神様の御使いに、婚約指輪の約束を

碧月あめり

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10 years ago

《4》

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「お前、名前は?」

彩寧いろね

 名前を言うと、男の子が彩寧の顔を値踏みするようにじろりと見てきた。

「おれから神様に口添えするにあたって、ひとつ条件がある」

「条件?」

「彩寧、おまえ、おれの嫁になれ」

 少し横柄で、乱暴な言い方だった。

「え?」

 意味が分からず目をぱちくりとさせていると、男の子が彩寧の左手を口のそばまで持ち上げる。

「どうする? おれの嫁になるか?」

 嫁って、お嫁さんのことだよね……。この男の子は、わたしと結婚したがってるってこと?

「大きくなったら結婚しようね」という約束なら、彩寧も幼稚園の頃に男の子の友達としたことがある。何の拘束性もない、その場限りの口約束だったけど、彩寧とその男の子は戯れにでも「結婚しようね」と言い合えるくらいには仲良しだった。

 だけど、今、目の前にいる男の子は、名前も知らない初めて会った子だ。そんな子に、少し高圧的な態度で「嫁になるか?」と訊かれても、ただただ戸惑いしかない。


「あなたはどうしてわたしをお嫁さんにしたいの?」

 彩寧が困り顔で訊ねると、男の子は賽銭箱の向こうの社の奥のほうに視線を向けた。

「力が、必要だからだ」

「力?」

「おまえが嫁になることを誓うなら、おれが願いを叶えるための力を貸してやる」

「願いを叶える……?」

 男の子が社の奥に向けていた視線を彩寧に戻す。

 やや目尻の上がった、意志の強そうな青紫の瞳。その瞳の鋭さと美しさに、彩寧の身体が芯から震えた。

 その感覚は、彩寧が初めてこの神社を訪れたとき、突風のあとの静寂の中で感じたものとよく似ていた。

 唐突に彩寧の前に現れた、不思議な格好をした綺麗な男の子。この子はきっと、限りなく神様に近い存在なのだ。それは、疑いようのない事実に思えた。

「いいよ。あなたのお嫁さんになる」

 少し考えてから、彩寧は男の子の着物の袖をぎゅっと握った。

 彩寧は、どうしても神様にお願い事を叶えてもらいたかった。パパとママに、仲良くしてもらいたかった。

 男の子の「お嫁さんになる」と口約束するだけで神様に願いが届くなら、それほど容易いことはないと思った。

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