君だけのアオイロ

碧月あめり

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榊 柚乃・3

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 放課後。陽菜に言われたことを考えてぼんやりしていると、「柚乃」とふいに呼びかけられた。

 顔をあげると、目の前に明るい茶髪の男の子が立っている。

 確認するように彼の左手首に視線を向けて、ドキッとした。目の前の彼の左手首に、いつもそこにあるはずの青のブレスレットがなかったのだ。

 わずかに頬を引き攣らせると、彼が何もついていない左手首を右手で隠すように覆う。その仕草に、胸がドキッと震えた。

 今、目の前にいるのは蒼生くんだ。

 わたしの名前を呼ぶ声や明るい茶色の髪を見れば、蒼生くんのことを認識できる。毎日会っている。毎日言葉を交わしている。わたしの好きな人だ。間違えない。蒼生くんのことは、間違えたくない。

 それなのに、青のブレスレットという絶対的な目印がないだけで、彼が蒼生くんであるという100%の自信が持てなくなってしまう。

「蒼生、くん……?」

「やっぱり、あれがないと不安に思うよな」

 確かめるように語尾上がりに名前を呼ぶと、蒼生くんが左手首を触りながら下を向いた。


「ごめん、柚乃。おれ、目印のブレスレット、失くしたっぽい……」

 蒼生くんからの謝罪と報告に、胸がざわついた。


「失くした、って……?」

「六時間目の体育のときに、邪魔になるから外せって山崎に注意されたんだよ」

 山崎というのは、主に男子の体育を担当している先生だ。生徒指導もやっていて、生徒にも厳しい。強面で、見た目も怖いのだと陽菜や蒼生くんが言っていた。

「もしかして、没収された?」

「いや。外さないなら没収って言われたから仕方なく外して、更衣室のロッカーに置いたんだ。なくならないように、ロッカーの奥に入れといたんだけど授業終わったらなくなってて……」

「そう、なんだ……」

「ずっと着けとくって約束したのにごめん。やっぱり、外すんじゃなかったな」

「でも、外さなかったら没収だったんでしょう?」

「そうだけど。まさかなくなるとは思わねーじゃん。使ってたロッカーの周辺見たり、近くで着替えてたやつにも聞いてみたんだけど、見つかんなくてさ。見落としてるかもしれないから、今からもう一回探してこようと思ってる。だから、柚乃は今日、先に帰ってていいよ」

「一緒に帰らないの?」

「ごめんな」 

 わたしに謝りながら、蒼生くんは少し心許なさげに、何もついていない左手首を右手で触っていた。


 わたしがブレスレットのない蒼生くんの腕を見て不安な顔をしたせいで、きっと蒼生くんのことまで不安にさせている……。
 
『ずっと気になってたんだよ。目印がないと時瀬くん好きな人のことを判別できないくせに、柚乃は時瀬くんの何が好きなんだろうって』 

 ふいに、陽菜に昼休みに言われた言葉が耳に蘇ってきてゾッとした。

 陽菜に言われたとおり、わたしは蒼生くんのことを判別するためにブレスレットという目印に頼りすぎているのかもしれない。 

「目印のことなら気にしなくても大丈夫だよ。蒼生くんのことだったら、ブレスレットがなくてもちゃんとわかるし。他の人と間違えたりしないから」

 わたしは、目印に頼らなくったって蒼生くんのことを判別できる。蒼生くんにというよりは、自分を納得させるようにそう言うと、彼が左手首を撫でながら首を横に振った。

「そんなあっさり大丈夫とか言うなよ。ずっと着けとくって約束しただろ。それに、あれは目印ってことだけじゃなくて、柚乃とおそろいなことに意味があんの」

「……、そうだね」

 蒼生くんの言葉に、胸が詰まった。

 蒼生くんの言うとおり、ブレスレットはただの目印じゃなくて、ふたりでおそろいで着けていた大切なものだ。だったら……。

「蒼生くんのブレスレット、わたしも一緒に探す」

 意気込んでそう言うと、蒼生くんがふっと笑った。

「いや、それはムリだろ」

「どうして?」

「どうして、って。おれがブレスレット失くした場所、男子更衣室なんだけど。柚乃も一緒に入ってきて探してくれんの?」

「あ、……」

 蒼生くんに揶揄うような声で訊ねられて、じわじわと頬が熱くなる。一緒に探したかったけど、男子更衣室ならダメだ。

「な、ムリだろ。だから柚乃は先に帰ってて。見つかっても見つからなくても連絡するから」

 蒼生くんがそう言って、立ち去ろうとする。咄嗟に蒼生くんのカバンの紐をつかんで引き留めると、彼が驚いたように肩を揺らして振り返った。

「柚乃?」

「わたし、蒼生くんが探してるあいだ外で待ってる」 

「ありがとう。じゃあ、早く見つけて一緒に帰ろ」

 蒼生くんの口角があがり、彼の纏う空気が柔らかくなる。

「……、うん」

 おそらく笑いかけてくれているであろう蒼生くんに笑顔を返すと、彼がカバンの紐をつかんだままでいるわたしの手をとった。


 学校の中でも外でも、蒼生くんはわたしの手を繋ぐことをあまり躊躇わない。

 なんとなく近くにいたクラスメートたちの視線を感じたけれど、わたしの手を引いて歩いていく蒼生くんの背中は堂々としていて。繋いだ手のひらに感じる彼の熱にドキドキする。
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