One-sided

月ヶ瀬 杏

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彼女が知らないおれの恋のおわり

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 花火大会から一週間過ぎた頃、陸上部の練習がサッカー部と一緒になった。付き合っているときから部活中にお互いに目線を合わすこともなかったけど、南はサッカー部のマネージャーをしている。

 当然だが、別れて以降、一日一回以上送られてきていた南からのラインがパタリとなくなった。ラインの返信なんて少し面倒くさいと思っていたけど、南からの連絡がなければおれのスマホはおとなしい。

 こまめに連絡を取り合うような相手のいないおれのラインには、部活の連絡事項くらいしか届かない。

 南は、部活帰りにコンビニで買った新商品のアイスが美味しかったとか、スタバの期間限定フラペチーノを飲んだとか、どうでもいい情報ばかりを送ってきていたけれど。この一週間、どんなふうに過ごしていたんだろう。

 おれに別れを告げたあと、浴衣の袖を淋しそうに揺らしながらひとりで帰っていった南。あのあと、落ち込んで泣いたりしたんだろうか。ふと一週間ぶりに、別れたあの子のことが気になった。

 加速走、10m+50mを三本走ったあと、水分を補給しつつサッカー部の練習スペースに視線を向ける。

 部員達がボールのパス練習をしている場所から少し離れたところに、お揃いの紺のジャージと部活用のTシャツを着た女子が四人固まって立っていた。たぶん、全員マネージャー。特に何をするでもなく、部員達の練習を見ながら雑談している。

 四人の姿を左端からざっと眺めたおれは「ん?」と小さく首を捻った。四人の女子の中に南を見つけられなかったのだ。

 今日は休んでるのか? でもサッカー部のマネージャーって、五人も六人もいないよな……。   

 もう一度よく見直すと、四人の中の一番右端の女子がなんとなく南っぽい。っぽい、なんて言い方したら、またみなみに「ひどい」って非難されるんだろうけど。遠目で顔がはっきり見えてるわけじゃないし、一週間前の南とは印象が違うから、一目ではわからなかったのだ。

 肩まで届く栗色のロングヘアは顎のラインでバッサリと短く切られていて、髪色も何トーンか明るさを落とした自然なダークブラウンになっている。

「みなみになるのはやめる」と宣言していたとおり、今の彼女は一週間前とは別人だ。

 あの子、ほんとうはあんなだったのか。

 ぼんやり見ていると、サッカー部の部員のひとりが練習を抜けてマネージャーのほうに歩いていく。見たことのあるやつだなと思ったら、同じクラスの弓岡だった。

 二年生の女子マネージャーと何か話したあと、弓岡が南の前で足を止めて、ショートボブになった頭に手をのせる。頭を撫でてきた弓岡に笑い返している南は、案外元気そうだった。

 ピクリと片側の頬が引き攣る。

 おれと別れて落ち込んでるかもなんて、どうしてそんな自惚れた考えが頭に浮かんだんだろう。おれがいなくても南は充分に楽しそうだ。

 女子のほうが切り替えが早いって聞いたことあるけど、南はもうおれのことは忘れて、新しい恋を始めているのかもしれない。たとえば弓岡に、とか。

 別れを告げられたことになんの感傷も未練もないはずだった。おれは南のことが好きで付き合っていたわけじゃないから。

 それなのに彼女の気持ちが他へ向きかけると少し複雑な気持ちになるなんて。自分でも呆れる。

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