもっと俺達に頼ってくださいよ。………あなたにブチ切れられると止めるのに苦労するんですよ。」
ロイは長年の付き合いでアレクが怒っている時ほど感情が削ぎ落ちたように表情がなくなることを知っていた。だが、瞳の奥はメラメラとした怒りの炎が揺れていた。
「……リアはどうしている?」
「用意した部屋で大人しくしているようです。今朝、朝食の用意もさせましたし、ヴィクトリア嬢には誰も近づけないようにと言っています。」
「……そうか。」
「ああ、それからクララ嬢が呼んでいましたよ。」
ロイの本来の目的を伝えた。一気に眉をひそめたアレクに苦笑いで返す。仕方ないこととはいえ、アレクにはもう少し頑張ってもらわなければいけない。
「これからが正念場ですよ。」
「わかっている。」
「何があっても、俺は、俺達は貴方についていきます。その事は忘れないでください。」
「ああ、任せたぞ。この件が終わったら、俺が酒を奢ってやると言ってやれ。」
「いいっすね~! 店ごと貸し切ってその店にある酒を飲み切りましょうよ~。」
「まったく、少し甘い事を言ったら調子に乗りやがって。まあそれくらいの働きをしたら考えてやる。」
軽口のやり取りで先ほどのピリピリした空気が少し和んだ。
と、その時。バタバタと慌てたように走ってくる足音が訓練場へ近づいてきた。
「た、大変です! 王都の東の森でスタンピードが発生しました!! 」
「「なんだと!?」」
アレクとロイの声が重なる。
「既に第一騎士団が出動しましたが数が多いとのことで竜騎士団も出動の要請がきております。」
「わかった。すぐに出動すると伝えてくれ。ロイ!」
「了解、すぐに集合させる。」
ロイが走っていく。
「…あの、アレックス団長。もう一つお伝えしたい事がございます。」
「なんだ。」
「その、聖女のクララ様がスタンピードの事を聞かれて『私ならスタンピードを止められる』と申されているようで、団長と同行したいとおっしゃっているようなのです。」
そこへまたパタパタと軽い足音が聞こえてきた。
「アレク様!やっと見つけましたわ。私も魔物退治に同行させてください。私は聖女なのできっとお役に立てます!」
そう言ってクララは楽しそうに笑った。
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