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2.憑いていっちゃダメですか?
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学校でいつもと変わらない日常を過ごしたその日の放課後。
彼氏と帰る約束をしているという瑞穂と下駄箱のところで分かれて、わたしはひとりで駅に向かった。
部活もバイトもしていないわたしは、基本的には学校が終わると真っ直ぐに帰宅する。
共働きで帰りが遅い両親に代わって、洗濯物を片付けたり、夕飯の支度をするのがわたしの役目だ。
無理にやらされているわけではないけれど、仕事で忙しいお母さんの代わりに妹や弟の世話を焼いているうちに、自然とそれが習慣になった。
今日の夕飯、何にしようかな。
家の冷蔵庫にある食材を思い出しながら、夕飯のメニューを考える。
昨日は焼き魚と豚汁と酢の物だったから、今日は洋風なおかずでもいいかも。弟の拓が喜びそうなのは、ハンバーグかオムライスかな。
そういえば、卵と朝食べるパンがなくなってたから、駅前のスーパーに寄らないと。
家事の段取りと今夜の献立を考えながら、IC定期をかざして駅の改札をくぐる。駅構内の電光掲示板を見ると、電車が来るまでにはまだ五分ほど時間があった。
急ぐ必要もなさそうなので、改札の前から伸びているホームにつながる階段をゆっくりと歩いて上る。
いつものように地元の駅の改札に近い3両目のドアの位置に並ぼうとして、わたしはハッと足を止めた。
3両目の乗り場の前に、昨日の放課後も今朝も見かけた青南学院のイケメン男子高校生がいたからだ。
「衣奈ちゃん、よかった。やっと戻ってきてくれた」
わたしの顔を見るなり、彼が嬉しそうに笑いかけてくる。
そんな彼の身体を、4両目の乗り場から3両目に向かって歩いてきた他校の女子高生二人組がすり抜けていく。そのまま2両目の乗り場のほうに進んでいくふたりは、彼の存在にも、自分達が彼のお腹や腕の部分を通過していったことにも気付いていない。
やっぱり、あの人が視えているのはわたしだけなんだ……。
どうしよう……。
わたしに爽やかな笑顔を振りまく彼は、ちょっと顔色が青白いけどイケメンだし、見た目は全然怖そうじゃない。
だけど、どうしてずっとホームの3両目の乗り場の前で立っているのか不思議だし、会ったこともないのにわたしの名前が知られていることも謎だ。
彼から少し距離をとって困り顔を浮かべていると、駅のホームにアナウンスが流れて電車が入ってくる。
その間にも、ホームを歩いて移動する人たちが、彼の身体をすり抜けていく。その様子をしばらく見つめてから、わたしは彼に背を向けた。
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