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彼女が知らないおれの恋のおわり
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二学期が始まってすぐ。部活に行こうとしていたら、一年の女子に呼び止められた。
顔も名前も知らない子だったけど、中庭で話してもいいかと言われて、何の用件か予想はついた。雰囲気的に、たぶん告白。思ったとおり、彼女は赤い顔で「好きです」と真っ直ぐに好意を伝えてきた。
「ごめんね」
告白される前から決めていた謝罪の言葉を口にすると、彼女はますます顔を赤くして「どうしてですか?」と泣きそうな声で問い詰めてきた。
「梁井先輩、南さんと別れたんですよね? 南さんならよくて、わたしがダメな理由は何ですか?」
上目遣いに見上げてくる彼女の口は不満げにへの字に曲がっている。自分に自信があるんだろう。目鼻立ちのはっきりした、綺麗な子だった。見た目だけで言えば、たぶん南やみなみよりも可愛い。
だけど大きな瞳を潤ませる彼女に、おれの心は一ミリも動かなかった。
「……ごめん。誰かと比べて君が良いとかダメとかじゃないし、理由もないよ」
「じゃあ、今も南さんが好きなんですか? フったのって、南さんのほうからなんですよね?」
「そういうことではなくて。今は誰かと付き合おうとか思ってないから」
冷静な態度で断り続けていると、彼女は釈然としない顔を浮かべながらも、とりあえずは一旦引いてくれた。
南と付き合う前は、なぜか顔も名前も知らない女子からよく告白された。南と付き合っているときは、周囲が遠慮していたのか告白される頻度がグッと減っていたけど……。
どうやら、おれ達が別れたという噂は風の速さで広まっているらしい。それも、おれのほうがフラれたというおまけ付きで。
噂なんてどうでもいいけど、告白してきた女子に「南さんならよくて、わたしがダメな理由は」と聞かれて一瞬だけ思考が止まった。
彼女に返したように、南が良くて彼女がダメだった理由なんてない。
ただ、初めて南が話しかけてきたときに、「わたし、南唯葉って言います」と言われて、耳が無意識に反応したことは認める。
おれは中学生の頃からずっと、幼なじみの喜島みなみへの片想いを拗らせていて。部活の休憩中に急に声をかけてきた「みなみ」という女子の名字に多少の興味が湧いた。
だけど、それは単純に好きな子と同じ名前の響きに、反応してしまっただけ。南に告白を予感させるような呼び出しを受けた瞬間は、いつもどおり断るつもりだった。
それなのに……。
部活が終わって呼び出された中庭に行くと、先に来ていた南は花が散ったばかりの桜の木に向かってひとりごとを言っていた。
「さっきも名乗りましたが、わたし、南 唯葉って言います。初めて見たときから、梁井先輩のことがす、好きでした――! あー、ダメだ。やっぱり好きのとこで詰まっちゃう……」
え、練習してる──?
おれが来ていることにも気付かずに、桜の木に向かって何度も「好き」のところがスムーズに言えるように告白の予行演習を繰り返している南。
変な子だな。思わず吹き出すと、南が真っ赤な顔で振り返った。
「え、あ、梁井先輩!? えっと、今のはですね……」
あたふたと慌てる南は、言われてみればちょっと可愛かったかもしれない。
「みなみ、だっけ。いいよ、付き合っても」
真顔でついそう答えてしまった理由を、実はおれ自身が一番よくわかってない。
気まぐれだというにはあまりに衝動的過ぎたし、恋だと思うほどの激情はなかった。
あのとき南の告白に応えた理由を、おれはこの先もきっと誰かにうまく説明できないと思う。
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