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時瀬 蒼生・1
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しおりを挟む榊 柚乃との二回目の関わりは、高一のときの体育の授業中。たぶん、文化祭から一週間も経たないくらいの頃だったと思う。
おれ達男子は体育館の半面を使ってバスケットボールをやっていて、残りの半面で女子がバレーボールをしていた。
授業の後半で、四つのグループに分かれて試合をすることになって。おれのグループの試合中に、コートのラインをはみ出たボールが女子が授業をしているスペースへと転がっていった。
たまたま一番近くにいたおれが追いかけていくと、バスケットボールが体育館の壁際に座って見学をしていた女子の足に軽く当たる。その女子が、榊 柚乃だった。
「悪い、榊。それ、こっちに投げてくんない?」
ちょうどいいや、と思って少し離れたところから声をかけると、顔をあげた榊が少し警戒するような目でおれを見てきた。
ゆっくりと榊のほうに転がっていったバスケットボールは、彼女に何の危害も加えていない。
それなのに、こっちを窺うように見てくる榊の表情はやけに強張っていて。おれが悪いことでもしたみたいな、嫌な気分になった。
「そのボール、投げて」
榊の足元にあるボールを指差してそう言ったら、彼女が慌てたように立ち上がっておれにボールを投げてくる。
「ありがと」
「いえ……」
受け取ったボールを軽く持ち上げて礼を言うと、榊がおれを警戒するように身をすくめながら他人行儀に会釈した。
おれと榊は普段、全くしゃべらない。だけど、つい最近、文化祭で女子たちに囲まれていた榊を助けた。
恩を着せるつもりはないし、それをきっかけに榊と仲良くなりたかったわけでもないけど、赤の他人を見るみたいな榊の目付きが少し不愉快だった。
榊って、おれのこと嫌ってんのかな。
思い返してみると、文化祭で女子たちから庇ったお礼を言われたときも、榊は不安そうな顔をしてあまりおれと目を合わせないようにしていた気がする。
榊はおとなしくて真面目なやつだから、おれみたいにしょっちゅう先生から注意されて、悪目立ちしてるようなやつとは関わりたくないのかもしれない。
目付きも悪いから、怖がられてんのかも。
昔、ちょっと気になってた女子にも言われたことがある。「蒼生くん、いつもわたしのこと睨んできて怖い」って。
でも、それだって誤解だ。おれはその子のこと好きで、自然に目で追ってただけなんだから。
デンマーク人とのハーフの母親から「女の子には優しく」ってジェントルマン教育を受けてきたおれは、生まれてから一度も女子に意地悪したことなんてなかった。
それなのに、ただ見てただけで怖がられて、そのときはかなり傷付いた。でもそういうのも、だんだんと年齢を重ねるごとに慣れてくる。
ともかく、文化祭と体育の授業中と、この二度の関わり合いでおれの中でひとつの決定事項ができた。
榊 柚乃には嫌われているみたいだから、今後、一切関わらない。
それなのに……、なぜこんなことになったのか。
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