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72話 クーデター(side:国王)

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国王であるアントニオは昨日から次々に起こっている騒動に頭を悩ましていた。聖女候補の襲撃から始まり、アルフレッドの婚約者であるマーガレット嬢が行方不明となり、今度はスタンピードの発生。

「これ以上、何も起こらなければいいのだがな……。」

あまりにタイミングよく色々なことが起こり始めていて嫌な胸騒ぎを覚えた。

「陛下、大丈夫ですよ。何があっても私が、私達がお守り致します。」

同じ執務室で仕事をしていた宰相ルイスが机から顔を上げて言った。

「……お前達には苦労かけてすまない。」

ルイスも昨夜から寝ずに仕事をしていた。娘のヴィクトリア嬢が聖女候補の暗殺容疑の主犯として捕らえられて、気が気ではないだろうに。

「私の仕事は、陛下とこの国を守ることです。そして―― 賽は投げられたようです、ここからが正念場ですよ。」

「ああ。」





静かだった城内がにわかに騒がしくなった。かなりの人間の足音が近づいてくる。

「来たか。」

「来ましたね。」

国王とルイスの短いやり取りの後に勢いよく王がいる部屋の扉が開かれた。

「いきなり、来るとは何事か。……ザカリー。」

ザカリーと共に現れたのは武装した私兵が数十名ほど、彼の後ろに並び立っている。

「突然申し訳ございません、兄上。しかし、犯罪者が兄上の近くにいるとわかったのでお助けする為に参ったのです。」

「犯罪者だと!?」

思わず、国王は席を立ちかけた。

「そうです。そちらにいる宰相は国家転覆を狙う、罪人です。」

ザカリーは不敵な笑みを浮かべてルイスを見ているが、そんなザカリーを見てルイスはゆっくりと席を立つと国王の側に立った。

「はは、ザカリー様。面白いことを申されますなあ。私が国家転覆を狙っているなどと何を根拠におっしゃられているのでしょうか。」

「黙れ。お前は娘を使い聖女の暗殺を企てた、次にアルフレッド王子の婚約者を誘拐した。そして婚約者を人質にしてアルフレッド王子を呼び出し殺める。スタンピードもお前が故意に起こしたものだ。お前の領地の森には例の『災厄』がいる。その魔物をつかいスタンピードを起こさせてその混乱に乗じてアレックス王子も亡き者にする予定だ。」

「はははっ、そのような作り話をよく思いつきますな。そこまでおっしゃるのなら証拠はあるのでしょうか?」

「ああ、証拠はどうにでもなる。…この先の話は追い詰められたお前が国王殺害し、私は兄と王子達の仇であるお前を誅殺する。どうだ、いい話だろう?」

「はっ、そのような三文芝居など誰も見ませんよ。」

ルイスは心底、呆れたような目でザカリーを見た。

「結果さえあればいい。王族に私しかいないのなら、私が王になるのは順当だろう?」

これまでの一連の出来事に、ザカリーが関わっていると言外に匂わせているようなものだが……。

「なるほど。クーデターというわけですか。しかし、ここまで来るともう後戻りはできませんよ?」




「後戻りなどはせぬ、私は前へ進むだけだ。その為に、お前たちはここで死んでもらおう。」

ザカリーの後ろにいる兵たちが一斉に剣を抜いた。


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