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消えた女神の面影
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しおりを挟む「烏月様が外の者を屋敷に入れるのは、ほんとうにひさしぶりのことなんです。それに、長期での滞在を許されたのも」
「でもそれは、私が人の世に戻ることができないから仕方なくかと……」
「いえ。私は、それだけが理由ではないと思っています」
申し訳なさそうにうつむく由椰に、風音が微笑みかける。
「烏月様が由椰様のことを気にかけておいでなのは、きっと、あなたから伊世様を感じるからですよ」
「烏月様の妹君だという、神無司山の女神様のことですか?」
「そうです。伊世様は、人やあやかし達の幸せのためならば、ご自身の力を使うことを厭わないとても優しい方でした。烏月様と伊世様はとても仲の良いご兄妹で、二神山と神無司山を古くから守っておられたのです」
風音の話を聞きながら、由椰はふと、幼い頃に母が語っていた昔話を思い出した。
二神山にはとても美しい双子の神様がいて、その神様たちに守られているから麓の村の人々は安心して暮らせるのだと。そういう話だったと思う。
あれは、烏月と伊世のことだったのかもしれない。
「けれど、五百年ほど前頃からでしょうか。神無司山の麓に暮らす人たちの多くが、外から持ち込まれた別の神様を信仰するようになり……、土地神である伊世様への信仰はだんだんと薄れていってしまいました。神様は人からの信仰がなくなれば、神力が弱まってしまいます。そんな状況で力を使い続ければ、神力が尽きて消えてなくなってしまう。それがわかっていて、伊世様は人や山に暮らすあやかしのために力を使い続けました。烏月様は力の使い過ぎはよくないと止めておられたようですが、伊世様は聞き入れなかったそうです。三百年前のあるとき、力を失った伊世様は、突然姿を消しました。それからです。烏月様が、屋敷に外の者を入れなくなったのは……」
「烏月様は、伊世様のことをとても大切に思っておられたのですね」
「そうですね。烏月様だけでなく、私も兄も泰吉も、伊世様が大好きでした」
「そのような方が、どうして私に加護をくださったのでしょう」
由椰が生贄として捧げられたあと、洞窟の中で三百年も眠っていたのは伊世の力に守られていたからだという。何の縁もない土地神さまが、由椰を守ってくれた理由がわからない。
「それは私にもわかりませんが、もしかしたら伊世様は由椰様になにかを託したかったのかもしれません」
「託す……?」
「はい。由椰様のその目の色は、伊世様にそっくりです。それに、気配も」
「それは……、ここに連れてこられたときにも言われました。私の気配が伊世様によく似ていたから、泰吉さんが『間違えた』のだと。でも、私が皆さんに愛されている伊世様に似ているはずなどありません。烏月様も違うとおっしゃっていましたし。私の色違いの目は、ずっと醜いと気味悪がられてきましたから……」
「何をおっしゃるんですか。由椰様の瞳はとてもお綺麗です」
右側の金の眼を手で隠そうとする由椰を風音が止める。
色違いの目を綺麗だと言われたのは、生まれて初めてだった。
「由椰様とは左右逆ですが、伊世様も金と青の色違いの瞳をお持ちだったのですよ。それは、とても美しくて神秘的でした」
由椰の向こうに伊世の面影を見ているのか、風音が少し遠い目をする。
風音たちに慕われ、姿を消しても尚、烏月の心の中にいる伊世という神様はどのような方だったのだろう。
みんな由椰と似ていると言うが、ほんとうは由椰とは似ても似つかないほど美しい方だったに違いない。その方と同じだというなら、由椰も自分の色違いの目が少しだけ好きになれそうな気がした。
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