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77話 反撃の狼煙(side:アンジュ、ルイス)
しおりを挟む傭兵として雇われた男は目の前で起きていることが信じられなかった。
女二人と護衛の爺を始末するだけの簡単な仕事のはずだったのだ。
依頼人はかなり金回りのいい奴らしくしばらくは遊んで暮らせるくらいの報酬を提示してきた。しかも、前金も多めに渡してきた。
『これだけやるのには意味がある、必ず標的を始末しろ。お前の手下は100人ほどいるらしいな。全員、連れていけ。いいか、年寄りだからと言って決して侮るな。女の一人は魔術が使えるからな。』
『へへっ、任せておきな。これほどの大仕事は滅多にないので、うちの連中も張り切りますぜ。』
「チッ、あの男の言う通り全員連れて来た方がよかったぜ……。」
男は今更ながらに後悔した。100人を動かすと足が付きやすいと思い、手下の中でも凄腕の奴らを厳選して連れてきたのだが……。
老騎士は、鎧を着ているとは思えないほどの機敏な動きで次々と馬に跨っている男達を地面へと叩き落していった。
叩き下ろされた男達は地面から生えてきた木のツルにあっという間に拘束されていく。それをやっているのは馬車の中から出てきた女だった。
「あら?もう終わりなのかしら?」
女が笑いながら近づいてくる。
「なんじゃ、準備運動にもならかったぞ。」
「もう!パトリックが張り切るものだから私が何もできなかったじゃない!!」
「すまないな。久しぶりの戦いで血が騒いでしまった。」
「お、お前達は一体、何者なんだっ!?」
「なんじゃ、誰とは知らずに仕事を受けちまったのか?それは残念だったな。」
老騎士はおもむろに頭の兜を脱いだ。
「俺は、パトリック・メイスフィールドだ。元宰相で『最強の騎士』と言えばお前でもわかるだろう?」
「な、なっ!!」
男もその名を聞いたことがある、宰相であるにも関わらず、最強にして最狂の騎士だったと。
その昔、隣国からの強襲に一人だけで突撃し、見事、撃退したと聞いたことがある。
「あはは、懐かしいわね。そんなこと言われている時期があったわね~。」
「君達の『嵐の双子姫』よりはいいと思うのだけどね~。」
「あ、嵐の!?」
パトリックとアンジュのやり取りに男はガクガクと震え出した。
依頼人が多額の報酬を用意する気持ちもわかるがこの二人を相手するんだったら100人でも少なすぎる!!
「も、申し訳ございませんでした!!!命だけはお助け下さいっ……。」
「ん~じゃあ、依頼主の事をじっくり聞こうかしら?」
アンジュはそう言うとにっこりと笑った。
一方、その頃の王の間では、ザカリーの私兵がジリジリと王とルイスの元へ近づいてきていた。
「はははっ、ザカリー殿、兵士をそれくらいしか集められないとは、ちと人望がないのではないか?」
ルイスが我慢できずに笑い出した。
「は?この状況を理解できずに気でも狂ったか?」
「いやいや、十分理解したうえで聞いているのですよ。ザカリー殿、気づきませんか?この騒ぎだというのに騎士達がこちらに駆けつけてこないのをおかしいと思わないのですか?」
「騎士団はすべて今、起きているスタンピードの為に出払っているのだろう?ここへ来る前にちゃんと確認したぞ。」
「ははは、やはり貴方は甘い。すべての騎士がいなくてもこの王城は安全なのです。だからこそ陽動だとわかっていてもあちらに騎士達を向かわせたのです。」
「何を訳のわからぬことを……。」
“プシュッ”
“プシュッ”
「ぐあっ!!」
「うっ!!」
空気の抜けるような音がどこから聞こえたと同時に私兵達が次々に倒れていく。
「なっ!?これはどういうことだ!!」
「なあに、貴方には知らされていませんが、メイスフィールド家は代々、王族を守護する為の存在。貴方のように、兵がいるのですよ。とても優秀な兵達がね。」
ルイスがそう言うと、黒の衣装を全身に纏った者達が次々と天井から降りてきて、一斉にザカリーの周りを取り囲んだ。
「さて、反撃の狼煙でもあげましょうかね?」
ルイスはそう言うとにっこりと笑った。
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