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73話 聖女の力(side:アレク)
しおりを挟む「団長! 森の偵察部隊より伝令がありました。依然として魔物たちは王都に向かって進行中とのこと。その数数百以上!!」
現場で指揮を執っていたマーカスに報告が入る。
「くそっ、今でもやっとで抑え込んでいるのにこれ以上は持たないぞ!! 竜騎士団からの連絡はまだかっ!!!」
「もう間もなく到着予定です。」
そこへ、蹄音を響かして馬に乗った一団がやってきた。
「ハワード団長、待たせてすまなかった。」
「お前にしては遅かったな。」
「…申し訳ございません。少しこちらで不測の事が起こりました。で、状況は?」
「森から魔物たちが雪崩のように押し寄せている。単体ではそんなに強くないから排除するのは簡単なのだが、何せ数が尋常ではない。森の中の偵察部隊を向かわせたら、まだまだ魔物たちはこちらへと向かっているらしい。その数は、数百以上ということだ。」
「数百…。今までの比ではありませんね。まるで森にいるすべての魔物が押し寄せているみたいだ。」
今までは小規模のものはあったが、明らかに今回は異常だ。
「俺も魔物を駆除したが、何か妙なのだ。」
マーカスは何かが気になるらしく顎に手を当てて考え込んだ。
「妙とは?」
「奴らは真っすぐに王都に向かっているが、人を害そうとする意志がないように見える。……そうだな。まるで何かから逃げているような感じだ。」
魔物たちが一目散に逃げだすほどの『何か』が森に来たということなのか。
二人の思考は同じ答えとなった。
「とにかく、今は魔物たちを止めるのが先です。王都に奴らを入れるわけにはいきません。」
「そうだな。こちらも負傷者が少なからず出ていてな、お前たちに頑張ってもらわねばならん。」
「承知しました。後は私たちが前線に立ちますので、団長は後方支援をお願いします。」
そこへ遅れて一頭の馬と男女の声が近づいてきた。
「ロイさん、もっとゆっくり走らせてくださいよぉ、お尻が痛いんです~。」
「すみません。もう少しで付きますから。」
馬に乗っている男女を見てマーカスが驚いた表情を浮かべた。
「おい、アレク。あれは一体、どういうことだ?」
馬に乗っているのはアレクの部下のロイと聖女候補と言われている少女だった。
「……彼女がここへ来たいと望んだのです。『聖女である自分ならスタンピードを止められる』と言ってきかなかったので連れてきました。彼女が言うように魔物たちを抑え込めるのなら御の字。そして駄目だった場合でも私が彼女の身の安全を守ります。その後は団長にお預けしてもいいですか?」
「まったく、お前というやつは……。わかったそれでいこう。」
アレクとマーカスがそんなやり取りをしている間に、ロイに馬から降ろされたクララがアレクに駆け寄ってきた。
「アレク様~、やっぱり私、アレク様の馬に乗りたかったですぅ~。ロイさんはすごく乱暴でお尻が痛くなってしまいましたぁ。」
涙目で見上げてくるクララにアレクは微笑んだ。
「私は先行しなければならなかったのです。早く走らせる馬上はクララ嬢にはかなりつらいと思いますよ。」
「でぇもぉ~。」
口を尖らせながら抗議していたが、すぐに思い直したようにアレクを見上げた。
「それじゃあ、帰りはアレク様の馬に乗せてくださいね! 約束ですよ?」
「そうですね。」
アレクはそう言って、先ほどと同じ笑みを浮かべるのだった。
「それじゃあ、さっさと終わらせちゃいましょう!」
まるで家の用事を済ませるようにクララが明るく言った。
「キャンベル嬢と言ったか? 私は第一騎士団の団長のハワードと申すが、一つ質問しても良いかな?」
「はい!どうぞ。」
「スタンピードの意味をご存じかな? 今現在、森から多くの魔物が押し寄せてきている。それを押しとどめているのがやっとなのだ。それをどうやって終わらすことができるのだ?」
「簡単です! 私は聖女なので光の魔法で魔物なんてすぐにやっつけちゃいます!!」
「光の魔法で?」
マーカスは、未だに疑いの目でクララを見ている。
「マーカスさん!! まあ見ていてくださいよ。私の聖女の力がどんなものかすぐにわかりますから。」
クララはそう言うとおもむろに胸の前に手を持っていき祈るようなポーズをした。
すぐに変化は起きた。彼女自体が光をおび始めて徐々に強さを増していく。
その光に何事かと魔物と戦っていた騎士たちが光の元を見た。
「なっ、なんだ? あの光は……。」
「お、おい! 見ろっ、魔物共が!!」
もう一人の騎士の声で押し寄せてくる魔物を見るとその動きがピタッと止まっていた。そして光が強くなるにつれて次々に砂塵のように体が次々に消えていく。
「何がどうなっているんだ!?」
騎士達は目の前で起きている不思議な光景をただ見ているしかなかった。
そして、魔物が全て幻だったのではないかと思うほどきれいさっぱりいなくなる頃、騎士たちが知った事はあの光が聖女候補と呼ばれる少女のものだったということだった。
しかし、騎士達は確信する。少女は聖女候補ではなく紛れもなく聖女なのだと。
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