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7.月夜の波紋
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美雲神社に戻って二日後の早朝。
器の蓮が薄桃色の花を咲かせたのを合図に、葵は池の邸宅を訪れた。
もしかすると、御蔭が帰宅しているのではないか。そんな期待で舟に乗ったが、御蔭は未だ不在だった。
青嶺神社から、御蔭の便りもないようだ。
美雲神社と縁戚の青嶺神社とは、池の底にある祠の穴から通じていて、力のある龍神はそこから行き来ができるらしい。
葵もそこに入れば御蔭のところに行けるのではないかと思ったが、力のない者が祠の穴に入ると、どこか遠くに流されて戻ってこれなくなる危険があるそうだ。
だから、鯉は絶対に祠の穴には入らない。
青嶺神社との手紙のやりとりはそこから行うそうだが、確実に手紙を届けるためには龍の鱗の粉が必要らしい。
葵が持っているお守りの中にも龍の鱗が入っているが、それには不思議な力があるようだ。
池の邸宅を訪れた葵に、蓮華は前回と同じように食事を用意してくれた。
音楽と舞を見ながらの食事の席に、葵は澄の姿を探したが、今日は見かけることができない。
橘は料理を運んできたが、ずっと平坦な表情をして、葵に特別話しかけてくるようなことはなかった。
澄のことを気にしながら食事をしたあとは、蓮華に庭へと案内された。
どうやら御蔭は、幼い頃に葵が池の蓮の花を摘もうとしたことを蓮華に話していたらしい。それで、葵が蓮の花を気に入っていると思っているようだ。
蓮の花は好きだ。水中の手の届くところに浮かぶ白や薄桃色の蓮は、何度見ても美しい。
けれど葵は、輝く池の水面を見上げて憂鬱にため息を吐いた。
池の邸宅には一日中光があり、まぶしくきらめいて美しい。それでも、御蔭のいない世界は退屈だ。
前回とあまり変わり映えのしない時間を過ごして美雲神社に帰るとき、蓮華が葵の見送りをしてくれた。
「次にお会いするときは、兄様と葵様の祝言ですね。楽しみにお待ちしております」
すいっと泳ぐように近寄ってきた蓮華が、葵の手を両手で包むようにして握る。
次に池の邸宅に来るときは、御蔭との祝言。そのときには御蔭に会える。
まだ実感はないが、言葉にして言われるとじんわりと胸が温かくなった。
「ありがとう、蓮華さん」
蓮華が離れると、葵を乗せた舟はゆっくりと水の中を動き出した。
しばらく藻が生えた池の地面すれすれを進んでいた舟が、やがて水面に向かって上昇していく。
舟は、水面の月が照らすところを目指して進んでいくようだった。
昼間のように明るかった周囲は、水面が近付くほどに薄暗くなっていく。
途中、数匹で体を寄せ合って眠っていたり、ゆるやかな水の流れに乗って泳ぎながらウトウトしている黒の真鯉を見かけた。
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