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手懐ける才能
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しおりを挟む「烏月様がお許しくださるなら、オレはいつでも喜んで由椰様を人里にお連れしますよ」
泰吉がそういうのを聞いて、由椰は上座に座る烏月をじっと見つめた。
「烏月様、よいでしょうか」
「知らん。泰吉、適当にそそのかすな」
「オレは別にそそのかしてなんかいませんよ。最近、由椰様が料理に使う材料を自分でも見てみたいとおっしゃっていたので、ただ、お誘いしただけです」
「それをそそのかしているというのだろう」
烏月が泰吉をぎろりと睨む。
「そうは言いますけど、烏月様はこのままずっと由椰様をこの屋敷の中だけに閉じ込めておくおつもりですか? 便利になった人の世を見れば、由椰様の心に現世への未練が生まれるかもしませんよ。そうすれば、由椰様の魂も人の世に戻ることができるかも……」
泰吉の説明に、由椰はなるほどと思った。
たしかに、烏月の屋敷で料理をするようになってからの由椰は、現在の人里で食べられているものが以前より気になっている。
この前、泰吉が人里から仕入れてきてくれた料理本にも、由椰が見たことも食べたこともない料理がたくさん載っていた。
そういうものを見て、現在の人里の生活について知れば、由椰の中にも人の世に戻って生まれ変わりたいという想いが湧いてくるかもしれない。
「そうだとしても、人里に行くのは危険だ。泰吉ひとりなら、麓まで一走りだろうが、人間を連れていてはそうもいかない」
烏月は泰吉の提案を快く思っていないらしく、ずっと渋い顔をしている。
由椰との約束を守り、人里から運んできたものを口にすることや祠への捧げものは以前よりも柔軟に受け入れるようになった烏月だが、外の世界自体を受け入れているわけではないのだ。
「わざわざ由椰本人が人里まで降りずとも、泰吉が屋敷に持ち運ぶものだけで不自由はないだろう。今の状況に不満でもあるのか?」
烏月の不機嫌なまなざしに、由椰は「……、いえ」とやや委縮してしまう。あまり余計なことを言って、烏月がまた屋敷の奥から出てきてくれなくなっては困る。
「お鍋もケーキも食べ終わりましたし、そろそろ片付けますね」
烏月の許可が下りなかったことを少し残念に思いながら、由椰は空いた食器を集めて重ねた。それをお盆に載せて立ち上がろうとしたとき、
「では、おれもお供しましょうか」
コーヒーを啜りながら黙って話を聞いていた風夜が、おもむろに口を開いた。
「兄様……?」
風音はもちろん、由椰や泰吉も、いつもスンとした顔で座っている風夜の発言に驚いてしまう。
「勘違いするな。おれがお供を申し出たのは、実家の父からちょうど人里での用事を頼まれているからだ」
「どんなご用事ですか」
「風音には無関係なことだ」
胸の前で腕を組んだ風夜が、不思議そうに首をかしげる風音からふいっと顔をそむける。それから烏月のそばに進み出ると、膝をついて頭をさげた。
「烏月様、私に供として人里に降りる許可をいただけますか」
食器を運ぼうとしていた由椰も、お盆を畳において、風夜の隣に膝をつく。
「もし人里へ行くことをお許しいただけるなら、ぼたもちの材料も探してきます。烏月様に召し上がっていただけるように」
由椰が頭をさげると、しばらく黙り込んでいた烏月が観念したように深いため息を吐いた。
「……、勝手にしろ」
「ありがとうございます!」
由椰がお礼を言うと、烏月がすっと立ち上がる。
「おまえの周囲を手懐ける才能にはほんとうに感心する。伊世以上だ」
「え……?」
金色の目を細めた烏月の顔は、少し呆れているようにも見えた。
「いや。うまいぼたもちを期待している」
唇の端をゆるりと引き上げると、烏月は由椰にそんな言葉を残して和室を出て行った。
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