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78話 甘く見られていたものだな(side:ロイ)
しおりを挟む「ところでロゼちゃん。どこまで行くのかな?」
人の居ない落ち着いた場所で話したいと言われ、彼女について歩いているが一向に足を止まる気配を見せない。ひたすら前を見て目的の場所に向かって歩いている彼女に話しかけてみた。
「もう少し、で、着きます。」
彼女はさっきからこの調子で歩き続けている。
まるで、何かに引き寄せられているかのように。
俺も彼女が案内する場所に興味があったのでそのままついて行くことにした。
「ここです。」
彼女の足がようやく止まった。そこは大きな邸の門の前だった。
「なるほど……。この邸の持ち主と知り合いなのかい?」
「…はい、ここで話を、したらいいと、言われ、ました。」
俺の質問にさっきとは打って変わって虚ろな表情で彼女が答えた。
「…そうか。辛い思いさせてごめんね。リザさん。」
「…っ、どう、して…」
「最初から気づいていたよ。」
ロゼと言うのは偽名で、本当の名前は「リザ」という。彼女は恋人と共に行方不明になっていた女性だ。髪の色や髪型、服装で雰囲気を変えたら俺の目をごまかせると思われていたのか。
随分、俺も甘く見られていたものだな。
「ごめんね。ちょっと辛いかもしれないけど。すぐに良くなるから。」
そう言って、リザの首筋に持ってきた香水瓶にいれた薬を吹きかけた。これは、出撃する前にアレクから借りたものだ。できたばかりの魔法薬と言っていたが……。
「あっ!!」
吹きかけると彼女のうなじの部分からポトリと何かが落ちた。みると白く発行した蜘蛛だった。ひっくり返ったまま苦しそうに足をバタつかせていたがやがて動かなくなりそれから体ごと霧散した。
「大丈夫かい?」
倒れかかった彼女に腕を伸ばして支える。
「ごめん、なさ、い。言う事を聞かないと彼が…、カイが酷い目に合うぞと脅されて……。」
「そう言う事だったんだね。もう大丈夫だよ。君を脅した奴はどんな奴か覚えている?」
「はい、小太りの男の人です。いつもにこにこ笑っていて、それが気味悪くて……。」
リザの話を聞きながら、ローガンの騒動の時に地下室にいたあの男だろうとすぐにわかった。
それからロイが後ろを見て右手を上げて手招きをすると物陰に隠れてロイ達を追跡していた部下が2人、走り寄って来た。ロイはそれぞれに指示を出す。
「彼女を王立の病院へ、話はつけてあるからすぐに受けいれてもらえるだろう。お前は俺と来い。」
「はっ!!」
門を開けて玄関まで歩くが、邸には一切の光がなく、誰も住んでいないように見える。
慎重に玄関を開けようとしたら鍵はかかっておらず、すんなりと扉が開いた。
「気を抜くなよ。」
「はい。」
ロイ達が邸に踏み入れるとバチンという音と共に光がともされた。
広いエントランスの中心に階段がありその階段の上にはあの男と……。
「アルフレッド殿下!!マーガレット様!!ご無事ですか!!」
体を縄で縛られたアルフレッドとマーガレットが見せつけるように長椅子に座らされていた。二人は座らされてまま目を閉じている。そしてその後ろに薄気味悪い笑みを浮かべる男が立っている。
「貴様っ!!」
「おっと、今は寝てもらっているだけですが、あまり近づくとお二人がどうなってもしりませんよ。」
「チッ。」
嫌な汗が背中を流れる。
「お前は、お前たちは何が目的なんだ?」
「すべては我が主君の為です、そして主君が本懐を遂げる時が来たのです!!だからこそ邪魔をして欲しくないのですよ。」
クソッ。どうすりゃいい。この状況はこっちの分が悪すぎる。
「そうだ、いいことを思いつきましたよ!!」
男が楽しそうに話し出した。
「そこの彼は、貴方の部下ですか?」
「…そうだが。」
「王子とこちらのお嬢さんをお返ししてもいいですよ。但し、一人につき貴方の腕一本でどうでしょう。で、それをそちらの部下にやってもらってください。人がどれだけの痛みに耐えられるか楽しみです!!」
「「なっ!!」」
目をランランと輝かせて、とんでもないことを言い出した男にロイ達は言葉を失った。
「さて、どうします?あなた次第で、このお二人の運命が変わるかもしれませんよ。」
どっちにしろこの男は俺達を生きて返すつもりはないのだろう。しかし、今はこの男が機嫌を損ねてアルフレッド殿下達に危害を加えかねない。
「……分かった。殿下を救えるのなら腕一本安いものだ。」
「副団長!!」
「いいからやれ、俺からの命令だ。いいな。」
部下の罪悪感を少しでも軽くさせようと『命令』を出す。
「さあさ!!早く早く!!血がぴゅーと飛ぶのかどばどばと流れるのか楽しみなんだ!!」
男は子供のように楽しそうにピョンピョンと体を揺らして子供のように跳ねている。
俺は床に膝をつき腕を横に伸ばした。悩んでいる様子の部下にもう一度、指示をだす。
やがて剣を抜く音が後ろから聞こえた。俺は覚悟を決めて目を閉じた。
「おやおや、これはまた、何事でしょうか?」
そんな声と共に俺の前に人がいる気配がして目を開けると。燕尾服をきた男が立っていた。
「セバスチャンさん!!」
「いやはや、お嬢様を追いかけてきたはずなのにこんな場面に出くわすとは、驚きました。」
セバスチャンはヴィクトリアが行方不明と聞きすぐに、ヴィクトリアのブレスレットに施されていた追跡魔法の後を追ってきたのだ。ヴィクトリアがいないのは気になるが、彼女には最終兵器がいるから大丈夫だろう。
そう考えると、ブレスレットをヴィクトリアがワザとアルフレッドのポケットなどに忍び込ませたのかもしれない。そしてそれを目印にセバスチャンが来ることも予想していたに違いない。
自分の事よりアルフレッドの身を案じての行動だったのだろう。彼女らしいといえば彼女らしいのだが。
「おまえ~~、ぼくの楽しみをよく邪魔したな~!!もう許さない!!先にこの二人から死んでもらう…っ、あれ?いない。」
確かに先ほどまで長椅子に座らされていたアルフレッドとマーガレットが同じ大きさの人形にいつの間にかすり替わっていた。
「セバスチャン様、お二人はこの通り我らが保護致しました。」
全身を黒の衣装を来た者が二人それぞれにアルフレッドとマーガレットを抱えていた。
「さすがですね。では、お二人はメイスフィールド家へお連れするように、何かの薬品が使われているかもしれないので医者も呼ぶように。」
「承知。」
そう言うとまた霧のように消えた。
「くそっ、くそっ、くそうっ!!ぼくの楽しみを奪いやがって、もう許さない。お前たちはここで死ね!!」
「やれやれ、子どもがそのまま大人になったような方ですね。ロイ様、動けますか?」
「もちろん。だが、奴は強いぞ。」
「そうですねえ、まあ、私達なら何とかなりますよ。さて、では早くあのブタを黙らせますか。」
セバスチャンの言葉に頷いて、ロイは剣を構えた。
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